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待たせたな!  作者: 僧籍
第三部 戦線を押し上げろ!

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将星たちの落日:泥濘と火の海を越えて 3

ニューギニア方面アメリカ軍の降伏という衝撃的な報せは、ジャングルの奥深く、泥濘でいねいの中、そして名もなき海岸線で孤立していた「兵士」たちの耳にも届いた。


ジャングルの奥深く、あるいは波打ち際の洞窟。そこには、補給を絶たれながらも戦い続けていた日本兵たちが潜んでいた。ある者はスコールを避けたシダの葉を掻き分け、ある者は浜辺の岩陰から、恐る恐る顔を上げた。


かつて自分たちを執拗に追い詰めたアメリカ軍の機音は、もう聞こえない。

代わりに聞こえてくるのは、低空を悠々と旋回する「隼」や「零戦」、そして鹵獲ろかくされた日の丸を付けた「P-51 ムスタング」「P-47サンダーボルト」の混成編隊が飛行する音であった。


「……終わったのか。本当に、終わったのか」


泥に汚れ、服はボロボロになりながらも、彼らの瞳には再び「生」の光が灯った。彼らは自然と、かつて自分たちが敗退し、退却することしかできなかった、そして遠く離れた地――ホーランディアへと歩みを始めた。


---


「おはよう!ニューギニア」放送開始


1945年8月22日、ニューギニア島ホーランディア。かつて米軍の巨大な補給基地であったこの地を占領した日本軍は、接収した大電力送信機を使い、密林と海原へ向けて新たな声を送り始めました。


---


オープニング:南方の空の下で


「おはよう、ニューギニア! 諸君、今日も南国の太陽は容赦なく照りつけているかな? 私は南方戦線開放派遣軍、報道部の木村中尉だ」


軽快な民謡の旋律に乗せて、木村中尉の快活な声が響く。


「まずは景気のいいニュースからだ。我らが第14方面軍司令官・山下奉文大将と、因幡の白兎艦隊を率いる古村啓蔵中将は、ここホーランディアを完全に掌握した。これは、東南アジアに散らばるアメリカ軍の総司令部と兵站を占領したという事だ、そして、グアムのニミッツを締め上げることにもなるんだ」



「海を見ろ、空を見ろ! 我々の頭上を固めるのは、第四航空軍だけでなく、新・太平洋艦隊の天城、葛城の航空隊だ。これらの翼が、これからマリアナからソロモンに至る海域を徹底的に監視していくことになる。まだ包囲の網は広げ始めたばかりだが、逃げ道はもはや存在しないと思いたまえ」


「敵さんは今頃、自分たちの武器が日の丸を背負って襲ってくる『悪夢』にうなされている真っ最中だ。我々が接収したアメリカ軍の航空機は、今や我々の空の盾となっている。地上部隊ではM36やM18といったアメリカ製戦車が、かつての主に向けてその牙を剥いている。日本兵が構えるM1ガーランドの速射音が、自分たちを追い詰める絶望のメロディになっているのだ」


木村中尉の声から軽快さが消え、重厚な響きが加わります。


「……そして、この放送をジャングルの奥深く、連絡を絶たれたまま戦い続けている我が戦友たちへ告ぐ。


君たちはもはや孤独ではない。ホーランディアは落ちた。ここを起点に、我々は諸君を迎えに行く。『南方戦線開放派遣軍』へ再び合流せよ。最寄りの海岸線、あるいはかつての飛行場跡地を目指せ。そこには日の丸を掲げた我々の哨戒艇や一〇〇式輸送機が待っている。もう一度、あの堂々たる正規の隊列に加わり、共に凱歌を上げようではないか」


---


「音楽は、故郷を思い出す『ふるさと』だ。これを聴き終えたら、顔を上げてくれ。我々はここで、君たちが戻ってくるのを待っている。


以上、『おはよう!ニューギニア』。報道部木村中尉だった。……諸君、武運長久を!」


放送が終わると、郷愁を誘うメロディが熱帯の空へ溶け込んでいきました。それは、絶望の中にいた日本軍兵士たちに逆転の灯をともし、孤立した米軍にはさらなる沈黙を強いる、静かなる攻撃の始まりでした。


---


平原を進む彼らの列は、いつしか巨大なものとなっていた。ジャングルから、湿地帯から、次々と戦友たちが合流していく。彼らはもはや敗残者ではなかった。堂々と胸を張り、自分たちの軍旗を掲げホーランディアへと向かう。道中、上空を通過する日本軍の哨戒機が、翼を振って彼らを祝福する。


「見ろ、俺たちの空だ」


一人の兵士が空を指さした。そこには、日の丸を纏ったP-47が、かつての主(アメリカ軍)を追い出したことを誇示するように、力強く大気を切り裂いていた。


---


ついに、ホーランディアの大基地がその姿を現した。かつてアメリカ軍が心臓部として築き上げた広大な滑走路と集積基地、日本の航空機で埋め尽くされた駐機場。基地の正門には、大きな日章旗が風にたなびいている。


「……着いたぞ。とうとう着いた」


基地にたどり着いた彼らを待っていたのは、冷徹な整列ではなく、「熱狂」と「温もり」であった。


「よくぞ、よくぞ生きて戻られた!」

「お疲れ様です! さあ、中へ!」


駐屯していた将兵たちが、作業の手を止め、駆け寄ってくる。泥まみれの彼らの肩を抱き、固い握手を交わす。


「陸軍広報部の者です、写真を撮らせもらってよろしいでしょうか?」


基地内には、勝利と安堵が混じり合った、熱い熱気が満ちていた。数ヶ月分の物資が蓄えられた倉庫からは、温かい食事が次々と運び出される。湯気の立つ味噌汁、炊き立ての飯。その香りを嗅いだ瞬間、兵士たちの目からは、こらえきれない涙が溢れ出した。


その夜、ホーランディアの夜空には、かつて、明日への不安を抱えなら、見上げた空とは違う、安らぎを感じる静謐さがあった。星々のひとつひとつの光が意味を持ち、我々の一人一人にも生きる意味があった。


「俺たちは、生きている」


焚き火を囲み、温かい毛布に包まった兵士は、静かに呟いた。ニューギニアの過酷な大地で、彼らは「死神」を退け、ついに自らの足で「希望」へと辿り着いたのだ。ジャングルの闇に消えるはずだった命が、いま、仲間たちの温かい声と灯りの中にあった。

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