第五十二話
「仕事今終わりました」
「今日は早いんですね。お疲れ様です」
「疲れてないです。元気です」
「本当ですか?」
「はい」
「じゃあ、今から一緒にお食事でもいかがですか?」
「せっかくのお休みなのにいいんですか?」
「はい、お疲れじゃなかったら。私も今ちょうど終わったので良かったら」
「何かされてたんですか?」
「はい、ちょっと、まあ」
「あの、何か食べたいものありますか?」
「うーん、お肉、ですか?」
疑問形。
可愛い。
「そうですね、肉食べましょう」
「いいんですか?」
「はい、俺も肉食べたいです。近江牛食べましょう」
「いいんですか?」
何だろう。
笹森さん。
やけに声が高いと言うか。
テンションが高い。
可愛い。
「はい。俺まだこっちきてから近江牛食べてないので」
正確には専門店で食べてないだけで、社員食堂では食べている。
近江牛カレーを。
でもステーキは食べてないから食べてないは嘘にはならないだろう。
「じゃあ、うちのお店のお向かいの通りに牛の銅像あるのわかります?」
「はい」
「その前で待ち合わせでいいですか?」
「はい」
「そこ近江牛の握りが食べられるんですよ。すっごく美味しいんです」
「そうですか、じゃあ牛の銅像の前で待っています」
「はい、すぐ行きますね。待っていてください」
「はい。あの、急がなくていいですので。慌てないでくださいね」
「はい、大丈夫です。じゃあ、切りますね」
「はい」
四回目の電話ともなると流石に切り方は憶えた。
昨日は電話だけで会えなかったから一日ぶりの笹森さんだ。
笹森さんが元気そうで良かった。
何かいいことがあったのだろうか。
ちょうど終わったと言っていた。
何だろう。
まあいいか。
急がないと。
牛の銅像前で待っていると笹森さんはわりとすぐにやって来た。
「すみません。お待たせいたしました」
「いえ、全然待ってないです」
「そうですか?」
「はい」
「じゃあ、入りましょう。私お腹ぺこぺこで」
ぺこぺこ?
何それ、可愛い。
そんなに可愛い日本語あったっけ。
後本当に今日テンション高い。
立体化の話今すべきか?
後今なら何でも言ってくれる気がする。
ああ、マフラー。
まだ家に置いたままだ。
笹森さんの赤色のチェックのマフラーを見て気づく。
その色も勿論似合っているけれど、やっぱりあの白は格別だ。
暗闇の中を、雪をまるで引き連れてきたように浮かんでいた。
遠い彼女がたった一人。
そんな風に見えた。




