ホムンクルスの箱庭 第3話 第9章『ヌル』 ③
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それはまだこちらの研究施設で暮らしていた頃のことだ。
あることがきっかけで、ソフィとアハトは組織が抱えていたある秘密に深く踏み込んでしまった。
『これ以上はもう無理よ!何とかして逃げましょうアハト!』
『ああ、そうしたいのは山々だが簡単には逃がしてもらえそうにないぞ。』
その頃、ソフィは工作員として、アハトは研究員としてこの施設に所属していた。
そんな2人が地下4層のシェルターからあふれ出した化け物を食い止めることは容易ではなかった。
「なんなのよこいつら、倒しても倒してもきりがない!」
何度倒しても化け物たちは、スライム状の何かになったかと思うとすぐに元に戻ってしまう。
「罠を作動させるから隙を見て上にかけあがれっ!!」
アハトが制御盤の一つを操作して部屋に仕掛けられているトラップを発動させると、いたるところからレーザーが化け物に打ち込まれ一瞬動きを止める。
しかし・・・
「行くぞソフィ!」
「アハト危ないっ!!」
「しまった・・・っ!?ぐ・・・っ!」
いつのまにか近くに来ていた触手が振り下ろされて制御盤を叩き潰した。
寸前のところで避けたはずだったのだが、若干間に合わずに触手の先にある鋭い爪のような器官がアハトの腹部を裂いた。
「アハトっ!!」
「いいから・・・先に行けって・・・」
「嫌よ!一緒に逃げるわ!」
トラップが再び発動したタイミングで、ソフィはアハトを支えながらなんとか階段を上った。
幸い化け物はシェルターから出きっておらず、移動速度もそこまで早くはない。
早く・・・あれが追い付かないうちに早く逃げないと。
「ソフィ、俺はいい、おまえだけでも逃げろ・・・」
「馬鹿なこと言わないで!ここであんたを置いて逃げられるわけがないじゃない。」
ソフィとアハトは恋人などと言う甘い関係ではない。
それでも、これまで数多の修羅場を共にくぐりぬけてきた仲間だった。
「悪かったな、俺の好奇心のせいでお前まで余計なことに撒き込んで・・・」
地下4層に踏み込むきっかけを作ってしまった責任を感じていたのだろう。
アハトは申し訳なさそうにそう言った。
「そういうのは言いっこなしでしょう?
それに、どちらかというと私たちははめられたみたいだし。」
「・・・確かにそうだな。
地下4層にこんなにも簡単に潜り込めたのは、初めから俺たちが何をするかわかっていたってことなんだろう。」
「ええ、だからあんたのせいなんかじゃない・・・ここを無事に逃げ出せたらどこに行こうかしらね?
もうこの施設にはいられそうにないし。」
そんな前向きなソフィの意見に、アハトは鳩が豆鉄砲を食らったようなきょとん、とした表情をした後にくくくっと低く笑った。
「おまえは前向きだな、ソフィ・・・」
「ええ、どうせこれまでの人生後ろ向きなことばかりだったんですもの。
先の未来くらい前向きに検討したいわ。」
アハトを支えながらソフィは茶目っ気たっぷりに片目をつぶった。
普通の人間の半分ほどの背しかないソフィには、アハトを支えるのは重労働だったがそれでもアハトの気を紛らわすために笑顔で言ってみせる。
「そうか・・・そうだな、もしここから無事に出られたなら、俺もお前のように前向きに生きてみたい。」
「そうね、根暗な研究員なんてあんたには似合わない。
どうせなら私と一緒にどこかの国でスパイ活動でもしてみる?
そういったこといろいろと教えてあげるから。」
「そうだな、ここを出たところでまともな生活は性に合わなそうだ。
そういうのも、わるくないかもしれん・・・」
階段を上り続けている間も、2人の足元はアハトの身体からとめどなく流れる血で染まっていた。
「ほら、上の明かりが見える。あとちょっとだからがんばって!」
ソフィが見上げた先には上の階への出口があった。
あと少しでこの暗闇から抜け出すことができる。
そう思った時だった。
「え・・・?」
アハトの重みがなくなったかと思うと、急にトンっと背中を押され、ソフィは前につんのめって数歩前にたたらを踏んだ。
背後からは何かを貫くような鈍い音が聞こえる。
「アハ・・・ト・・・?」
いつの間に追いつかれてしまったのだろう?
ソフィが振り向いた先でアハトはその身体を触手のようなものに貫かれていた。
口からごほっと赤い血を吐くとアハトはニヤッと笑って。
「ソフィ・・・おまえは俺の分まで生きろ。」
通路の壁についていた非常用のシャッターのボタンを、ガンっと殴るようにして押した。
「アハト・・・!?やだ!何やってんのよ開けなさいよ!?」
シャッターを必死に叩いたが、ソフィの力ではそれはびくともしない。
「なあに、きっとあの世ってやつも悪くはないさ。少なくともここよりはな。」
「ばかばかっ!一緒に逃げるって言ったでしょう!?
どこかの国でスパイするって言ったじゃない!」
「ああ・・・すまないな。」
キンっと何かのピンを抜く音がした。
「その約束はちょっと守れそうにない。
おまえは混乱に乗じて逃げろ。
このグレネードが俺がおまえにしてやれる最初で最後のプレゼントだ。」
「アハトーっ!?」
そこから先のことはよく覚えていない。
爆風に飛ばされて上の階に転げ出た自分の背後に、誰かが立っていた。
唯一覚えていることがあるとするなら、背筋がぞっとするような冷たい瞳のその人物が最後に言った言葉。
「さあ、一つになろうじゃないか。大丈夫、すぐにその男も俺が取り込んでやるよ。」
「や・・・やめなさいっ!!」
記憶の中ではなく、現実で聞こえたその言葉にソフィは思わず叫んだ。
再び手を伸ばしてきたヌルを見てソフィはアハトの手を握る。
「アハト・・・皆で一緒に逃げるわよっ!!」
「ソフィ、悪いんだが、俺の研究施設にあったポッドの中にこれを入れておいてくれ。」
しかし、首を横に振ったアハトは懐から先ほどの赤黒い何かの入った瓶を取り出して渡してくる。
「それで完成するんだ。」
「・・・っ!あんたがやりなさいよ。」
「いいや、それはどうやら無理そうだからな。」
ソフィの手を放すとアハトはヌルに向き直る。
アハトの言うとおり状況は動きつつあった。
ヌルの周りに固い木の枝にも見える白い触手が生え始めている。
それは次第に辺りを侵食し木の根が張っていくのように部屋に広がって行く。
「逃げる?俺から逃げられるとでも思っているのか?」
ヌルがくすくすと笑っていると、いつのまに目を覚ましたのかこんな声が聞こえてきた。
「ああ、こちらにいらっしゃったのですね。」
それはさっきまで気絶していたはずの母親だった。
母親はヌルの姿を見ると陶酔しきった表情を見せる。
「これであなた様の念願がかなうのですね・・・!」
その隣では同じく目を覚ました父親が、何とも言えない表情でヌルと隣にいる母親を見ていた。
「ああ、そうか、そう言えばおまえもいたな。
確かにおまえはみんなを連れてくるのにとても役に立ってくれた、褒美をやろう。」
母親の足元の地面が割れて、触手がその身体を狙って鋭く突きだされる。
「させるかあああっ!!」
ギリギリのところでアインが間に入りその触手をなぎ払うが、その一部が母親の肩をかすめて血がにじんだ。
「そんな・・・この私を切り捨てると言うのですか。」
「最初からおまえの存在なんて俺の眼中にないよ。
ただ、使い心地のいい駒だったから生かしておいただけだ。
何度も言ってるだろう?俺は家族以外に興味はない。
よって、取り込む価値すらない。
必要がなくなればおまえは単なる俺の餌さ。」
ヌルの言葉にがっくりとうなだれた母親の肩を、父親がそっと慰めるように抱き寄せる。
「ジョセフィーヌ、最初からわかっていたことだ・・・
僕も君も、初めから彼に利用されていただけだったんだよ。」
その様子を見て、アインはもう一度両親に話しかけた。
「父さん、母さん、僕たちと一緒に逃げるんだ!僕たちの家へ帰ろう!!」
そう言われて父親は驚いたようにアインを見た。
「いいのかい?僕たちはおまえを利用し続けてきた。
これから先、同じようなことをしないとは限らないんだよ?」
施設長然とした口調ではなく、ごく自然な話し方でそう言ったクリストフにアインはにこりと笑って。
「何を言ってるんだ父さん。僕は利用なんてされていない。
ただ父さんと母さんに、家族に喜んでほしくてこれまで頑張ってきただけだ。
そしてそれはこれからも変わることはない!」
「アイン・・・」
「母さんも、それでいいね?」
「・・・私は、もうどうでもいいわ。あなたたちの好きになさい。」
よほどショックだったのか、母親は自暴自棄になりながらそう言い捨てた。
「フィーア、父さんと母さんをそうちゃんの中に避難させてくれ!」
「で、でも・・・」
まだ2人を信用しきれないのかフィーアは戸惑っているようだった。
「ドライ、グレイさんだけじゃ心配だ。
子供たちに何かされないようにおまえは一緒に中に入ってくれ。」
「な、なによ!なんで私がそんなことしなきゃいけないの!」
「ドライ、父さんと母さんを信じてくれ。」
「犬・・・あんた、やっぱりおにいちゃんと戦うつもりなの?」
「彼が話を聞いてくれない以上、止めるなりなんなりしないといけない。
そのためにも、今は父さんと母さんを安全なところに避難させないと。」
「お願いドライ、子供たちを守ってあげて?」
ツヴァイの言葉には反論したドライだったが、フィーアとアインに説得されて仕方なく頷くと。
「わかったわよ・・・さっさとけりをつけなさいよ!
そうじゃないと子供たちなんて放っておいて出てきちゃうんだからねっ!!」
納得いかないようにしながらも、両親と共にそうちゃんの中に消えた。




