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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第2話 第6章『追跡者』 ⑥

5月3日。

本日2回目の更新です('ω')

「これは・・・!?」


 周囲が白煙に包まれ、ツヴァイは警戒するようにフェンフのいる方に視線を送った。

 しかし、煙の中を迷うことなく進んでいくその後ろ姿はすぐに見えなくなる。


「あ~、さっきからなんか変だとは思っていたんだが、やはりそういうことか。」


 そこにゼクスの命令によって、フェンフにあっさりと放置されたアハトとソフィが合流した。


「どういうことなのよアハト?」


「よくわからないんだがなあ。」


「わかるの!?わからないの!?どっち!!」


 アハトの煮え切らない言葉に、ソフィが思わずそんな突っ込みを入れる。


「そう急かさんでくれい。」


「アハト、君がフェンフとの戦いで何を感じたのか教えてくれるかい?」


 ツヴァイが問いかけると、アハトはやはり釈然としない様子でこう答えた。


「さっきからグレネードで攻撃していたんだが、どうも様子がおかしかったんだ。」


「どういうこと?私にはうまく撹乱しているように見えたのだけど。」


 ソフィから見てアハトはうまくグレネードを使いながら気を引いているように見えた。


 だが・・・・


「実をいうと、俺はあいつに1発もグレネードで攻撃できていない。」


「え?」


 意外なことに、アハトは釈然としない様子でそう言った。


「俺はグレネードを投げるときに、常にどこで爆発させるのが一番美しいかを考えて投げているんだが・・・」


「う、うん・・・効果的かってことだね?それで?」


 美しいどうこうはよくわからないが、要は一番いいと思える爆破のタイミングを狙っているということだと解釈してツヴァイは先を促す。


「そのすべてを見事に失敗させられて、むしろ俺が撹乱されていた!!」


「ちょっと!何その爆弾発言!?」


「おまえ、俺がお花畑に逃避していたのが見ていて分からなかったのか!?」


「え!!あれって素でやってたんじゃないの!?」


 ソフィはあれはいつも通りのアハトだと思っていたのだが、どうやら撹乱されていたというよりはむしろ錯乱していたらしい。


「と、ともかく・・・その原因がこの現象を見て何かと繋がったのかい?」


 一刻も早く敵について知らなければならないので、ツヴァイはとりあえずアハトのお花畑騒動に突っ込みを入れるのを我慢して尋ねた。


「具体的には言えないが・・・反射されてるな。」


「反射?」


 ゼクスがどういった弾を放ったのかはわからないが、周辺が煙に包まれているところを見ると発煙弾の系統なのは間違いないだろう。

 魔力を阻害したり毒が含まれているということはないが、とにかく視界が悪い。

 弾を爆発させる意図で弾をフェンフに当てたのかと思ったのだが、それにしては何か違和感があった。

 その違和感の正体を、おそらくフェンフと戦ったアハトならつかんでいるはずだと思うのだが。


「反射というか、とにかく表現が難しい。

 するっとかわされているというか、滑ってると言うか。

 とにかく、当たるはずなのに当たらない。

 さらに言うならグレネードの爆発や閃光まで不自然な動きをしていたぞ。」


「それってさっきフェンフの身体が光ったことと関係があるのかしら?」


 弾が当たる直前にわずかながらフェンフが光ったことには、ツヴァイだけでなく2人も気付いていたようだ。


「グレネードを投げた時もかい?」


「ああ、わずかだが光っていたな。」


「あんた、あの爆発と閃光の中でよくそんなものが見えたわね。」


「俺の目はちみのぼんくらな目と違って特別性なんでねぇ。」


「あら、目にゴミが。」


 にっこりと笑ったソフィが、アハトの目のあたりにフードの上から2本の指を突き出した。


「ぎゃあああ!!目が!目が~~~!!」


 フードを目深にかぶっているアハトの目に、ゴミが入っているかどうかなどわかるわけがないのだが。


「とにかく、フェンフは周囲のあらゆるものに何らかの影響を与えるってことだね?

 たぶんゼクスはそれを利用して僕たちに攻撃をしてくるはずだ。」


 ツヴァイは視線を燃えている建物に向けた。

 この煙が視界を塞いでいる時間は、そんなに長くはないはずだ。

 ゼクスは逃亡するためというよりは、アインを撒いて距離を取るために一時的にこの煙幕を張ったように思える。

 煙が風で流れて視界が少しずつ開けてきていることからもそれはわかった。

 もう少しすればフィーアが火を消してくれるはずだが、それまではあれが光源になってゼクスにとって有利に事が運んでしまうだろう。


「仕方がない・・・後を追おう。」


 フィーアのことは心配だが、このままフェンフをゼクスのもとに行かせてしまっては余計に危険にさらすことになるかもしれない。

 フィーアがいるはずの場所も今は煙に閉ざされて見えないが、建物の陰にいる限りは大丈夫なはず。

 自分にそう言い聞かせると、ツヴァイはごろごろと転がるアハトを放置して、ソフィと共にフェンフの後を追った。




「ちょっと暗くなってきたわよ、大丈夫なのこれ!?」


 氷の網からようやく片手を外したドライが、辺りが煙に包まれたのを見て叫んだ。


「待って待って!暗くて怖いーっ!!なんかさらわれた時のこと思い出すからーっ!!」


 急に暗くなったことによって、ドライはパニックを起こしているようだ。


「暗いのやだーっ!フィーアあんた助けなさいよっ!!」


 その声を聴いて、建物の陰で呪文を唱えていたフィーアが動きを止めた。

 それほど距離がないので、煙の中でもドライが必死にもがいているのが見える。

 このまま建物の火を消していいものかどうか一瞬迷うが、今のままではゼクスが狙撃しやすい状況が整ってしまうだけでなく、他の建物に燃え広がってしまう可能性もあるのでやはり消しておくべきだろう。


「火を消してからいくね~!」


 そう判断したフィーアは、場違いなくらい明るい声でそう答えた。


「消すんじゃないわよ!?消したら後でひどいからねっ!!」


「あとで迎えに行くから~!」


「あとでいじめるわっ!!」


「なんでー!?」


「こわいからっ!!」


 会話になっているようでなっていないやり取りの後、フィーアはようやく完成させた魔法を放った。

 クリスタルのような小さな氷柱がいくつもの結晶体となって、フィーアのいる場所から一直線に地面を伝って広がったかと思うと、燃えていた建物は見る間に凍り付いて巨大な氷の塔が出来上がる。


「ふう・・・」


 いい仕事をした、というようにフィーアは額の汗をぬぐった。

 そこにすかさず、ドライの悲鳴が聞こえてくる。


「ぎゃー!なんか暗くなったんだけどー!?」


 必死に暴れたドライは、ようやく氷の網を解いて自由になったところだった。

 それから慌てたように道具袋を漁って何かを探し始める。


「明かり、明かりをつけなきゃ・・・っ!」


 そして中から2つの石を取りだしてカチカチと鳴らし始めた。

 火打石のようにも見えるが、錬金術によって作られた道具の一つで、石同士をぶつけて摩擦熱を発生させると石そのものが光るという仕組みになっているなかなかの優れものだ。


 しかし・・・


「きゃー!落としたあ。」


 ぽろっと石が手からこぼれたらしく、大騒ぎしている声が聞こえてくる。


「わ、私はさらわれた時のことなんて怖くないんだからねっ!?」


 自分に言い聞かせるように言いながら、ドライは石を拾って再び明かりをつけようとするが。


「あうっ!ちょっとフィーア。

 あんたが氷の網で捕まえたりなんてするから手がかじかんじゃったじゃない!」


 やはりうまくいかないらしく、恐怖を紛らわせるためなのか、フィーアに対して文句をぶつけた。


「あう・・・ごめんね。今あっためてあげるから!」


「ほんとでしょうね!約束だからねっ!」


「わかった~。」


 その会話がもしツヴァイに聞こえていたなら、間違いなく止めていただろう。

 だが、一度ゼクスがいた屋根裏に視線を送っていないことを確かめると、フィーアはドライのもとに走っていってしまった。


明日こそゼクスとの決着をつけたいと思ってます(ノД`)・゜・。

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