DANGER
Caution
『…ふう』
私は一息吐く。急に例の奴が見られたからちょっと驚いた。聞いてはいたものの、実際に感じられたのは初めてだった。
もし彼処に彼がいなければ、今頃は私が訓練されているのだろう。
同じようにして意識を戻した仲間に目を向けると、彼女もちょうど此方を向いた時だった。目と目があったらバトルだとか、昔の人達はよく言ってたらしいけど、実際それは精神面ではいつでも有り得たんだろうね。尤も、今はガチバトルが起きるわけだけど。
彼女が此方を見て何か言う。超硬化保護硝子と体液性保護エーテルのせいで何を言ってるかは理解のしようも、いや読唇術があればできるのかな。やってみることにした。
唇を注視して、指を立てて口を動かす。
『も、う、い、っ、か、い』
彼女は私の意図を理解したらしく、ジェスチャーを交えながら唇を開く。
『う、い、お、お、い、え』
背の辺りのエーテルをかき混ぜ、彼女は私の方を指差す。
…後ろを見て?
くるりと回り後ろを向くと、そこには私が開発した巨大な機械があった。
それぞれ傷が付けられてしまっており、少女達にそこを修理されている。見慣れた金色の髪の少女達も傷付いていたが、そこからスパークが飛び散らされていることからも分かる通り、少女達も機械なのだ。
勿論、彼女達が自分よりも機体を優勢して修理しているのは理由がある。
『…確認。3体の反応有り。至急、発進準備を開始』
警告が伝えられるや否や、彼女達は白色の機体を点検し始める。3対の腕と2対の車輪付き脚部を有するソレは、彼が純白、絹と名付けた機体だ。
少々の傷は残っているが比較的無事だった絹は、少女が乗り込むと唸るように起動を告げ、射出型発進装置へと駆ける。
絹は射出されるとすぐに姿を消し、外部の■■■■へと飛び出した。
残った私の深紅と彼女の原初は修理を続けられ、少女達は少数が大規模型頭脳基部へ接続する。低く音を響かせて頭脳部は運転を開始し、絹のサポート、残り機体の電磁点検に入る。
彼女へ目を向け、苦笑した。私が見た途端にそういうことが起こる。もしかして、私も器として目覚めたのかしらー。適当な事を思って肩を竦めた私は、彼女がジト目で口を尖らしているのに気付いて目を反らす。反らした先には彼がいた。
彼の方を見ていると、不思議と安心感が湧いてくる。これすらも造られたモノなのだろうか。私はそうは思いたくなかった。軽く手を伸ばし、彼の方へと想いを飛ばすが、勿論届くことは問題ではなく。
『…』
彼を胸に抱きたい。
そうすれば、空っぽな心が満たされる筈だから。
彼女へ向き直り、頷き合う。もう一度戻って、次の事態までに備えよう。彼を安定させて、確実に■■を再生させる。それが今私達に出来る全てだから。
目を閉じて身体から力を抜いていく。エーテルの中でふわりと浮かび上がる私の身体と意識は、次第に薄れて消えていった。
金髪の少女は金属製の喉プログラムを動かし、ケーブルを経由して繋がり合う。
硝子の目が鈍く光を反射し、彼女達は2つの生贄が浄化装置へと取り込まれるのを認識した。
シグナルを出す中央の硝子管を無機的に見つめ、演算処理を開始する彼女達には、今までのプログラムに一切存在していなかった異常な電子回路があった。
それに気付くことなく、彼女達は全身で思考を始める。
静かに、1人が呟いた。
『ALice残存機体32348体。想像神の起動まで残り1315日…情報更新。残り517日』
Ready to Repair?
→NOT YET