ホムンクルスの箱庭 第3話 第8章『歪んだ愛情』 ⑥
ちょっと遅くなりましたが何とか更新です(´;ω;`)ウッ…
申し訳ありませんが、明日はお休みさせていただくかもしれません(´・ω・`)
ドライはどうすることもできないまま、目の前で起こる戦いを見つめていた。
彼は家族を助けるために必死に頑張っている。
けれど、もし自分の予想が当たっていれば・・・これから起こることはそんな彼を打ちのめす結果となるだろう。
あんなに探しても見つからなかったのに、今になってどうして?
焦りと共にそんな想いが過る。
皆があの人のことを忘れても、自分だけはずっと覚えていた。
だから、皆の所属する派閥を抜けてマリージアを本拠地とするもう一つの派閥に身を置いた。
あの人が生きているとしたら、いる場所はこちらの施設以外には考えられないと、そう思ったから。
けれど、そんな予想に反して情報は全く入ってこなかった。
みんなのためにも、自分のためにもあの人を見つけて連れて帰ろうと思っていたのに。
「父さん、母さん!」
施設長とその夫人に必死に呼びかけるアインを、ドライはどこか遠い目で眺める。
そういうところ、昔から変わらないわよね。
小さい頃からずっと一緒だったアインは、いつも家族を大切にしていた。
それがなぜか、自分はよく知っている。
彼はあの人と約束していたのだ。
でも・・・そんな大切なことも彼は忘れてしまった。
それが分かったとき、自分は彼に対して泣いて怒った。
ただ、悲しかったから。
話が通じないことのいら立ちよりも、アインが大切な人を忘れてしまったその事実があまりにも辛かったから。
それは妹であるフィーアに対しても同じだった。
今となっては妹は、当時、自分が怒ったことすら忘れてしまっているのだろうけれど。
もう一人、妹にいつもついて回っている人物に対しても思うところがたくさんある。
妹を守りきれなかったことに関しては今も許せないし、彼を苦手だという意識はずっと消えないだろう。
言い方は悪いが、感覚的に受け付けないのだ。
彼の容姿や思想がではなく、そこにいるという事実そのものが。
でも、そのことに関して口には出せなかった。
なぜなら、皆はその人物がいることを当たり前に受け入れてしまっているから。
そして、その人物も、皆といることを当たり前としているから。
忘れてしまったのは皆なのに、まるで自分がおかしくなってしまったような感覚に、ずっとずっと戸惑いながら過ごしてきた。
少しずつ皆との間に心のずれが生じて、それをなんとかするために・・・すべての始まりであるあの人を見つけるために施設を飛び出したのに。
「結局・・・私は、何もできないままこれから起きることを見ているしかないってこと?」
ドライの口から、ため息と共に虚しく言葉がこぼれた。
「やれやれアイン、それでは全く話にならないな。」
「父さん、すごいな・・・僕の攻撃がここまで通らない人は初めてだよ。」
アインの攻撃をことごとくその身に受けながらも、父親は母親を守るようにそこに立っていた。
刀が光を纏ってからは最初のように一ミリも傷をつけられないようなことはなかったが、傷だらけになっても彼は笑みを絶やさず、その場を動こうとしない。
「言っただろう?私のジョセフィーヌへの愛は生半可な力では傷つけることは出来ないと。」
どういった原理かはわからないが、父親の言う通り普通の人間に見える彼の身体は刃をほとんど通さない。
傷を負っているといっても深いものは見当たらず、掠めたような傷が重なって少しずつダメージを負わせているような状態だ。
「なるほど・・・父さんの母さんへの愛は僕にも伝わったよ。
でも、僕の父さんと母さんへの愛もわかってほしいな。」
「なら、がんばることだね。」
父親がニコッと笑うと、母親が後ろから銃を放つ。
アインはそれをかわし、あるいは弾を打ち落としてみせた。
「これではイタチごっこね。こんなことをしている間に子供たちは死ぬことになるわよ?」
「母さん、僕はわかっているよ。2人は子供たちを殺そうなんて思ってない。」
穏やかに微笑む母親に、アインも笑みを浮かべて穏やかに返した。
「おや、実験に使ったのにどうしてそう思うんだい?」
「だって、そうしようと思ってるなら、とっくに子供たちを殺しているはずだろう?」
「どうかな・・・こうすること自体に何か意味があるのかもしれないよ?」
父親が言った言葉にアインが反論しようとした時だ。
中央にある紋章陣が眩い光を放つ。
「・・・まさか?」
その変化に、父親は驚愕しているようだった。
「紋章陣の書き換え・・・いえ、流用かしらね。」
母親の冷静な言葉が指し示すものが目の前にある。
ヒュドラの下に描かれた紋章陣に別の紋章陣が重なるように描かれていた。
「フィーア・・・!?ツヴァイ!?」
紋章陣の端、ヒュドラの足元に2人の姿が見える。
フィーアが紋章陣に触れて何かをしているのを、ツヴァイがヒュドラの攻撃から守っているようだ。
「なるほど、フィーアは紋章術が得意だからね。
でもまさか、私の紋章術を利用してしまうなんて・・・」
「・・・フィーアが、紋章術が得意?」
思いもよらない言葉に、アインが思わず尋ね返した。
「おや、アインは知らなかったのかい?記憶を失う前のフィーアは紋章術が得意だったんだ。
おかげでいろいろな実験がはかどったよ。特に彼女はツヴァイのためなら何でもしてくれた。
記憶を失ったと言っても、やはり身体に染みついた技術は抜けないものなのだね。」
納得したように頷く父親を見て戸惑いを隠せないままアインがもう一度振り向くと同時に、フィーアが描いたと思われるもう一つの紋章術が発動した。
「フィーア!大丈夫かい!?」
「ツヴァイこそ、大丈夫?」
紋章術を起動させながら、フィーアは心配そうにツヴァイを見つめた。
彼は今、ヒュドラの絶え間ない攻撃から自分を守ってくれている。
「僕は大丈夫だよ。」
ニコッと笑ったツヴァイの額には汗がにじんでいた。
このままでは、いつかのように倒れてしまうかもしれない。
「これで終わり!」
元からあった紋章術を流用して、フィーアが魔法を発動させた。
紋章陣が眩く輝き、ヒュドラの足元から氷が蔦のように這い上がる。
それはあっという間にヒュドラを伝ってその頭上まで上り、赤い水晶を凍り付かせた。
しかし・・・
「どうして?本当は凍り付いた後に砕けるはずなのに。」
本来であれば砕ける予定だった氷は凍り付いたままだ。
「魔力が足りないのかしら?魔法が正しく機能していない。」
ソフィもそれを見て戸惑ったように言う。
アハトも何が起きたのかを理解したらしく、グレネードを片手にこう言った。
「よくやったフィーア!あとは俺がやる!」
グレネードを使って水晶を砕こうと、飛行魔法でアハトがヒュドラの頭上まで飛び上がった。
「アハト!!」
その途中でヒュドラを束縛していた氷が砕かれ、アハトに食らいつこうとする。
とっさに風の防御魔法でソフィが防ぎ、アハトがグレネードのピンを抜いて放り投げた。
そして、ピシ・・・っと水晶にひびが入ったように見えた次の瞬間。
ガシャアアン!!
ガラスが砕けるような澄んだ音を立てて、赤い水晶が砕け散った。




