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エピローグ.夏休み

 終業式がばたばたと終わって、夏休みになった。つい最近高校にもエアコンが入ったおかげで学校生活はそれなりに涼しく過ごせていたけど、家ではエコ&節電ということであんまり使えないのが何だなあ。

 いや、エコも節電も大切なのは分かるけど、グリーンカーテンにしてるゴーヤーは私は苦くて好きじゃないし。どうせなら、化粧水とたわしにするからヘチマにしてほしかった。


『かーちゃん、宿題のノルマ終わったかあ?』

「やかましい。明日の分まで終わってるわよ、あんたがうるさいから」


 机の上でかたかたと天板をたたく小石に、ノートを開いて本日の成果を見せてやる。面倒といえば面倒なんだけど先生は宿題を忘れたら怖いし、ニーミももともとが勉強好きということもあってサボるとうるさい。

 そういうわけで、宿題は頑張って進めているのだ。ま、そのおかげで小学校の時みたく、最終週が地獄の宿題漬けってことがなくなったんだからいいか。今年はラスト10日を宿題から解放されて過ごすっていうのが目標だ。去年は1週間遊べたからね。

 あれから、学校内で1つだけ変化したものがある。七不思議の7つ目が確定したのだ。いわく。


『7、終業時刻を過ぎても学校に残っていると、モーツァルトのレクイエムが流れ出す。早く下校しないと行方不明になる』


 ……だ、そうだ。幽霊の話は立ち消え。そりゃ四ッ谷さんは自分の身体に戻ったし、下着泥棒さんは行くところに行っちゃったし。

 で、モーツァルトということで恐らく当人であろうあーちゃんにそのことを教えてやると、『僕みたいな新参者がいいんですかー』とめちゃくちゃ恐縮していたのが意外だった。もっと大喜びすると思ってたんだけどな。

 そうして、もう1つ変化したことがある。これは別に、学校内ってわけじゃないけれど。


『かーちゃんかーちゃん、岬来たぞー』

「あ、ほんと? じゃあ行こうか、ニーミ」


 窓の外を眺めつつ、かたかたと自分の身体を揺らして喜ぶ小石。そいつをひょいとポケットに放り込んで私は立ち上がった。これから私は岬と一緒に、夏休みが終わったら同じクラスに入ってくる髪が長くておとなしいお姉さんのお見舞いに行くのだ。あと、同好会にも入る予定らしい。


「秋野ー、岬ちゃんが来たわよー」

「はーい。今行くー」


 階下からお母さんが呼んでる。急いで部屋を出る前に……もう一度鏡をのぞき込んで、手早く髪を整える。うん、完璧。別にデートしにいくわけじゃないんだけど、やっぱり年頃の女の子としては身だしなみは重要だしさ。

 と、ひょこっとポケットから石ころが顔を出した。私と同じように鏡を見て、楽しそうに髪を整える。石なのに整えられるって、今更だけど何だかなあ。


『おっしゃ、カンペキ!』

「こらニーミ、あんたまでやるか? そもそもセットできてんのそれ」

『えー? いいじゃん、せっかくお出かけなんだしさあ、オレだってこれからはカッコつけるぞー』


 携帯ストラップにくっついている、歩人のマスコット。ストラップこそついてないけれどそれとそっくり同じ姿になった真っ白な小石は、にかっと楽しそうに笑ってみせた。

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