ホムンクルスの箱庭 第3話 第8章『歪んだ愛情』 ⑦
今日は何とか投稿間に合いましたー( ノД`)シクシク…
変なところがあったらあとで直します(`・ω・´)
砕けた紅い水晶がいくつもの破片となってヒュドラの上に落下した。
ギャオオオオ!
水晶が砕けたことで形を保てなくなったのか、ぐにゃり、と歪んで崩れたかと思うと断末魔の悲鳴を上げながら紋章陣に沈んでいく。
「おや、あちらは終わってしまったか。」
まるでこうなることが予想済みだったかのようにあっさりとした口調で言ってから、父親はアインに視線を移した。
「さあ、どうするんだいアイン。
これで人数的には君たちの方が有利になったわけだが、力で私たちを屈服させるかい?」
ヒュドラが消えたせいか、いつの間にか術師側の紋章陣も光を失い、子供たちを包んでいた淡い光も消え去っていた。
「さすがに君たち全員に同時に攻撃されたら、私もジョセフィーヌを守り切るのは難しい。
だが、アイン、君の言う正義は暴力で相手に言うことを聞かせるものなのかな?」
にこにこと笑う父親にアインは首を横に振ってこう答える。
「僕だって父さんと母さんと戦いたいわけじゃないんだ。
でも、必要なら僕は戦うよ。全員で戦う必要なんてない。
父さんと母さんを止めるのは僕の役目だ。」
「何を言っているのアイン。もうすぐここにはあの方が来る・・・あなたたちも子供たちも、皆あの方の糧になるのよ?」
「母さん、僕は家族を犠牲になんてさせない。
あの方ってやつがどんな奴だったとしても、誰も糧になんてさせるもんか!
僕はあなたを止めて子供たちを助けてみせる!そしてみんなで一緒に帰るんだ!」
「いいでしょう、成長したあなたを見せてちょうだいアイン。
あのお方のために、あなたの成長を確かめるのも私の役目だわ。」
父親を押しのけて、母親が前に出てきた。
そして、どこか愛しそうな視線をアインに向けて両腕を広げてみせる。
「僕は家族を守るんだ・・・っ!それだけは絶対に違えたりしない!!」
刀を収めたアインは、拳を強く握るとアインはそれを母親の腹に向かって突き出した。
以前、ドライにやったように、気絶させて連れて行こうという判断からだ。
ところが、寸前で間に入った父親の身体が一瞬、光ったかと思うと両腕をクロスしてその拳を受け止めていた。
「・・・邪魔をしないでくれる?クリストフ。」
「君が倒れるのを黙って見ているわけにはいかないよ。」
「そうね、私が倒れたらあなたも倒れるものね。」
「そういう意味ではないんだけどね・・・まあいい、そのおかげで私はこんなこともできるんだから。」
言うが早いか父親が、アインに向かって体当たりを仕掛けてくる。
「と、父さん!?」
前のめりに突っ込んできたところを思わず受け止めたアインに対し父親はにっこりと笑うと、懐から爆弾を取り出し起爆した。
「な・・・っ!?」
その爆発にまともに巻き込まれたアインは傷を負いながら、何事もないかのようにそこに立っている父親と距離をとる。
「私が研究しかできない錬金術師だと思って甘く見たのかいアイン?
敵を正面から受け止めるなんてね。」
「どうなってるのよ・・・!?」
間近でそれを見ていたドライにも、何が起きたのかは全く分からなかったようだ。
爆弾を抱えて飛び込んできたにもかかわらず、当人は無傷など通常ならば考えられない。
特別な防護服を着ているわけでもなく、彼は普通の研究者と変わらない白衣のままだというのに。
「これが私のジョセフィーヌに対する愛の力さ。」
「く・・・これが父さんの母さんに対する愛の力だというのか!
でも、僕だって家族に対する愛は負けない!!」
叫んだアインの身体から金色の闘気が立ち上った。
その闘気はアインの身体全体を包み込み、再び抜き放った愛刀にも宿る。
「アイン・・・あなたもようやく賢者の石を使えるようになったのね。
これであの方の良い糧になるわ。」
攻撃されそうになっているというのに、母親はそんなことはもはやどうでもいいようだ。
ただ純粋に、アインが賢者の石の力を使いこなせるようになったことを喜んでいる。
「うおおおおおっ!母さん、正気に戻ってくれえええっ!!」
「いらっしゃいアイン、あなたの価値を私が確かめてあげる。」
振り下ろされた刀から放たれた闘気は、衝撃波となって父親と母親を吹き飛ばした。
「ああ、こんなに成長しているなんて、うれしいわアイン。」
床に転がった母親がけほけほと咳き込んで身体を起こそうとしたところで、間合いを詰めたアインが刀を振り下ろす。
「ジョセフィーヌっ!」
父親がそれを庇うように覆いかぶさり、アインの振り下ろした刀がその身体を強打した。
アインが振り下ろしたのはもちろん刃側ではなく峰打ちを狙ったものだったので、父親はそのまま地面に叩きつけられてしまう。
それを見た母親は少しだけ困ったように笑って。
「馬鹿ね・・・私のことなんて放っておけばいいのに。」
衝撃波によって吹き飛ばされたダメージが思っていた以上に大きかったのか、父親にそう語りかけながら気絶した。
「ジョセフィーヌ・・・君が眠るなら僕も共に眠ろう。」
そして、母親の頬に触れるとどういうわけか父親もまた気を失って倒れる。
2人が気絶したのを確認してから子供たちに駆け寄ったアインは、その一人を抱き上げて焦ったように言った。
「大変だ、子供たちが息をしていないよ!?」
紋章術に力を奪われるのは予想以上の負担だったのか、それとも、初めから仮死状態にされていたのかはわからないが、このままでは子供たちが死んでしまう。
少なくとも、アインにはそう思われた。
「兄さん落ち着いて、きっと僕たちなら何とかできるはずだ。
錬金術で傷ついた身体でも、僕たちの賢者の石なら出来ないことを可能にできるはず。諦めちゃだめだよ、兄さん。」
それに対し、こちらに駆け寄ってきたツヴァイが子供の一人に触れて状態を確かめてからそう言った。
「そうか・・・そうだね!!」
ツヴァイの言うとおり、きっと自分たちの賢者の石ならそれを可能にできるはずだ。
だが、アインにはどのような方法で子供たちにその力を届ければいいのかがわからない。
どうしようか悩んでいると、おずおずとフィーアが話しかけてきた。
「あの・・・私の力で子供たちの心に干渉してみる。
この紋章陣はもともと子供たちに干渉するために作られたものだから、それを使えば2人の力を子供たちに届けられるかもしれない。」
フィーアの力はドライとは逆に、善意の感情で相手の心に干渉するものだ。
それによって相手を操ったり、あるいはその意思を伝えることを得意としている。
紋章陣とその力を応用することで、賢者の石の力を届けることも可能なはずだ。
悪用すれば相手を意のままに操ることも出来るその力を、フィーアはあまり好ましくは思っていないのだが、今だけはその力を皆のために役立てたいと思えた。
「フィーア、お願いできるかい?君の力ならそれができるはずだ。」
「うん、2人の気持ちを皆の心に届けるから・・・アイン、紋章陣に触れてくれる?」
力強く頷いてフィーアは紋章陣の中心にひざまづくと、祈りをささげるように手を組んで目を閉じた。
それと同時に足元の紋章陣が淡い光を放つ。
「いくよ、兄さん。」
「ああ、いつでもおーけーだよツヴァイ!」
床に片膝をついて紋章陣に触れるアインの肩に手を置くと、ツヴァイは賢者の石の力を送り込んだ。
「ありがとうツヴァイ、僕たちの力を子供たちに届けよう!」
アインの身体から金色の光が立ち上り、紋章陣を通って淡く子供たちの身体を包み込む。
必死に、子供たちへ力を・・・想いを伝えるように強く願った。
生きてほしい・・・これから先、やっと組織から逃れて平和に暮らすことが出来るのだから。
そして・・・
「あ、あれ・・・?」
「ここどこ・・・?」
「兄ちゃんたち・・・」
「アイン兄ちゃん!」
2人の力が無事に届いたのだろう。
子供たちが次々と目を覚まし、アインやツヴァイ、フィーアの元にかけよった。
「みんな・・・!よかった!」
駆け寄ってきた子供たちを抱き上げ、アインは心から安堵したように息を吐く。
「フィーア、おつかれさま。」
「ツヴァイもお疲れ様。」
ツヴァイはよく頑張ったねと優しく言いながら、フィーアを抱きよせて頭を撫でた。
その様子を見て周りの子供たちがはやし立てる。
「あー、ツヴァイ兄ちゃんとフィーア姉ちゃんらぶらぶだー!」
「らぶらぶー!」
「そうだね、僕とフィーアはラブラブだ。」
「あ、あう・・・」
にこっと笑って子供たちに答えたツヴァイを見て、フィーアはどうしていいのかわからず恥ずかしそうにうつむくのだった。




