第20話
(ハルってば、どうしてああいう事ばっかり言うのかしら?
だから、どこまで本気か分からなくなるのに。)
逃げ出してきたものの、ダンスも一旦休憩に入ったようで少し人がバラけて来た。
直ぐにまたハルと一緒に過ごすのも恥ずかしいような気がして、人混みに紛れてフラフラと祭りの会場から離れる。
けれど、一人で歩いていると、何となく居心地が悪い。
そう、私は、ハルの言葉に振り回されて、忘れてしまっていたのだ。
自分が、この町では、物凄く目立つってことを。
私に気づいた人たちが、次々にこちらを凝視している。
側に居る人と交わす囁き声。
頭のてっぺんのウサ耳から、…ミニスカートの先にすらりと伸びた細い足まで、通り過ぎれば、後ろ姿に揺れる短い尾にまで、視線を感じる。
ハルと一緒に会場を回ってた時は平気だったのに。
(ウサギだから?
それとも、このドレスのせいかしら?)
すれ違い様に、少し強面の獣人さんが、ピュウと口笛を鳴らし、目が合うとニヤリと笑っている。
ハルの笑顔とはずいぶん違う、好色な視線。
これまでは、そう、いつも誰かが一緒に居てくれたのだ。
モーリスやテディ。ハルにジーク。
だから他の獣人さん達に見られていても、それほど気にせずに居られたのだと分かる。
遠慮の無い視線に、時々興味以上の怖さも感じとって。
…私は独りで出てきた自分の行動を後悔し始めた。
そして、とうとう心細さの方が勝り、やっぱり戻ろう、と思い直して、振り返ったところで。
「…ジーク!!」
思わず、駆け込む。
「チセ、何処へ行くつもりだ?」
ジークの声は少し怒っているようだったけど、そんなことに構って居られない。
だって、なんだか、涙が出そうなんだもの。
ジークの服の裾を掴み、胸に顔を埋めると、流石に今度は焦ったような声を出したが、暫くして、頭を軽く撫でてくれた。
「独りで歩くなよ。」
「…うん。」
ジークが私を見つけてくれて、心の底からホッとしたのだった。




