沖縄戦 1-7 伊江島の戦い
伊江島の戦い
沖縄本島の北西に浮かぶ平坦な島、伊江島にアメリカ軍の巨大な影が迫る。中央にそびえる「城山」だけが、その島の誇りのように突き出していました。
伊江島はアメリカ軍にとっては沖縄全域を制圧するための「レーダー基地」と本土上陸作戦のための「航空基地」となるべき場所だった。
アメリカ軍第77歩兵師団は、慶良間諸島を制圧した経験から、小島の攻略を容易だと考えていた。しかし、彼らが上陸した瞬間に見たのは、島全体が「ひとつの生命体」となって襲いかかってくるような、アメリカ海兵隊が硫黄島で苦しんだ、常軌を逸した戦いだった。
守備隊の核となるのは、独立混成第44旅団第2歩兵隊第1大隊。わずか650名の精鋭の兵士たちだが、彼らの周りには、竹槍や擲弾を抱えた1,000名を超える沖縄県民の特設部隊が固まっていた。
「ここを抜かせば、次は本島だ。一歩も引くな!」
大隊長・井川少佐の激が飛ぶ中、島民たちは兵士たちと泥にまみれて戦った。
伊江島飛行場を巡る戦いでは、アメリカ軍の戦車に対し、地元出身の防衛隊員たちが爆薬を背負って肉薄攻撃を仕掛けた。そこには兵士と民間人の区別など無かった。島を守るという一念が、狂気と紙一重の勇気となってアメリカ軍を戦慄させた。
だが、アメリカ軍の圧倒的な物量により、海岸沿い街並みは数日で消滅した。生き残った兵士と島民たちは、島の象徴である城山へと追い詰められた。標高172メートルのこの岩山は、「要塞」。岩肌には無数の銃座が掘られ、複雑な地下坑道が迷路のように張り巡らされていた。アメリカ軍は丘の一つ一つを「栓抜き」作戦で潰していかなければならず、伊江島の攻略だけで、硫黄島に匹敵するほどの高密度の出血を強いられた。
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伊江島の南岸、波に洗われる断崖の懐に抱かれたニャティヤ洞。
かつては「千人洞」と呼ばれ、村人たちの憩いの場であり、祈りの場でもあったその巨大な自然洞窟は、1945年4月、多くの島民の命の「箱舟」となっていた。洞窟の入り口から差し込むわずかな光も、立ち込める土煙と人々の熱気で濁っていた。外では米第77歩兵師団の砲撃が、伊江島の平坦な大地を執拗に叩き続けている。
御嶽洞窟の奥、村の祭祀を司る高齢女性の《ノロ》ハルが震える手で、古い石の香炉を守っていた。古い石の香炉は「火ヌ神」の依り代だ。
ハルはこの島が戦禍に落ちる前の平和な時のことを思い出していた。
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「おばあ、今日も行くの?」
孫の蓮が尋ねると、ハルは静かに頷いた。彼女の手には、丁寧に洗われたウブク(供え物)と、包みに入った線香がある。
「これはね、ただの石じゃないんだよ。村の火を守り、ごせんぞさまと人の命を繋いできたモノだから」
ハルが香炉の前に膝をつくと、洞窟の空気がひんやりと、肌に感じる、波の音と洞窟の中の静寂、そして、自分の呼吸と鼓動。連綿と続くもの、そして、その中の自分のいのちを意識させた。彼女は香炉の中に残る、幾世代にもわたって積み重なった白い灰を指先で整える。その灰は、かつてノロが焚き上げた線香の名残であり、この集落の記憶そのものだ。
香炉は、一見すれば無機質な石の器に過ぎない。しかし、ハルが火を灯した線香を立てると、そこには確かな「熱」が宿る。
石の静寂: 荒波に削られた琉球石灰岩。
灰の記憶: 祈りが形を変えた、清浄な白。
煙の道: 天と地、神と人を繋ぐ唯一の梯子。
「火ヌ神様、今日も一日、村が穏やかでありますように。海へ出た者たちが、無事に戻ってきますように」
低く、しかし凛とした声が、地中へと染み込んでいく。蓮はその光景を背後で見守りながら、目に見えない何かが、この洞窟の空間を通じて自分たちを守っているような錯覚に陥った。
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そして、今
「トートートゥ、御先祖様……どうか、この子たちをお守りください」
彼女の呟きは、絶え間なく響く地響きにかき消されそうになりながらも、洞窟の岩肌に染み込んでいく。沖縄の人々にとって、死者は遠い存在ではなく、いのちを継ぎ、何代も連続したいのちを受け継ぎ、宇宙的なものにもつながる、常に傍らで見守ってくれる者だ。周りには、家族の位牌を抱きしめる者、先祖の名を必死に呼ぶ者がいる。
ハルは、幼い孫娘に手を引かれて、時折岩の隙間から見える空を仰ぎました。
「おてんとさま……。私たちは、何か悪いことをしたのでしょうか」
沖縄の太陽は、生命を育む慈悲の象徴だ。しかし今、その太陽の光を浴びるのは、無慈悲に降り注ぐ爆弾と、空を覆い尽くす銀色の翼だけでした。
「おてんとさまが見ているから、悪いことはできない」——そう教えられてきた子供たちは、母親の胸に顔を埋め、見えない「おてんとさま」に救いを求めていた。しかし、洞窟の外で繰り広げられているのは、人間が作り出した最悪の「地獄」そのものだ。
洞窟内にある、持ち上げると子宝に恵まれるという伝説の石「力石(ビジュル石)」。かつては喜びとともに触れられたその石の周りに、今は力なく座り込む人々が集まっていた。ここに集まった人々にとって、ニャティヤ洞は先祖と繋がり、理不尽な運命に対して「生きたい」という最後の意志を繋ぎ止める砦だった。
先祖への祈りと、未知の敵への恐怖。老婆は最期の祈りを捧げるように、静かに目を閉じました。遠方では城山が、激しい衝撃に揺れた。
【のろのまごむすめは、おばあちゃんのそばで、おびえながらいのりました。おてんとさま、たすけてください、このしまにいきる、わたしたちのいのちを】
その時、伊江島の攻撃の音がやんだ。遠くから別の音が、沖縄の澄み切った青空に響くのが聞こえてきた。
彼方から爆音を響かせながら9機の戦闘機が洞窟の上空を飛行していった。
その後に「キィーーーーーーーーン」という甲高い音があとから聞こえてきた。




