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お祭りとリア充と金貨

「村の祭りって俺は初めてです!」


 ジャンは仔犬のようなはしゃぎ声をあげた。

 私は彼に母親のように微笑んで見せたが、私こそこの世界の村祭りは初めてであり、転生して初めての外出なのでドキドキしていた。


 あれから三ヶ月も経てば、館のオートマッピングは完了しているし、館の住人達の人物確認も完全に終わっている。

 私への背任者はいない、オールオッケー、オールクリアだ。


 一番重要な人物、予知能力のある執事が私の敵か味方か判断が未だつきかねるが、私が人間狩りという名で貧民街を破壊したのは、彼の予知夢によるものだったらしいのは知ることができた。


 お嬢様、あなたを将来殺すものがディードに潜んでおります。


 あら、では先に粉々にしておきましょう。


 そんなノリだったらしい。


 そして私は覚えていないが、貧民街で力を持っているギャングを私は粉砕し、なぜかジャンを奴隷として連れ帰って来たのだ。

 その後の私は疲れたからとベッドに入り、今の私が目覚めるに続く。


 誰からこの顛末を聞いたか。

 誰からも聞いていない。

 私の脳内でマッピングが自動に行われるようにして、私の脳内に、今までのあらすじを確認できる機能があったからである。


 イベント再生ってやつ?


 貧民街襲撃が、とりあえずイベントカテゴリーにされていて良かった。

 自分が使えるはずの大魔法を知ることができた事は勿論だが、こんなすごい事、知らなかった、忘れていました、は絶対に通りそうにも無い。


 だが、そんな機能においても、アルビーナがジャンを奴隷にした下りが記録されていないのは不思議な話である。

 出会いこそイベントじゃ無いのか?


「奴隷、というか、奴隷にならなきゃ貧民は町に足も踏み入れられないから、俺はこんなお祭りを見れて幸せです。」


 私はもの思いから覚めると、喜色満面のジャンの顔を見つめ返した。

 物凄くウキウキ顔の彼は、友人達と出掛けた祭の日の自分を思い出させた。


「加藤先輩がいるよ!浴衣だ!」


 友人の声に私達は友人が指し示す方向を見つめ、すると、校内で人気者の先輩が浴衣という素敵スタイルで笑っていて、その隣には可愛い彼女もいた。


「リア充め。」

「リアだからこそ加藤はあたしらの憧れなんだろうが!」



「やばす。」


 私は思い出した前世を振り払い、取りあえずリア充になれる今の環境を楽しむことに決めた。

 そこでジャンの腕に自分の腕を掛けた。

 あの日の先輩の彼女が先輩にしていたみたいにして。


「あの、お嬢様?」


「こんな人込みで離れたらあなたは私を守れないでしょう。さあ、祭を楽しみましょう。屋台のお菓子は美味しいのかしら?」


「あ、俺は食べた事も、あの。」


「では、食べて経験しましょう。」


 私はジャンから腕を解くと、自分の手提げからお金を取り出した。

 そのお金は、勿論、この世界の金銭感覚のない私に取り扱えるわけは無いだろうと、ジャンに差し出した。


「はい。先に渡しておくわ。私はお金の勘定が出来ないの。あなたに買い物は任せますからね。」


 ジャンは私に押し付けられた金貨を握りしめると、それを胸に当てて、自信いっぱいの誇らし気な顔をして見せた。


「お任せください。」


 だが、数秒後に、彼は暗い顔付となった。

 首だってがっく~んと下げたのだ。


「どうしたの?」


「あの、祭です。屋台です。金貨なんか大金過ぎて使えません。」


「ああ、そうね。」


 この世界のお金を前世のお金に換算できないからと、私は絶対に高価だろう金貨を一枚渡したのだが、それこそ失敗だったようである。

 そこで手提げを開き、適当に銀貨と銅貨を取り出した。


「これでいいかしら。」


「はい。すいません。」


 彼は金貨を返して来た。

 見返した金貨はこの世界でも珍しいものだったらしい。

 金貨の上に透明なクリップボードが出現したのだ。


          葬送金貨

    王が崩御した後に次の王が即位するまでの

    喪中の空白期間に発行されるもの

    鳩とイチイに似た植物が彫られている


 葬送という墓場のイメージに、私は自分の未来を思った。

 そこで、私はそれを持つ彼の手を押し返したのである。


「あの。」


「金貨は幸運を呼びます。あなたに何かある時の為に持っていなさい。」


「あの。これで俺みたいなのは一年は暮らせそうです。俺はお払い箱ですか?」


 まあ、どうしてそんな悲しそうな顔をするの?

 自分が欲しくとも貰えない生のアジを母が野良猫に上げちゃった時の柴犬ジャンみたく、目の前のジャンは見捨てられた犬みたいな顔つきになっていた。


「違います。いざという時だって言ったでしょう。あなたのいざという時よ。それが私を助ける時でも、お金があった方が身動きが楽になる。そうでしょう?」


 彼は金貨をきゅっと握りしめた。

 それから、その握りしめた拳に唇を当てた。


「あなたを俺は絶対に守ります。この金貨をあなただと思って、俺は一生大事にしてあなたを守り続けます。」


「素敵ね。」


「ほんと~に素敵だねえ。お嬢ちゃん。お金持ちなら俺達にも施しが欲しいもんだねえ。そんなひ弱なガキじゃあなくてさあ。」


 私達の上に大きな影が圧し掛かった。

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