第1話
モブ転生、始まります。
どうぞよろしくお願いします。
「トール! 起きてるの?」
一人の女性の声で、眠っていた俺は目を覚ました。
耳に響くほどの大声に、起きたばかりの頭が少し痛む。
「ここは……」
部屋の中を見回す。
そこにあるのは、どれも自分の家にはなかった物ばかりだった。
中には、今まで見たことすらない物まである。
そして、机の上に置かれていた一枚の学校案内が目に入った。
「ヘルメス学園……」
これって、俺がやってたゲームに出てくる学園の名前じゃないか?
『ヘルメス学園』。
以前、俺がかなりハマっていた育成ゲームだ。
育成ゲームとは言っても、ぶっちゃけてしまえば主人公が大勢の女の子たちと交流して、ゲームCGを解放していくタイプのちょっとしたゲームだった。
ただ、このゲームで一番面白かったのは、その世界観だ。
このゲームの主人公は、よくあるタイプの主人公とは少し違う。
なんと、主人公自身も転生者なのだ。
前世ではゲーム好きの青年だったが、ある日突然この世界へとやって来て、本来の主人公であるレインスの親友ポジションのキャラクター――
シス・ヴィノ。
その人物へと転生する。
つまり、ヴィノこそがこのゲームでプレイヤーが操作するキャラクターというわけだ。
ヴィノは生き延びるため、そして自分がただのネタキャラになる未来を避けるために、ひたすら修行を始める。
しかも転生者である彼は、この世界についてある程度の知識を持っている。
どこに宝が眠っているのか。
どうすれば効率よく強くなれるのか。
それらを誰よりも早く知ることができた。
その結果――。
そんなヴィノの行動が、周囲の美少女たちの目に留まるようになった。
要するに、本来の主人公にあるはずだった主人公補正が、全部ヴィノのところへ行ってしまったようなものだ。
で。
俺がどうしてこんな場所にいるのかというと……。
「覚えてるのは、七日間ぶっ続けで徹夜してゲームしてたことくらいなんだよな……」
そのあと疲れ果てて眠って。
目を覚ましたら、ここにいた。
「俺、まさか過労で死んだんじゃないだろうな……」
こんな死に方、誰かに知られたら絶対笑われる。
……いや、それよりも。
「さっきの人、俺のことトールって呼んでたよな……」
そこでようやく違和感に気づいた俺は、慌てて鏡の前へ向かった。
「嘘だろ……」
主人公に転生できなかったのは、まあいい。
せめて重要な脇役くらいにはしてくれよ!
だが、俺が転生したキャラクターは――。
プレイヤーなら視界に入っても気にも留めず、話しかけても決まった台詞を一言返すだけのNPC。
――ポート・トールだった。
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