ホムンクルスの箱庭 第2話 第6章『追跡者』 ④
5月2日
本日2回目の更新です(*‘ω‘ *)
「馬鹿な!フェンフは何をやっていやがる・・・!?」
アインから思わず大きく距離を取ったゼクスは、別の窓から外の様子を見た。
「うふふふ・・・ほ~ら!私を捕まえて御覧なさ~い!」
「アハト・・・キモイわよ。」
フェンフはグレネードの煙や閃光で撹乱されながらも、アハトを追い回しているようだ。
その様子を、ソフィが魔法で援護しながら半目で眺めていた。
「バカが・・・!挑発なんかに乗りやがって!?」
フェンフはゼクスの命令には基本的には従うが、危険と判断する対象がいる場合はそちらを優先的に攻撃するようになっている。
舌打ちをしてからゼクスは、アインに視線を送った。
「・・・NO.1てめぇ、まさかガキ抱えたまんま俺と戦えるとでも思ってんのか?」
舐められたものだ。
いくらライフル使いが敵に接敵されることが致命的といっても、子供を抱いたまま戦うつもりなのだろうか。
すると、アインはまず子供に声をかけた。
「怖かったね。もう大丈夫だよ!」
「う・・・うえええん!!」
その言葉にきょとん、とした後、子供はアインが自分を助けに来たのだということを理解して、大きな声を上げて泣き出す。
「よしよし!」
大きな手で頭を撫でてから抱きついてくる子供を片腕で抱きなおして、アインはゼクスに話しかけた。
「さすがに抱っこしたまま戦うつもりはないよ。だって、子供が危ないじゃないか!」
「はぁ?馬鹿じゃねえのかてめぇ。」
見ず知らずの子どもよりも、自分の命の心配をするべきだろう。
馬鹿なのかこいつはと心の中で思いながら、ゼクスは銃を構えようとする。
すると・・・
「どうしても戦わなければならないのかい?」
アインは、ゼクスからすれば思ってもみない言葉を口にした。
「何言ってんだ?当たり前だろうが。俺はてめぇらの始末を任されているんだぜ?」
「それは君自身の意志なのかって聞いてるんだ。
僕は正直に言えば、ナンバーズはみんな兄弟みたいなものだと思ってる。」
そのあまりにもおめでたい言葉に、ゼクスは銃を構えるのも忘れて噴き出した。
「そりゃあ笑える冗談だ。
兄弟?じゃあ俺たちは全員NO.1であるお前の弟か妹ってことになるわけだ?」
「ああ、実験体として、共に辛い日々を生き抜いてきたんだ。
僕はそれだけで皆を兄弟だと思えるよ。」
立場や行われた実験、所属している派閥など条件は異なれども、気づいた時には実験体にされアルスマグナに実験を繰り返されてきた。
辛いと感じることは当然あったが、家族が・・・同じ境遇の者たちがいることが分かっていたからこそ生き抜こうと思えた。
それはどんなに離れていたとしても同じだと、アインは頑なに信じているのだ。
「君とフェンフさえよければ僕たちと一緒に来ないか?
もう辛い実験や命令になんて従わなくてもいい。僕はいつかアルスマグナを・・・」
「まあ、待ってくれや兄弟。」
アインが皆まで言い終わる前に、ゼクスがその言葉を遮った。
彼はライフルを床に立てて持ち、俯いていてその表情は全く見えない。
「まず最初に、てめぇは勘違いしている。」
「何をだい?」
「てめぇらは知らねえが、俺は実験体になれたことを心から喜んでいるぜ。」
「・・・・・・」
「なあ、知ってるか?工作員ってやつは生きようが死のうが組織にとってはどうでもいいんだ。」
語る口調は淡々としていて、その言葉にどんな感情が込められているのかはわからない。
だが・・・
「どっかで殺されるか、のたれ死ぬかの瀬戸際で生きてきて、その中でたまたま生き残ってようやく必要とされる場所を見つけた。
お前やNO.2みたいに、最初から選ばれて賢者の石なんて特別な実験をされているやつには、わかんねえことかもしんねぇけどよぉ・・・」
アインはその口調に、少なからず怒りにも似た何かを感じた。
「それは・・・確かに君の感覚では実験体になったことで、助かったと感じたのかもしれない。
でも、そもそもアルスマグナなんて組織がなければ、皆どこかから攫われてきたり実験体にされることはなかったんだ。」
アルスマグナに連れてこられてしまったこと、そこからすべては始まっているはずだ。
「僕も、僕たちを育ててくれた組織の父さんと母さんには感謝してるよ。
家族がいてくれたから、実験体になったこと自体をそれほど憂いたこともない。
けど、君だって実験体になってよかったと思えたことなんて、生き残れたってこと以外にあるのかい?
君だって少なくとも、最初は人を殺したくなんてなかったはずだろう?
普通の人みたいに生きたいって、願っていたはずだ。」
工作員として生きてきたということは、ゼクスもおそらくはソフィと同じような立場だったのだろうと想像できる。
子どもの頃から一緒だったアインは知っている。
ソフィだってきっと、工作員になんてなりたくなかった。
普通の人と同じように暮らしたいとずっと願い続けて、そして今はそれを叶えようと必死に頑張っている。
しかし、アルスマグナはそれを許してはくれないだろう。
それだけではない、組織は今も子供たちを攫って来て実験を繰り返し、自分たちと同じような思いをする子供たちを増やし続けているのだ。
「アルスマグナは悪の組織なんだ。
組織にいる限り、僕の家族は実験体として辛い日々を過ごさなければならない。
他にも、いろんな子供たちがどこかから攫われてきて酷いことをされている。
僕はそれが許せないんだ。
だから僕は正義の味方になって、悪の組織であるアルスマグナを倒す。」
アインの言葉にゼクスがうつむいたまま小さく肩を震わせていた。
「ゼクス・・・?」
そして・・・
瞬間的に構えられたゼクスの錬金銃から、銃弾が1発放たれた。
アインの肩を掠めたそれは、後ろの窓を砕いてどこかに消える。
至近距離から放った1発が当たらなかったのはたまたまだったのか、ゼクスがそうしたのかはわからない。
ただ・・・
「くくく・・・ひゃーはっはっはっ!!」
アインを眺めながら、狂ったようにゼクスは笑っていた。
「面白い・・・面白すぎるぜNO.1。
この世に悪も正義もねぇ。あるのは自分の欲望を叶えられる奴と叶えられない奴。
そのための力を、持ってるか持っていないかだけだ。」
「違う!アルスマグナはどう考えたって悪い組織だろう?
だったらそれを倒す正義は必ずある!」
「てめぇのおつむは空っぽなんだなNO.1。
アルスマグナがなけりゃ、他が同じことをするんだ。
その度にお前が正義面して潰したところで、何も変わりゃしねぇんだよ!!」
「そんなことはない!正義はいつか必ず勝つんだって、僕は信じているんだ!!」
子どもの幻想のような言葉を口にしていることはアインにもなんとなくわかっていた。
それが分かっていても、強い信念を持ってその言葉を口にする。
遠い昔、誰かがそう教えてくれたのだ。
絵本の主人公のように強くなれ、正義の味方になって家族を守ってやれと。
誰がそう教えてくれたのか、残念ながらそれはアインの記憶には残っていない。
大切なことなのに、すっぽりとそこだけが抜け落ちている。
それでも、その言葉は今でもアインの心の中に強く根付いているのだ。
「そうかそうか・・・なら正義の味方は、俺の快楽のために死んでくれや。」
「快楽・・・?」
何を言っているのかがわからず問い返すアインに、ゼクスは楽しくてしょうがないというように答えた。
「てめぇはもう一つ大きな勘違いをしてるんだよNO.1。
俺はもう、組織に所属してる理由とかそんなのはどうでもいい。
相手が絶望して死んでいく様を見るのが、俺はどうしようもなく好きなんだ。
人殺しをしているときが何よりも幸せなんだよ。」
「そんな・・・!?」
ゼクスのその言葉に、アインは呆然と立ち尽くす。
アインの周りにいる家族たちに、好んで人殺しをするような者はいない。
なので下水道での惨事を見た時も、アインはそれを行った人物は組織の命令で仕方なくやったのだと思っていた。
ソフィはゼクスがどうしようもないやつだと言っていたが、アインは実際に会ってこうして話をするまでは分かり合えない相手ではないと信じていたのだ。
しかし・・・
「何を驚いてやがる?俺みたいなのがてめぇが言うところの悪なんだろう?
正義がいるなら悪がいるのは当然だ。
それとも、お前の信じる悪は身内には存在しちゃいけないっていうルールでもあるのか?」
「く・・・っ!実験のせいでそこまで狂わされてしまったというのか・・・」
ナンバーズとしての実験と日々の命令による人殺しで、ゼクスはきっとここまで狂ってしまったに違いない。
少なくとも、アインはそう考えた。
「俺のことどうこう言ってる場合じゃないだろう兄弟?
肉体強化がメインの改造とは聞いていたが、脳みそまで筋肉に支配されてるとはお気の毒なこった。」
明らかにバカにしたように言って、ゼクスは錬金銃に弾を込める。
そして・・・
「NO.1、てめぇさっき聞いたよなあ。これが俺の意志かどうかって。」
「ああ・・・」
「俺が望んでやっていることに決まってるだろうが、このボケが!!」
心の底から楽しそうに笑いながら、アインに向かって銃弾を放った。
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