第五十三話
「美味しいですね」
「はい」
店内に入り空いているのか四人掛けの席に案内された俺達は向かい合って座った。
席についてコートを脱いだ笹森さんは、黒いタートルネックのセーターを着ていたのだが、その圧倒的な胸部の膨らみに俺は笹森さんが男性であるとか、胸は詰め物だとかいう考えが綺麗に霧散した。
何ていうか、小人が運ぶとき「よいしょよいしょ」と言いだしそうな胸だと思った。
白雪姫な笹森さん。
可愛い。
その小人ごと買い取りたい。
いい値で。
俺なら魔女になんか会わせない。
毒林檎なんか食べさせない。
家事は小人がやればいい。
俺が稼ぐ。
後、ボルダリングできそう。
勿論小人用だけど。
「痛いよう」とか「くすぐったいよう」とか言うんだろうな。
絶対十億回再生するやつだ。
聞かなくてもわかる。
「美味しいですね。食べちゃうの勿体ないですね?」
「そうですね」
近江牛のロースステーキがメインのセットを頼んだのだが、笹森さんはさっきからずっとこの状態だ。
前菜の肉の入っていないサラダからこの調子。
何ていうか、天国にいます状態。
可愛い。
こんなに早く見れるとは。
食べ物をもぐもぐする笹森さんを。
目の前で。
もう自分が食うの面倒になってきた。
笹森さん見ていたい。
保存したい。
一瞬でも見逃すのが勿体ない。
だってこんな笹森さんを見れるの、まだあるのか。
そうだよな。
付き合ってるんだもんな。
付き合ってる。
何か信じられないな。
目の前で白いご飯を頬張る可愛い女の子がほんの少し前まで名前すら知らなかったなんて。
「幸せです」
「そうですか」
「はい、美味しいもの食べてる時って幸せですよね?」
「そうですね」
確かに美味しいものを食べて美味しいと言ってくれる好きな女の子が目の前にいる。
ずっと夢見ていた景色がここにはある。
それだけで幸せだ。
でも怖い。
ずっと望んできたことがこうも簡単に叶ってしまうと。
この世に叶わないものなんかないんじゃないかと言う気になってくる。
いけない。
やはり滝に打たれるとか、護摩行とか考えないといけない。
でも、食べたいもの言ってくれて良かった。
正直竹宮さんの食べたいものでいいですが一番困ると思っていた。
そして笹森さんはそう言うだろうと思っていた。
やっぱり笹森さんのこと何もわかっていないんだなと痛感する。
でもこの痛さが心地いい。
まだまだ笹森さんを極めていないと無力なんだと。
まだまだ先がある。
この先の展開はまだこれからだ。
寺に籠るのはまだだ。
まだそんなとこまで来ていない。
怒涛の可愛さに慣れていないだけだ。
いずれ慣れる。
まあ、多分、だけど。




