第四十八話
コンビニから出ると笹森さんから電話が来た。
「すみません。あの言い忘れちゃったんですけど、明日明後日私お仕事お休みなんです」
「そうなんですか」
「はい、すみません」
「いえ、俺も仕事ちょっと今忙しくてケーキ買いに行けるかわからないので」
「そうですか。お電話は大丈夫ですか?」
「はい、忙しいと言っても、帰れないわけじゃないので」
「そうですか。あの、すみません。私竹宮さんに話したいこといっぱいあって」
「俺もです、俺も笹森さんの話が聞きたいです」
「話さなきゃいけないことも沢山あるんですけど、電話じゃちょっと・・・」
「そうですよね」
「はい、私達お互いのことまだ何にも知りませんよね?」
「そうですね」
「でも、これからいくらでも話せますよね?」
「はい、話せます」
「明日はずっと家にいるので、竹宮さんの都合のいいときにお電話下さい」
「わかりました」
「何か不思議ですね?」
「そうですか?」
「はい、こうして話しているのが不思議です。竹宮さんが追いかけて来てくれて良かったです」
「はい、追いかけて良かったです」
「でも、ゆっくりお話ししたいので、お出かけするの楽しみにしています」
「はい」
「すみません。お仕事頑張って下さい。又明日」
「はい。ありがとうございます。頑張ります。又明日」
「あの、昨日は私から切ったので今日は竹宮さんが切ってください」
「そうですか?」
「はい」
「じゃあ、切りますね」
「はい」
「じゃあ、あの、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「切ります」
「はい」
「あの、どのタイミングで切ればいいですか?」
「えーっと、じゃあ、私が、おやすみなさいって言います」
「はい」
「そしたら、竹宮さんがおやすみって言ってください」
「わかりました。おやすみ、ですね?」
「はい、おやすみ、でお願いします」
「はい、じゃあ、どうぞ」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
俺は玄関のドアを開けた。
立体映像化の話やっぱりしたいと思った。
玄関開けて笹森さんが迎えてくれたら嬉しい。
嫌、嬉しいなんてもんじゃない。
それこそ死ぬかも。
満たされすぎて。
「あの、どうして切らないんですか?」
「あっ、すみません。今切ります」
「切るの難しいですね?」
「そうですね」
「やり直しですね?」
「すみません」
やり直しですね?と言った笹森さんの声は何だか揶揄っているように聞こえた。
こんな声も出すんだ。
可愛い。
可愛いの洪水。
「変えましょうか?何て言ったらいいですか?」
「何でもいいですか?」
「はい」
「じゃあ、お帰りなさいでお願いします」
「え?」
しまった。
欲望が前面に出過ぎた。
「すみません、今のなしで」
「いえ、いいですけど。じゃあ、竹宮さんただいまって言ってくれます?」
「はい、言います」
「じゃあ、いきますよ。今度はちゃんと切ってくださいね?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、いきます。お帰りなさい」
「ただいま」
俺は労せず手に入れることができた感動の余韻でまたも電話を切ることができず、このやり取りを三回繰り返し、貴重な音源を手に入れることができた。
「おかえりなさい」
「いってらっしゃい」
「おはようございます」
「えいっ」
今晩から毎日聞く。
取りあえず電子レンジでコンビニで買ったチーズハンバーグ弁当と肉まんを温めてから。




