ホムンクルスの箱庭 第3話 第10章『アハト』 ②
おはようございます~(*´ω`)
今日から数話ちょっと悲しい感じになりますが、ハッピーエンド主義のPCたちによってバッドエンド風味の方向は回避されております。
なので、そう言った方面が苦手な方も大丈夫です。
「どうやら、問答してる暇はないみたいだぞ?」
「く・・・わかったわよ。とりあえず預かっておくだけだからね!?」
アハトの言う通り、言い合っている時間はなさそうだ。
アインもノインも触手の勢いに押され、実験施設全体も白い触手が根を伸ばすように広がりつつある。
このままでは全員が捕まってしまうだろう。
仕方なく瓶をしまい、ソフィはアインに声をかける。
「アイン、ツヴァイ、お願い、2人の力で地上までの道を切り開いて。
道さえ開けば、私の飛行魔法で脱出できるはずよ。」
「僕の今の力じゃ皆を転移させることは出来ないけれど、兄さんの力で地上まで貫かせる手伝いは出来るはずだよ。」
「任せてくれ!賢者の石の力、家族を守るために今ここで役立てて見せる!」
アインが刀を掲げるとそれに呼応するように金色の光が身体を包み込んだ。
「兄さん!僕がその力を地上まで繋げるから上に向かって放ってくれ!」
「了解だ!!」
クリスタルのあった天井のあたりに、ツヴァイがこの地下深くから地上に脱出路をつなぐためのアインの力を送る蒼い光のゲートを創り出す。
触手がそんな2人の邪魔をしようと下から伸びてきたのを見て、フィーアがとっさに動いた。
「させない!」
足元にある紋章陣に向かって魔力を送り、それが白く光ったかと思うと、部屋全体に氷の嵐が吹き荒れる。
再構成した紋章陣を中心に形成されたフィーアの魔法が部屋を凍りつかせたのだ。
「紋章術と魔法を組み合わせただと・・・!?」
それを見たノインが驚きの声を上げる。
フィーアの魔法は触手とその中心にいるヌルを氷の中に閉じ込め、動きを止めた。
若干驚いた表情をしたものの、ヌルはその中でにやっと笑ってみせる。
「さすが俺の家族だな。それでこそ食べ甲斐があるってものだ。」
「あう・・・み、皆を私みたいなひどい目に遭わせたりしない!」
怯えながらも、フィーアは懸命にヌルに言い返す。
ずっと前にあったことを少しだけ思い出した。
自分は、このツヴァイに似ているようで全く似ていない人物に襲われたのだ。
それはとても痛くて苦しくて、怖かった。
あの時のような目に、皆を遭わせたくはない。
「ひどいことをした覚えはないさ。
ただ皆が一緒にいられるようになる、それだけのことだろう?
おまえだって別れたままじゃ辛いだろうしな。」
「私は・・・皆が無事ならそれでいい。」
相手が何を言っているのかはわからなかったが、自分の思いはそれだけだ。
「悲しいことを言うなよ・・・おまえに置いていかれたアカネが泣いているぞ?」
「紅・・・音・・・?」
その名前に何か懐かしさを感じると同時に、フィーアは軽くめまいを起こして座り込む。
「大丈夫だ、紅音は僕が必ず取り戻す!だからフィーア、今は一緒に行こう!!」
それに気付いたツヴァイがすかさず手を差し伸べると、フィーアはその手をしっかりと握りしめてこう言った。
「う・・・ん、一緒に行こう、蒼ちゃん・・・っ!」
ちょうどその時、アインの力が宙に向かって解放される。
「ツヴァイ、行くよ!うおおおおっ!!」
アインを中心に力が放出され始めると、辺りに風が巻き起こり始めた。
「ああ!いくよ、兄さん!!」
それはまるで黄金の炎のように立ち上って辺りの触手を焼き払うと、ツヴァイの作ったゲートを通るようにして地上まで建物を突き抜ける。
宙に向かって伸びた眩い黄金の光の柱が消えた時には、ここから地上までの道が切り開かれていた。
「今だ!ソフィ!」
「もちろん!」
アインの言葉に力強く頷くと、ソフィはノインも含めた全員に飛行魔法をかける。
地上までの距離は思ったよりもあった。
それでも上から差し込んでくる光が、そこに確かに帰る場所があることを教えてくれている。
アインを先頭にツヴァイとフィーア、ソフィ、そして最後にアハトがそこに向かって飛び立とうとする。
「アイン!言っておくが私との決着が済むまで死んだら許さんぞーっ!!」
「僕たちと一緒に行かないかノイン!!」
「何を言っている、私が死ぬとでも思っているのか!おまえたちの力を借りずとも、私の脱出経路は完璧だ!」
アインはノインも共に連れて行こうとしたが、彼は他に脱出する方法を持っているらしい。
仕方なく、彼を置いたまま5人は飛び立った。
アインの炎で焼き払われてもなお追いすがるように触手が伸びてくるがそれをアイン刀で切り払い、あるいはフィーアの魔法で凍りつかせる。
捕まえようと伸びてきたものはツヴァイの時空の歪を生じさせる力と、ソフィの風の防御魔法で防ぎつつ5人は必死で地上を目指した。
先陣を切ったアインがまず地上に降り立ち、続くようにツヴァイとフィーアが飛び出す。
地上に着いた3人が穴の淵から下を覗き込むと、アハトとソフィは思っていたよりも下の方にいた。
しんがりを務めた2人は皆が触手に襲われた時に対応できるように、わざと少しだけ遅れて飛んでいたのだろう。
あとは2人が辿り着けば、全員が無事に脱出できる。
誰もがそう思った時だった。
「あ・・・!?」
横から急に表れた触手がソフィの足に撒きついた。
「みんな、先に行って!!」
足手まといにはなりたくないとソフィが一人で触手を外そうとしていると。
「まったく、世話の焼けるやつだ。」
やれやれと言うように近づいてきたアハトが、ソフィの足に絡みついた触手をナイフで切り払ってその背中を軽く押す。
「え・・・?」
背中を押された瞬間、ソフィが感じたのはいつかと同じ違和感。
ドシュ・・・っ!
背後で聞こえる、何かが貫かれる音。
「アハトっ!?」
胸元を触手に貫かれたアハトは、それでも笑っていた。
「あ・・・っ!」
ソフィが手を伸ばそうとしたところで、さらに数本の触手がアハトの身体を貫き、絡みつく。
「やだ!?」
伸ばした手は届かず、アハトは暗い穴に引き込まれていく。
「あ・・・アハト!?」
「アハトーっ!!」
「あう・・・アハト!!」
上からその様子を見ていたアインは、思わずもう一度穴の中に飛び込み手を伸ばしたが間に合わない。
「い、や・・・いやあ!?いやああああっ!!」
目の前で繰り返された光景にソフィは悲鳴をあげる。
「いいから、先に行ってろ。」
「そんな!?どうするつもりなんだアハト!!」
ツヴァイが叫ぶと、アハトはにやりと笑って胸元に手を伸ばした。
開かれた胸のあたりは空洞になっており、そこには巨大なグレネードが入っている。
「なあに、最後の一発が丁度ここにあるのさ。
ここは俺に任せてくれ。」
「いやよ!?そんなのいやああっ!!」
「で、でも、アハト・・・!?」
「アイン、分かるな?」
「ダメだ!アハトも一緒に・・・!?」
アインが助けようと後を追おうとした時だ。
アハトが、今までに見たこともないような真剣なまなざしでアインを見つめる。
「頼む・・・俺のわがままに、これ以上そいつを巻き込ませないでくれ。」
それを見た瞬間、動けなくなってしまった。
その一瞬の迷いの間に、アハトの姿は暗い穴に引きずり込まれていく。
アインはそれでも後を追いたい衝動に駆られたが、隣にいるソフィを見て何とか踏みとどまる。
アハトは・・・彼は僕がソフィを無事に助けることを望んでいるはずだ。
今、アハトのいる場所に自分が向かえば、ソフィまで危険にさらすことになる。
目の前の状況に混乱しきっている彼女をこのままにしておけば、間違いなく触手の餌食になるだろう。
ぎりっと奥歯をかみしめると、アインは泣きながらアハトを追いかけようとするソフィの手を引いて地上に向かって飛び立つ。
「く・・・ソフィ、ここはアハトに任せるんだ!」
「やめてっ!放してアイン!!行かせてーっ!!」
「ダメだ!!あれはアハトが僕たちにしてくれるプレゼントなんだ・・・っ!」
アハトはいつだって仲良くしたい相手にグレネードをプレゼントしようとした。
それがどうしてだったのかはアインにはわからないが、彼にとってはとても大切なことだったのだろう。
だとすれば、彼が持つ最後の1発は自分たちへのプレゼントのようなもののはずだ。
家族たちが無事にこの状況から逃げきるために、彼が最後まで取っておいた大切なプレゼント。
アインも今の状況を享受したいわけではない。
だが、それ以外にもう方法が見つからないのも事実だった。
「ソフィ・・・」
「あ・・・」
微かに届いた声に、ソフィは涙をにじませながらアハトの方を見つめる。
アハトの唇が微かに動いた。
「・・・っ!」
「何!?聞こえない、聞こえないわよ・・・っ!アハトーっ!!」
アハトの姿が闇に消えて行ったと同時に、アインはソフィを連れて地上に飛び出す。
「兄さん!?」
「ごめん!僕はやっぱりアハトを助けに行く!!」
必死に納得しようとしたが、やはり家族を見捨てることなどできない。
ソフィを無事に届けた今、自分が多少怪我をしようが死にかけようがかまわなかった。
アインがそんな覚悟を決めて、ソフィをツヴァイに預けてすぐに再び穴に飛び込もうとした時だ。
穴の中に視界全てをホワイトアウトさせるような閃光が走った。
そして・・・
耳をつんざくような音と共に上がった大きな火柱と爆発によって、地下に続く穴は崩れ、埋もれていった。
安心してください、ハッピーエンドですよ(*‘ω‘ *)




