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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第2話 第2章『ファニアの錬金術師』 ③

おはようございます~(*´ω`*)

本日1回目の更新です。

「で、お主みたいな子がなぜ錬金術の・・・しかもいかにも深い部分に紛れ込んでしまっているんじゃ?

 あの小僧のためか。」


 お米の入った鍋の後にフィーアから受け取った鍋を火にかけると、グレイはさりげなく問いかけた。


「うん、みんなでね。

 ツヴァイの病気を治してあげるって約束してるの。」


「なるほどのう・・・

 しかしなぜ心臓に竜の宝玉なんぞという無茶苦茶な方法にたどりついたんじゃ?

 心臓病ごときでそこまでするなど聞いたことがないぞ。」


 本当は竜の宝玉の出どころも気になるところなのだが、それは今は聞かないでおくことにする。

 フィーアは目をぱちくりとした後、にっこりと笑ってこう答えた。


「ツヴァイの身体にはね、賢者の石が使われているんだって。」


 それに対し他の4人に問いかけても返ってこないであろう答えを、フィーアはあっさりと白状してしまった。


「賢者の石・・・じゃと・・・!?

 そんなものが実在するはずが・・・」


 錬金術をかじったことがある者なら誰でも知っているその名前を耳にして、さすがにグレイも驚いているようだった。

 賢者の石、それは錬金術の集大成と呼ばれている物なのだがその実態は定かではない。

 無限のエネルギー機関であるとか、すべてを可能にする触媒であるとか、様々な憶測はあるものの、実物を見たことがあるものがいないこともあり謎に包まれているのだ。

 だが、その名前が錬金術師の間に知れ渡っているということは、すなわち賢者の石が存在するということの証でもある。


「でもね、適合がうまくいってなくて未完成だから、生命力を補ってあげないとツヴァイは死んでしまうんだって。」


「嬢ちゃん・・・いや、フィーア。

 その賢者の石・・・お主どう作るのか知っているのか?」


 その問いかけには、フィーアは小さく首をかしげる。


「わしの知っている限りの知識では、あれはそう簡単に作れるものではない。」


「おじいちゃんはそういうことに関して何か知っているの?」


「・・・わしも錬金術師のはしくれだからの。

 昔そういった技術を用いて救いたかった命もあったかもしれん。」


 何かを思い出すかのように遠い目をするグレイを、フィーアは心配そうに見つめる。


 それから・・・


「おねがい、教えてほしいの。」


 思いきったようにそうお願いした。


「あれは外法じゃからな・・・

 おまえのような嬢ちゃんが知る物じゃない。」


「でも・・・どうしてもツヴァイを助けたいの。」


 すがるように袖を引くフィーアに、グレイは悲しげな表情をした。


「・・・わしもいろいろ無茶をしたからの、身体に無理が来ておる。

 いいか?賢者の命を創るということは自分だけでなく、他者の命を使うということ。

 犠牲なくしてあの代物は作れん。

 もちろんそれをやろうとしたやつがどうなるかは、わしを見れば一目瞭然じゃろう。」


 ぱっと見では分からなかったが、グレイが相当な無茶をしてきたことはフィーアにも何となくわかった。

 ため息をつくように深く息を吐きながらグレイは言葉を続ける。


「わしも昔そういったものに挑戦したことがある。

 じゃが、代償は大きく当時は生きているのが不思議なくらいの状態になった。

 そんな危険なものに、お主のような純朴そうな娘さんが挑戦するもんじゃない。」


「私は・・・ツヴァイのためなら何でもできるよ?」


 幼い雰囲気が一瞬消え、大人びた表情をするフィーアだったがそれを見てグレイは首を横に振った。


「お主、それでもしお主に何かあった時に残されたものがどう思うのかわかるか?

 わしもそういう風に思いあがって人を助けようとしていた時期があった。

 しかしそれをしたところで相手は喜ばん。

 むしろ悲しい顔をされるだけじゃ。」


 グレイの言葉が今のフィーアにとって難しくとも、彼女はそれを真剣に受け止めているようだ。

 何も言わずに、静かにグレイを見つめている。


「そうじゃな・・・フィーア嬢ちゃんももう大人になるところじゃろうからな。

 わしは老い先短い。

 だからもしあの小僧にバイパスをつなぐ儀式がうまくいって普通に暮らすくらいなら問題のないようになって・・・。」


 ふうっと軽く息を吐くと、グレイはこう言葉を続けた。


「それでもまだ外法について知りたいと言うのならわしに相談してくるといい。

 その時はまあ、気が向いたら教えてやろう。

 じゃが、嬢ちゃんが本当にいい子だと思った時には教えてやらん。

 あれはそういった子が使えるものではない。

 よって今の嬢ちゃんでは不合格じゃ。」


 にっと笑ってグレイはまたフィーアの頭を撫でる。

 しょんぼりしていたフィーアは頭を、撫でられると嬉しそうに笑った。


「ほら、そうしょんぼりするな。

 料理で小僧を喜ばしてやるんじゃろう?」


「うん!」


「フィーア嬢ちゃんにとってあの小僧はなんじゃ?」


 最後に確認するように、グレイはフィーアをじっと見て問いかける。


「う~んとね、ずっとずっと一緒にいたい人!」


 少し考えた後、フィーアはとびっきりの笑顔でそう答えた。


「ただいま戻りました!」


「おかえりー!」


 フィーアが元気よく答えたところで、ちょうどソフィが帰ってくる。


「あ、おかえりなさい。

 こっちも掃除終わりました!」


 ソフィの声に気付いたのかはたきを持ったアインが顔をのぞかせ、そして・・・

 ガチャっとキッチン側の裏口からアハトが入ってきた。


「おぬし、何もするなと言っておいたじゃろうが!」


 明らかにおかしな場所から入ってきたアハトに、グレイは思わず突っ込みを入れる。


「俺はまだ何もしてないぞ。」


「そ、そうじゃな、じゃがお前が何もしていないと言うのはわしはとても信じられんぞ!」


 その言葉はここにいる全員の心の声でもあった。


「じじいにやましいことがなければ俺は何もしてないぞ。」


「いきなりグレネード渡すようなあんたが言っても全く説得力がないわよ?」


「いやいや、俺は確かにあちこちうろうろしたが、じじいにやましいことがなければそれはどうということではないだろう?

 何も問題ないと思うんじゃがなあ?」


 なぜ語尾が爺さんの口調になっているのかはわからないが、アハトは明らかにグレイに対してにやにやと笑っている。


「錬金術師というものは一つや二つは後ろ暗いことがあるじゃろうがっ!

 お主、錬金術師のくせにそれがわかっててそういうことを言っておるのか。」


「俺には後ろ暗いことなんて何もないんでねえ。」


 そう言いながらアハトはローブの片側を広げてグレネードを自慢げに見せびらかす。

 それを見たソフィが買ってきた大根でマイルドに・・・いや、むしろワイルドに後ろからアハトをどついた。


「失礼しました。

 お世話になってるんだからほどほどにしなさい。」


 変な声をあげて倒れたアハトの首根っこをつかむと、ソフィはずるずると引きずって行く。

 それを見たグレイは、ため息をつきながらフィーアに話しかけた。


「なあ、フィーア嬢ちゃん。友達は選んだほうが良いぞ?

 ・・・というか、この大根を食べるのか。」


一度はアハトの尻に刺さった大根を、グレイは嫌そうに見ている。


「友達じゃなくて皆は家族なの。」


「そ、そうか・・・それじゃあ仕方ないのう。

 家族は大切じゃからの。」


純粋な笑顔で答えたフィーアに、グレイもそれ以上は何も言えないようだ。


「それじゃあわしは小僧に何が好物か聞いてくるからの。

 お主はここで待っておれ。」


「は~い!」


グレイの言葉に素直に従ったフィーアは、ご飯が炊けるのを鍋の前で大人しく待っているのだった。


グレイじいちゃんのセリフの


「そ、そうか・・・

 それじゃあ仕方ないのう。

 家族は大切じゃからの。」


が頭の中で『家族は選べないからのう・・・』に変換されてしまう件について(; ・`д・´)

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