第2話 帰る場所がない
「やだ、何あの子……」
周りからひそひそと噂される声が聞こえる。
無理もない、あんなやりとりを見られたら誰だって驚くだろう
まだ明るいとは言え、ここは繁華街のド真ん中にある居酒屋だ
その中から罵声と共に追い出されたら、好奇の目に晒されるのは仕方のない事だろう
幸いにも、私物は持ち出せたようだ
それならばもうここにいる必要はない、これ以上、好奇の目に晒される必要はないだろう
そう思うと私は走り出していた。
どの位走っただろう
気付けば周りは暗くなっていた
出鱈目に走ったせいでここがどこかも分からない
疲れ切ってフラフラとした足取りで歩き続けた
「これからどうしよう……」
せっかくバイトが決まったのに、まさかあんな職場だとは思ってもいなかった
入れ違いで辞めて行った女性が「ここは早く辞めたほうがいいよ」とは言っていたが、こんな理由だとは
「どうしよう、帰れない、帰ったら叔母さんにまた怒られる……」
帰りたくない。
そもそも帰る場所なんて私にはないのだ。
8歳の時に両親が亡くなって依頼、叔母夫婦の世話になったが生活は酷いものだった
私を預かる替わりに、叔母夫婦は両親の遺産を丸ごと貰ったのだ、私を育てるからと言って
だがお金目当てで預かっただけの私に、愛情などあるはずがなく、最低限の食事と生活しかさせて貰えず、中学を卒業したと同時に働けと、高校すら行かせて貰えなかった。
もちろん中学で正社員など難しく、またバイトも中卒ということで難航し、やっと決まったとしても待遇は酷いものだった
少ない給料も、叔母に生活費だと言われ、ほとんど取り上げられて残るのは雀の涙ほどだけ
さらには叔母に給料が少なすぎる、もっと実のいい仕事しろ!と怒鳴られ
新しいバイトとして選んだのがあの居酒屋だった。
それがあんな事になるとは……
帰ったら、バイトを辞めた事がバレて叔母に怒鳴られるだろう
帰りたくない
もう疲れた、いっそこのまま死んでしまおうか?
そんな事を考えていたら、ふいに、周りがざわざわと騒がしくなったのを感じた
なんだ?と不思議に思い顔をあげた瞬間、乱暴に肩を掴まれた
「君!なんて格好をしているんだ!?困るんだよ!!」
いきなり怒鳴られ、驚いて相手の顔を見るとそこには……彫りの深い異国の男性の顔が目の前にあった
怒鳴られた意味が分からず目を白黒させていると、男性は怒鳴り続けた
「君、異国の人!?困るんだよここには“そうゆうお客“は求めてないんだよ!早く出て行ってくれ!」
なんの事だか分からず、助けを求めて周りを見渡すと、驚きのあまり私は固まってしまった
どこなのだここは?
キラキラとしたシャンデリアが高い天井からぶらさがり、いかにも高級そうなソファーやテーブルが置かれている
麗しいドレスをきたご婦人達が私を見てヒィ!と小さく悲鳴をあげた
「なんていやらしい格好なの!?」「あのように素足をだして!」「ありえないわ!早く追い出して!!」
いやらしい格好とは私の事なの?意味が分からず自分の服を見るが、なんのことはない至って普通の、紺色の膝丈のワンピースで胸元に小さなリボンが付いた、いつもの服だった。