第62話 エンディング
温泉街、極門寺、仙源郷。紆余曲折を経て、赤霊山9合目に存在した塔のギミックは全てクリアした。残るは頂上。目に見えた褒美が用意されているのか、最後の難関が待っているのか分からないが、僕たちはとうとうここまでやってきた。
「「「「「「…………」」」」」」
塔の螺旋階段を上り終えた先に広がるのは、満天の星。夜闇を照らす輝きが六名+αの登頂を祝福する。各々が絶景に目を奪われる中、歩みを止めなかった男がいた。
「鳥居のない本殿か。本来なら怨霊を鎮めるためのフォーマットであり、不吉の象徴。呪われた品々が納められている可能性もあるが……その逆もあり得る。赤霊山自体が神域で鳥居を立てる必要がなかったとすれば、お宝は本物だ」
道中の苦行によってスリムになった円蒐は並々ならない熱量をもって、眼前にある本殿を見つめている。元々こいつは頂上にある物品を入手し、売り払うことが目的と語っていた。情報源は不明だが、登山前から見通しが立っていたのは間違いなく、その想定から外れない展開が目の前に広がっている。興奮を隠しきれないのも当然で、欲しい物を目の前にすれば誰だってこうなる。
「売る前提なら聞く必要もないとは思うが、中身は何だと思う」
首輪のついたチワワ状態の僕は一歩前に出て、問いかける。赤霊山の黒幕が天津甕星なのだとすれば、それにまつわる品々だと思うが、ぶっちゃけ中身はなんでもいい。この面子で赤霊山を踏破できたことが何よりの報酬であり、他には何もいらなかった。
「無難なところで言えば、鏡、剣、勾玉か。金銀財宝が詰まった神像というのも捨てがたい。なんにせよ、神が祀られている本殿なら、依り代となる御神体があるのは確定だ。形あるものなら、アレコレと理由をつけて高値で売りつけてやるよ」
円蒐の性格から考えれば、非常に納得のいく答えが返ってきて、そのまま本殿へと近づいていく。流れるような動作で固く閉ざされた観音開きの扉を開け、中を誰よりも早く確認していった。
本来、御神体は厳重に保管され、本殿に入っても人目につかない場所に置かれているケースが非常に多い。何重もの帳や御簾によって隠されていることがほとんどで、本殿の扉を開いたからと言って、基本は見えない。
……ただ、どうやら御神体が見えたらしい。
円蒐は死んだように硬直しており、目を見開いているのが後ろ姿からでも分かった。予想が当たったのか外れたのかは分からんが、感情を露わにしていないところを見るに金目のものではなかったのは確か。
僕は星空を眺める四名を放置し、本殿へと近付いた。円蒐の隣に並び立つ形になり、中を確認する。そこに広がっていたのは……。
「巨大な卵……。無機物ならぬ、有機物ときたか。これは売れんわな」
結論に至ったと同時に、クリーム色の卵には亀裂が入る。ピキピキと音を立てて裂け目が広がり、やがて生命は誕生した。
『ピューイ』
可愛らしい鳴き声を放ったのは、青っぽい体毛が生えた雛。これが未来にどんな影響を及ぼすのか、この時点では全く予想ができなかった。
◇◇◇
『超伝導疾駆――【襲雷】!!!!!』
オレは義足の男の一撃をもろに受けた。耐えられないことはなかったが、予期せぬ事態に巻き込まれることになった。
視界に広がるのは人智の及ばぬ世界。言葉の通じなさそうな巨大生物が荒野を闊歩し、人の営みがあるようには見えない。帰り道と思わしきワームホールは閉ざされており、オレは土地勘のない場所で置き去りにされたことになる。
元の世界に帰る目途は立っておらず、そもそもとして人間が生活できる場所なのかも不明だ。明日も生きられる保証はなく、どれだけの日数をここで過ごせばいいかも分からない。誰かが助けに来る可能性も考えにくく、オレが常人の感性だったらとっくの昔に発狂していただろう。
ただ、オレは生き延びた。恐らく、現実世界における10日間程度はここで生活することができた。ねぐらとしている洞窟の壁面に石で印を刻み、その下に10月1日と記入する。時間を数えることがオレの精神安定剤だった。そうすることで現実世界との繋がりを保ち、人並みの生活を保てている気がした。
もちろん、そんなことをしたって何の意味もないことは頭で分かってる。だけど、他に何をすりゃあいい。動機も目的もなく、よく分からん世界に放り込まれて、能動的に行動できる方がどうかしている。
「はぁ……。せめて、元の世界に戻る取っ掛かりさえあれば……」
深いため息をつき、手持ち無沙汰で持っていた石を握りつぶす。実力と生き残る術だけは磨かれた気がしたが、帰る見通しがないなら無意味に思えた。
「…………」
するとそこに、洞窟内の地面を擦るような音が聞こえた。化け物かと思ったが、ここは人間のサイズに合わせて掘った狭い空間だ。あのデカい図体では入ってこれず、身体を小さくして入ってくるような知能があるとは考えにくい。少なくとも、人並みの知能がある存在が迫ってきている可能性が高かった。
「……」
オレはゴクリと唾を飲み、全身に黒色のセンスを纏い、万が一の場合に備えた。次第に音は鳴り止む。暗がりからひょこんと顔を出し、正体を露わにする。
見えたのは、甲殻型の亜人。人間と同じサイズで二足歩行をしている。元々こういったタイプが生息していたのかもしれないが、今まで見たことのない新種だった。
「言葉が通じるとは思えねぇが、一応聞いてやる。オレに何か用か?」
すかさず俺は亜人に話しかけた。狂気に近い所業だったが、可能性を捨てきれなかった。言葉が通じるなら現実世界に帰る確率が飛躍的に上がる。まぁ、九割方は無駄骨に終わるんだろうが、やる前から諦めるより、やってから無理だと分かった方が諦めがついた。
「歌を歌え。リアライブ並みの歌唱を所望する。満足すれば、協力してもいい」
扱うのはたどたどしい帝国語。ただ、ハッキリと意味は聞き取れ、向こうの要望は明らか。よく分からん世界でのサバイバル生活11日目にして、現実世界へ帰れる確率がグッと上がったのを感じる。後は……。
「だったら、聞かせてやるよ。オレの十八番をなぁ!!!」
響き渡るのは不協和音。甲殻型の亜人は耳を塞ぐような動作を見せ、失敗に終わったのが見て取れる。さすがにこの反応を見て、手応えアリと思えるほど驕ってもないし、自惚れてもない。人には得意不得意があり、実力じゃなく歌唱力が帰る条件なら、オレの行く道は前途多難だった。
◇公開予定リスト
・地獄編
・巨大生物攻略編
・???/Xデー
・王位争奪編
・エジプト編
・フランス編←NEW
公開順未定。順次更新。
◆公開未定リスト
・超常現象対策局(仮)
・ザ・マランツァーノ(仮)
・原初の混沌編




