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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第3話 第4章『精神干渉』 ②

今回は少し長めのお話になります(`・ω・´)

がんばれアインさん(/・ω・)/

「がんばりなさい、アイン。」


 繋いだ手を離さないまま、ドライは目を瞑って眠っているかのように動かなくなったアインに話しかける。


「あんたがここでがんばれなきゃ、誰も助けることなんてできない。」


 何かを思い出したのか、きゅっと唇をかみしめて彼女はうつむく。


「あんなことが起こらなければ・・・私たちずっと、みんな一緒にいられたのかしらね?」


 下を向いたまま震える声で呟いたドライの表情は見えない。

 彼女は想いを振り切るように顔を上げると、強気な眼差しでアインを見て笑みを浮かべる。


「ほらほら、あんまり不甲斐ないと私の悪意が火を噴いちゃうわよ!

 さっさと戻ってきなさい・・・ちゃんと待っていてあげるから。」


 そしてドライは両手でぎゅっとアインの手を握った。




 アインは暗い森の中を走っていた。

 小さな手足は何度も転んだことによってすりむけている。


「どこ?どこにいるんだ・・・?」


 気づいた時には、幼い姿に戻っていた。

 いつも以上に周りが大きく見えて、不安が押し寄せてくる。

 子どもの頃、こんなに何かが怖いと思ったことは無かった。

 いつだって家族がそばにいてくれた。

 

 でも、それはいつのことだったんだっけ?

 僕は本当は、ずっとこんな不安を抱えて生きていた?


 アインはずっと誰かを探していた。

 それが誰なのかわからないので名前を呼ぶこともできない。

 迷子になった子犬のように森の中をさまよい続けている。

 子供に返ってしまったかのように、不安でいっぱいになった心をどうしたらいいのかがわからない。


「いたい・・・っ!?」


 木の根に足が引っかかってまた転んでしまった。


「うう・・・」


 起き上がろうとすると、得体のしれない獣の声が森の中に響いた。

 びくっと震えて大きな木の下に隠れるように座る。

 膝をかかえて小さなアインは動けなくなってしまった。


『僕は強くないんだ。誰かを助けるなんてできない。』


 先ほど現れた自分の言葉を嫌というほど感じてしまった。

 自分を助けることもできないのに、誰かを助けるなんて本当に出来るのだろうか?

 言葉にすることで保っていた自信は、言葉をうまく話せない子供の姿になった途端に失われてしまったかのようだ。


 助けてという言葉がこぼれそうになって、アインは口をへの字に結んだ。

 それだけは口にしてはいけない。

 自分は助ける側であって助けられる側ではない。

 正義の味方はどんな時だって強くなければならないのだから。


 そう思った瞬間、また声が聞こえた。


『どうして俺がお前に目指してほしい正義の味方が、家族を守れることが絶対条件なのか理由は分かるか?』


 先ほどと同じ男性の声。

 この人物がおそらく、自分が失ってしまった誰かなのだ。

 必死に辺りを見回すが、姿は見えない。

 ただ声だけが聞こえてくる。

 彼に呼びかけようとしているのに声が出ない。


『なあ、どう思う?』


 再度問いかけられて、アインは心の中で答えた。


 それは・・・家族も守れない人間が、他の人間を助けることなんて出来ないから?


『そうじゃない。正義の味方は皆を助けなければならないだろう?

 でも、それでは正義の味方は困ったときに誰に助けてもらえばいい?

 時には仲間やライバルも助けてくれるだろうが、正義の味方にとって基本的にはそれらは互いの利権が絡んだ条件付きのものかもしれない。』


 同じ志や目的を持って集まった仲間やライバルは時には自分を助けてくれるだろうが、時には敵にもなるかもしれない。

 互いの立場を考えずにただ純粋に相手のことを思うだけの存在とは違う。


『けれど、家族だけはいつだって無条件に守りあえる存在だからな。少なくとも俺はそう思っている。』


 そうなのかな?世界にはたった一人で戦う正義の味方だってたくさんいるはずだ。


 そんな心の声に応えるようにまた声が聞こえてくる。


『いいか?おまえは一人ぼっちのヒーローにだけはなるな。

 一人で戦うのはつらい。俺だってそうだ。

 あいつやお前がいなければ、きっととっくに諦めてしまっていたと思う。

 でも、おまえたちがいたから俺はここまで頑張れた。

 家族がいる、そう思えるだけで力が湧いてくるんだ。

 もうすぐだ・・・もう少しできっと・・・』


 もう少しできっと・・・?


 その問いかけに声は答えてくれなかった。

 ぷつっと辺りの暗い森が消えて、暗闇が戻ってくる。

 声が聞こえなくなって、耳が痛いほどの静寂に包まれた。




 置いていかないで、僕は本当は弱いんだ。

 そんな言葉を口にしそうになって、アインはまたぎゅっと口を結んだ。

 だめだ、このままじゃ僕は強くなれない。

 この心に刻まれた不安が何なのか、それと向き合わなければならないんだ。


 そう決心したときには、目の前にまた誰かが立っていた。

 子供の姿になってしまった自分とは対照的な今の姿の自分。

 そして、それはこちらに向かって話しかけてくる。


『僕は自分が弱いことが不安なんだ。だから、奇跡に頼ったって強い力が欲しい。』


 その言葉には何も返せなかった。

 そうなんだ・・・僕は自分が弱いことが不安で、何をしても強い力が欲しかった。

 ゼクスと戦った時・・・倒れているフィーアとドライを見たときに、僕は二人を失ってしまったと思ったんだ。

 もう、あんな思いは絶対にしたくない。だから紋章術に頼ろうとした。


 でも、ドライに紋章術は周りを巻き込むと言われたときに、それ以外の方法を考えようと思った。

 だって、僕が強くなりたいのは家族を守りたいからなのに、家族を危険にさらしてしまったら意味がないじゃないか。


「僕は確かに奇跡に頼りたいくらい力が欲しいよ。

 でもそれは家族を守るためであって、弱い自分自身を守るためじゃない。」


 僕は自分が弱いことが不安なんじゃなくて、それによって家族を守れないことが不安なんだ。


 そう思った時に、少しだけ不安が消えて力が沸いてくる気がした。


『家族を守ることに意味なんてあるの?正義の味方は結局一人ぼっちなんだ。

 フェンフが暴走した時だって、最後に止められたのは僕だけだったじゃないか。

 家族が守ってくれるなんて嘘だよ。だったら、強くなるために何をしたっていいじゃないか。』


 確かにフェンフが暴走したとき、動けたのは自分だけだった。

 たまたま奇跡のように成功したからよかったものの、失敗していれば自分も家族も死んでいただろう。

 静かに目を瞑り、心の中で考えてからアインは目を開けてまっすぐに自分自身を見上げる。


「僕はそうは思わない。

 家族がいたから、守りたいものがあったから僕はあの時、奇跡を起こせたんだ。」


 本当に一人ぼっちだったら、自分しかあの場所にいなかったら、きっと奇跡なんて起こせなかった。

 だって僕は、賢者の石を自分のために使いたいとは思わないから。

 家族を守るために願ったから、きっとあの奇跡は起こったんだ。


「僕は一人ぼっちじゃない。守りたいと思うだけでそれは力になる。

 家族が・・・皆が僕を見守ってくれているだけでそれは僕の力になるんだ。

 僕は家族に守られている。」


 あの声の誰かが教えてくれたように、正義の味方は家族を守るべきだ。

 家族は同じように、自分を守ってくれているのだから。

 今は当たり前のようにそう思うことが出来る。

 そして、その思いに呼応するように身体に力が宿っていくような気がした。


『僕が欲しいのは奇跡を起こす力だろう?賢者の石の力で何もかも自分の思い通りにすればいい。

 君の賢者の石はそのためにある。ほら、僕が方法を教えてあげるよ。

 君はただ、すべてを流れに任せるだけでいい。』


 相手がスッと手をこちらに差し伸べてきた。

 この手を取れば、自分は賢者の石の力を使うことが出来るようになるのだろうか?

 奇跡を起こす力があれば、何もかも思い通りにできるのだろう。

 いつかのように誰かを失って、悲しい思いをすることもなくなる。


 それは真理なのかもしれない。

 強い力があれば何もかもとは言わずとも、普通の人よりはたくさんのことが思い通りになる。

 実際にそうしている連中が世界にはごまんといる。

 それは誰もが求めて止まないものだし、それを否定する気にもならない。


 けれど・・・


『自分の望みを叶えるためだったら、強い力でずるいことをしたっていいじゃないか。

 いや、ずるいことじゃないんだ。自分が手に入れた力、それこそが正義なんだよ。

 世の中の正義の味方はみんなそうなんだ。

 物語の正義の味方は強くて当然じゃないか。それはずるいことなんかじゃない。

 みんなそれを望んでいる。だから君も、そうすればいいんだ。』


その言葉はどうしようもなく気に入らなかった。


「それは違う。正義の味方は強いから正義の味方なんじゃない。」


 初めから強い力を持っている正義の味方だって確かにいるだろう。

 その力を持っていたからこそ、正義の味方になった人たちだってたくさんいるはずだ。


 でも・・・


「力が強いだけで、自分がしたいことをするだけの人は正義の味方でも何でもない。

 正義の力はいつだって、誰かを守るためにある。

 僕は家族を守るために賢者の石の力が確かに欲しいよ。

 でも、自分の欲望を叶えるためだけに使うんだったら、そんなものはいらない。」


 心の奥から熱い思いがあふれてくる。

 曖昧だった自分の正義の形が、ようやくだが少しだけ見えた気がする。

 いつの間にか、子供だった自分の姿は元に戻っていた。


『馬鹿な奴だ。力に身を任せれば何もかもを思い通りにできるというのに。

 賢者の石にはそれだけの力が宿っているというのに。

 やはり・・・お前にはもったいない力だ。』


 目の前の自分が邪悪な笑みを浮かべて刀を抜いた。

 その刃には禍々しい力が纏わりついている。


「正義の味方を目指す僕には確かに理想がある。

 だけど、何もかもを思い通りにしたいなんて思ったことは無い。」


 相手の言葉に抵抗するように答えてから、アインも刀を引き抜いて構えた。

 その刃は、美しい黄金に輝いている。


「なんだその力は・・・!?賢者の石は、そんな美しいものではないはずだ。」


 それを見て相手が怯んだ隙に、アインは相手の懐に飛び込んで刀を横なぎに一閃した。

 自分の幻が消えて、そこには白いローブにフードを目深にかぶった誰かがいる。


 シャラン・・・と金属がこすれるような微かな音が聞こえた。

 アインの刀はその人物のローブの一部を切り裂いていた。


「やがてお前は必ず自分の欲望に呑み込まれる日が来る。

 お前の持つ賢者の石は、そういうものなのだから・・・」


 口元に笑みを浮かべると、それは男とも女ともつかない中性的な声でそう伝える。

 もう一撃振り下ろすよりも早く、その姿は暗闇の中に溶けて消えた。

 

怪しい白ずくめの人物登場です(; ・`д・´)


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