第三十四話
雪が降っている。
このままじゃ彼女の小さな身体が雪に覆われこの世界から消えてしまうのじゃないかと思えるほど。
雪が降っている。
そう言えば十二月だ。
いつの間にか十二月になっていた。
出逢ったのは四月だった。
仕事帰りに甘いものが食べたくて、でもいつも立ち寄るコンビニのケーキじゃなくて、帰り道目に入ったケーキ屋に立ち寄った。
その店のことは知っていた。
毎日店の前を通り一番近くの信号を渡って家に帰る。
その繰り返しだった。
でもその日だけ違った。
俺はコンビニが好きだ。
買いたいものをレジに持っていったらいい。
声に出して注文するのが嫌いだ。
だから本当はケーキ屋なんか好きじゃないのに。
好きじゃないはずなのに。
毎日通った。
毎日注文した。
声に出して色とりどりのケーキの名前を。
「あの、何か言ってもらえませんか・・・」
雪の石像に近づきつつ走馬灯のようにこれまでを振り返りそうになっていた俺に彼女が言った。
「えっと、すみません」
「雪、凄いですね」
「そうですね」
「竹宮さん、あの、寒くないですか?」
「大丈夫です。俺寒いの平気なんで」
「そうですか?」
「はい」
雪は益々ひどくなる。
明日は積もっているかもしれない。
「帰りましょうか」
「ああ、あの、すみませんでした。お引き留めして」
「そんな、気になさらないでください」
「あの、家までいいですか?」
「すぐそこですけど、お願いします」
「はい」
今どういう展開なんだろう。
わからん。
一体俺と笹森さんはどういう関係になったのだ。
わからん。
笹森さんの家は本当にすぐそこだった。
「家ここです」
「そうですか」
「一人で暮らしてるんですか?」
「いえ、家族とです」
「そうですか」
そりゃそうだろ。
二階建ての一軒家だぞ。
「あの、良かったらこれ、していってください」
笹森さんは俺の何もない首に自分の白いマフラーをかけてくれた。
その仕草が余りに優しくこのまま目を閉じてしまいたいと思った。
「あの、でも」
「今度、会えた時に返してください。お店以外で」
「えっと、あの」
「傘持ってきますね、ちょっと待っててください」
「ああ、あの、傘ならあります、リュックに折り畳み傘入っているので」
「いつも持ってるんですか?」
「入れっぱなしにしてるので」
「そうですか」
俺は笹森さんがかけたくれた白いマフラーに触れた。
「あったかいです」
俺がそうポツリと言うと彼女は目を丸くし嬉しそうに笑った。
雪の冷たさを柔らかく包み込みそうっと溶かしていくような笑顔だった。




