第十話
「これから十年ずっとこうなんだろうね」
「そうだな」
国立科学研究所に入り、身体を機械化してもらうと十年は此処で働く義務が発生する。
まあ、当然だろう。
国民の血税で身体を機械化しあらゆる感染症で死なない体にしてもらえるのだから。
「まあ十年たったら年金生活だもんね、その前に死ぬかもしれないけど」
「そうだな」
「デザート食べないの?」
「ああ」
神尾が食べているチョコレートパフェは美味しそうだが、甘いものは夜食べるので昼は食べない。
今日ちーちゃんさんがいたらケーキ五つ買う予定だし。
「野球選手がサイボーグになったら、誰がプロ野球なんか見るのよねー」
「ああ」
返事をしたものの何の話か分からない。
神尾の視線の先を見ると社員食堂の大型テレビに三年連続三冠王だという野球選手が映っていて、どうやら彼がヒュドラ―感染症の2型を発症したらしく、彼のサイボーグ化を認めてくれるようファンが署名活動をしているらしかった。
「野球選手がサイボーグになったら、全員同じようにホームラン打てて、速い球投げてさ、個人差がなくなるわけじゃない」
「ああ」
「それに怪我しなくなるわけでしょ、あのよくある怪我を乗り越えっていう美談がなくなるわけじゃない」
「ああ」
プロ野球もスポーツそのものに俺は興味がないが、誰かを応援するには物語が必要なことはわかる。
「そもそもプロ野球機構は選手の機械化を認めてないわけでしょ、この子機械化して助かったとしても野球選手ではいられないわけじゃない、何すんの?」
「さあ、ファンからしたら生きていてくれるだけでいいんじゃないのか」
少なくとも俺はちーちゃんさんが生きていてくれるだけでいい。
ちーちゃんさんのいない世界などありえないし、あってはならない。
「あんた、興味ないでしょ?」
「野球見ないから」
「私も見ないけど、ねえ映画見る?今度あの子と対談するんだけど」
大型テレビには今一番人気のある女優とやらが映っている。
来月公開される予定の愛する女性がヒュドラ―だったらとかいう映画のヒロインらしい。
「見ない」
「好みじゃない?可愛いと思うけど」
「映画が好きじゃない」
「何で?」
「映画館が嫌いだから」
「じゃあ何が好き?」
「何って、別に」
「何か一つくらいあるでしょ、まさかネクロフィリア?」
「そんなわけないだろう、別に解剖は好きじゃない」
「そう、何か私達死体処理するために此処入ったみたい」
この話の流れなら俺は神尾に「何で国立科学研究所に入ったんだ?」と聞くべきなのかもしれないが、俺は神尾に興味がないし、何が好き?の答えを考えていた。
まあ、答えは決まっている。
言えるわけはないが。
好きなものはちーちゃんさん。
そしてケーキ。




