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ハンターをハンターする者達

「初めまして。あなたのナビゲーターとなりますエドガー・バールと申します。」


 焦げ茶色の短髪はウェーブがほんの少しかかっていて、彫りが深いが柔らかい印象の目元で輝く瞳は猫のような緑色だ。

 つまり、ハンサムな優男風であるが、目の前の人物は陸軍の少佐という立場の方という、とってもお堅い人である。


 お堅くもなるよな。


 連続殺人犯で、それも神業に近い剣技を持つ人物を追って捕える部下として、いや、上司として、十二歳の女の子を紹介されるのだもの。

 二十六歳だと自己紹介したバール少佐に、アルビーナの中の人はとりあえず二十三歳になっているわと教えてあげたい。

 ついでに、忙しく立ち働いている作戦本部に案内されて、その担当者の大事な時間をもらっている事を申し訳なく思っていることも。


 とにかく私は原作のアルビーナの威厳を失わないように、でもソファに座る私の向かい合わせに座っている青年将校に礼を尽くすつもりでもあった。

 だって、大事なお願い事が私にはある。


「お世話になります。バール少佐。あなたのお仕事を邪魔するつもりはありません。でも、出来ましたら、この機会にお願いがございますの。」


「何でしょう?」


「私の護衛であるジャン。彼に銃器の扱いを教えて下さります?近接では敵の剣に押し負けてしまいますので、彼に銃を持たせてあげたいの。」


「負けません!腕を落とされたって俺が勝ちます!」


 そんな柴犬気性はこんな場では邪魔なだけね。

 どうして柴犬っぽくなって欲しいなんて望んでしまったのか。

 私は額に右手を当てて溜息を吐き、少佐はクスクス笑いをあげた。


「申し訳ありません。聞いていた方とは違いますから、ハハ、面食らってしまいまして。」


「面食らった?確かにご迷惑でしょう。子供を押し付けられて。」


「いえいえ。本人様に出会ったら、大丈夫だと確信しました。あなたは私達の仕事を邪魔するどころか、素晴らしきアドバイザーになりそうだとも。」


「まあ!お上手ですわね。それで、ジャンへのご教授は叶えられて?私はこの子が大怪我をする姿は想像したくもありませんの。」


 私の隣で牛みたいな唸り声が聞こえた。

 そんな唸り声をあげた人は、自分の両膝に両手をそれぞれ置いて、向かいにいるバール少佐に深々と頭を下げたのである。


「俺の方からもお頼み申し上げます!」


 膝を肩幅ぐらい開いてる男の座りながらのお辞儀は、時代劇の侍が頭を下げている図にしか見えなかった。

 西洋風な世界に置いて、金髪男が和風に育ってしまったとは。

 柴犬に拘ったばっかりに。


 しかし、ジャンに頭を下げられた御仁こそ、ジャンの振る舞いに好感を抱いたようである。

 バール少佐は快い笑い声を響かせた。


「私の部隊では射撃が一番の奴に任せよう。私は意外とへっぽこなんだよ。」


 そして少佐は後ろへひょいと振り向くと、部下の一人らしい大男に声をかけた。


「おい。ウッツ。お前はこのお二方の警護に付け。」


「了解しました。少佐。」


 ぱっと振り向いて私達に頭を下げた男性は、角刈りの黒髪にごつっとした顔立ちで、なんというか、意外にも私のツボだった。

 私は線の細い王子様外見が好物だが、両親世代が大好きだったというアクション映画の俳優も大好きなのである。


「あら、素敵な人。」


 まあ、ウッツは真っ赤になって、子供のようにもじもじするなんて。

 そして、私の横からは、やはり牛のような唸り声が聞こえた。

 ジャンは焼餅焼きというか、私が彼を一番にしないと怒る。

 私は、はあ、と溜息を吐いた。


「ジャン。今日はこのまま仕立て屋に行きましょうか。あなたにもこちらの素敵な方々のようなスーツを作って差し上げましょう。」


「俺はあなたがデザインしたこの服で充分です。スーツを着ても、きっとこちらの方々のように素敵にはなりはしませんし。」


 私は、意固地な柴犬に溜息を吐いた。

 主人の私がお付きの者の機嫌を取っている上に、お付きの者の機嫌を直せなかった事を人目に晒す結果となっているなんて。

 その一連の事を見ていた向かいの男は、口元に手を当てて笑いだした。


「どっちが主人なんだか!」


「お黙りなさいな、少佐。」


「ハハハ。」


 それがここで思い出せる、幸せな時間。

 だって、その後は大きな悲鳴が室内で起きたのだ。

 突然に全身から血を吹いて倒れた男性。


「何事だ!」


 バール少佐は立ち上がり、同じように立ち上がったジャンが私の前に立ち、私は自分の周囲に炎の渦を作り上げた。


 それが良かった。


 敵が狙っているのは、魔人である私であり、魔人に仕える人間に、ではない。

 天井の空調ダクトの柵が勢いよく外れ、影が私目掛けて落ちて来た。


 私の炎は火山のマグマのようにダクト目掛けて吹き出した。

 影は天井に貼り付けられた。


 ガンガンガンガンガン。


 続けて一斉射撃の音が室内で響き渡った。

 時間にして始まって終わるまで一分はかかっていなかっただろう。


 弾丸による穴だらけの死体を検分してみれば、処分したばかりのこのハンターは、我が父を殺した剣術使いでは無かった。

 では、敵は複数だ。

 私達の夜は、これから長く続く。

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