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ホムンクルスの箱庭  作者: 日向みずき
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ホムンクルスの箱庭 第4話 第1章『始まりの場所を目指して』 ③

本日も読んでくださっている皆様、ありがとうございます(*´∀`)♪

「・・・まさか、あなたが生きているとは思わなかったわね。」


 斥力場装置の改造がひと段落してから、アハトは馬車で一休みしていたジョセフィーヌの元へと近づく。

 そんなアハトに彼女がかけた言葉がそれだった。

 

「ああ、久しぶりだなジョセフィーヌ。俺が死ぬわけないだろう?」


「一度は死んだじゃない?まさか8番目の実験体として作り直されていたなんてね。

 あの男が余計なことをしなければ、その厭味ったらしい物言いともサヨナラできたのに。」


「まあ、そう言ってくれるな。これまではろくに挨拶もできなかったからな。

 改めてこうして会いに来たわけだ。」


「ああ、そういえば昔からそういうタイプの奴だったわね。思い出したわ。」


 マリージアの研究施設での爆発事故以来、行方をくらましていたアハトがこうして昔の姿でジョセフィーヌの目の前に現れるのは、実に数年ぶりだった。


「生身の俺とおまえたちが再会できるなんて、懐かしいじゃないか。何人か足りないが・・・」


「どうせあの男は好き勝手にやっているわよ。」


「そうだな。」


 何となく嫌そうな表情をしながらジョセフィーヌが口にした人物に関しては、アハトも知っているらしい。

 同意するように頷いてから、言葉を続ける。


「それにしても・・・おまえたちからあの村に行こうと言いだすとは思わなかったぞ。」


「私じゃないわ。クリストフが勝手にやったことで、私はそんなこと考えていなかった。」


「いつもは手綱を握っているおまえが珍しいじゃないか。」


「別に・・・」


 相手にするのが面倒だと言うように、ジョセフィーヌがため息をついた時だ。


「おいおい、ジョセフィーヌをあまりいじめないでやってくれないかい。」

 

 アハトがジョセフィーヌをからかっているのに気付いたのか、クリストフが近づいてきた。


「僕はジョセフィーヌが望んでいることをしてあげたいからね。

 最終的に望む形がこちらにあると踏んだだけさ。」


「ということはあれか、なんだかんだいってアインたちのことも信じているんじゃないか。

 あれだけヌルのことを崇拝しているようなことを言っておきながら。」


「さあ?どうだろうね。」


 曖昧に答えるクリストフは、どちらとも分からない薄い笑みを浮かべていた。


「俺はあいつらと一緒に行くが、おまえたちはこの後どうするんだ?」


「僕はジョセフィーヌがこれ以上傷つくところは見たくないからね。

 ほとぼりが冷めるまでは、安全そうな君たちのところにいるかな。」


「そうか。それなら中で子供たちの面倒でも見てやってくれ。」


「ちょっと、何を勝手に決めて・・・」


「いいよ、あんなことをした僕たちに子供たちが心を開いてくれるかどうかはわからないけれど、実際のところ、今の僕たちにできるのはそれくらいだしね。」


 ジョセフィーヌが何か言うよりも早く、クリストフが答えた。


「まったく・・・好きにしなさい。」


 口を出しても無駄だと分かったのか、ジョセフィーヌはそれだけ言うと馬車の中に置いてあるぬいぐるみの中に消えて行った。


「それで、君は今、何をやっているんだい?

 君ほどの男があれ以降、何もやっていないなんてありえないだろう?」


 ジョセフィーヌを見送ってから、クリストフは改めてアハトの方に向き直る。

 それに対して、アハトはいつものように不敵な笑みを浮かべた。


「昔から俺が何をやっているかなんてわかっているじゃないか。

 賢者の石の行く末を見守っているだけだ。」


 アインたちを見守っているのも確かだが、それ以上にアハトは賢者の石に興味がある。

 賢者の石の作成は多くの人々の願いであり、希望だ。

 その存在が目の前にある今、未来にある物がなんなのか見守るのもまた、研究者としての務めだと言えるだろう。


「そうか、そうだったね・・・じゃあ、僕たちはこのまま中で研究をするよ。」


 アハトの意図を知って納得したのか、クリストフもまたそうちゃんの中にある空間へと消えて行った。


「さて、それじゃあ俺はこれの研究でもするかな・・・」


 そう言ってアハトが懐から取り出したものは、瓶に入ったヌルの触手だった。

 それはまだ生きているかのように時々動いている。

 先ほどアインにこっそりと手渡されたのだが、これをどのようにして使おうか。


 ヌルの一部を持ち歩いているなど、それこそこちらの居場所を教えているような気もするのだが、せっかく手に入れたものだ、有効活用しないわけにもいくまい。

 そんなことを考えながら、アハトは馬車の荷台に寝っ転がって昼寝を始める。

 昼寝の途中でフィーアが一度そうちゃんを取りに来たが、アハトは目を覚ますことなくぐっすりと眠り続けた。

 



 それからしばらくしてからのことだ。


「あれ?アハト、施設長たちはどこに行ったのかしら?」


 近くの村に買い出しに行っていたソフィが馬車に戻ってきた。


「ああ、あいつらなら子供たちの面倒をみるためにそうちゃんの中に戻って行ったぞ。

 ここにないところを見ると、フィーアが持っていったようだな。」


「子供たちを任せても大丈夫なわけ?なんだか心配だから私もちょっと行ってくるわ。」


 一度はそのまま去ろうとしたソフィだったが、止まって振り向くと。


「アハト・・・何か知ってることがあったら早めにね?」


 何か言いたげな表情をしながらも、その一言だけを送って歩いて行った。


「何か、ねえ・・・?」


 ソフィの言葉になぜかにやにやと笑みを浮かべてから、アハトは再び馬車に寝っ転がった。


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