鋼の防空圏:B-29迎撃戦
1945年7月1日
絶望の空に現れたアメリカ空軍の戦略爆撃部隊
日本の空は、高度1万メートルの成層圏を蹂躙する「超空の要塞」B-29の独壇場であった。焦土と化す都市、迎撃が間に合わない本土の防空陣。銀翼の死神たちは、抵抗を諦めた獲物を屠るかのような、傲岸不遜を象徴した形をもって帝都の上空を飛んでいた。
だが、この日。
灰燼に帰すはずの帝都を目前にして、アメリカ軍爆撃機編隊は、人類の航空史を根底から塗り替える「真の悪夢」と遭遇することになる。
B-29の加圧キャビンの中、アメリカ軍搭乗員たちは勝利を確信していた。
高高度性能で劣る日本軍の戦闘機は、もはや彼らの足元を這いずる虫に等しい。眼下には、無防備な日本の家々が広がっている。あとは爆弾を投下し、業火の海を作るだけの、退屈な「作業」になるはずだった。
だが、見張り員が、異常な速度で接近する「何か」を捉えた。
「……何だ、あの速度は!?」
天を衝くような勢いで雲海を突き破り、B-29の編隊に躍り出たのは、この時代の重力と物理法則を嘲笑うかのような加速を見せる機影だった。
帰還艦隊が持ち込んだ、可能性の世界の結晶――『烈風改』。
その心臓部から放たれるのは、別世界の冶金技術と超高熱効率が生み出す、圧倒的な排気音。一万メートルの希薄な大気を力強く掴み、重爆撃機を一瞬で追い抜くその姿は、搭乗員たちの目には「青き閃光」として焼き付いた。
B-29の12.7mm旋回機銃が火を噴くが、烈風改はその弾道を予見するかのような機動で、包囲網を嘲笑う。
逆に烈風改の機首に備えられた20mmの徹甲炸裂弾が火を噴いた瞬間、B-29の強固な防弾装甲は弾け飛んだ。
「エンジン出火! 第2、第4停止! 制御不能だ!」
一発の斉射が四発重爆の主翼を文字通り「切断」し、巨大な要塞が火達磨となって、帝都の空から墜落していく。一機、また一機と、無敵を誇ったB-29が、オモチャのように空中で爆散していった。
かつて一方的な「虐殺」の場であった日本の空は、この日を境に、侵略者にとっての「処刑場」へと変貌を遂げた。
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「目標、敵大型爆撃機編隊。全機、突撃せよ!」
B-29の搭乗員たちは、眼下の雲海が激しく波打つのを目撃した。そこから、物理法則を無視したかのような「垂直に近い角度」で突き上げてくる緑の機影。
「馬鹿な、あの高度まで一気に!? 奴らは日本軍じゃない、幽霊か!」
悲鳴に近い通信が交錯する。高度一万メートルの希薄な大気など存在しないかのように、その機影はぐんぐんと距離を詰め、巨大な重爆撃機の腹下へと肉薄した。
指揮を執るのは、あのミッドウェーの炎を潜り抜け、さらなる練成を重ねた「伝説の搭乗員」たちであった。
本土近海、時空の歪みから生還した機動部隊。空母『飛龍』『蒼龍』の甲板を蹴って舞い上がったのは、未来の工学が生み出したエンジンを組み込まれた『零戦六十四型改』。
そして、そのさらに上空。空母『赤城』『加賀』から発艦した『烈風改』の編隊が、太陽を背に死神のごとき優雅さで旋回していた。
B-29の12.7mm旋回機銃が必死の火線を形成するが、零戦六十四型改はその弾幕を嘲笑うかのような鋭いロールで回避し、機首の機関砲を至近距離から叩き込む。
「堕ちろ、空の要塞め」
放たれた弾丸はB-29の強固な防弾装甲を容易く貫通。一撃を受けた四発エンジンが火柱を上げ、巨大な銀翼がポッキリと折れ曲がる。
烈風改の編隊が、逃げ惑うB-29の編隊を上空から一気に突き落とす。かつて一方的な蹂躙の場であった日本の空は、この瞬間、侵略者にとっての巨大な「処刑場」へと変貌を遂げた。
帝都の市民たちが仰ぎ見たのは、降り注ぐ焼夷弾ではなく、空一面に広がるB-29の残骸と、それらを屠り、誇り高く翼を振る「帰還艦隊」の雄姿であった。
「超空の要塞」という神話は、日本の空から永遠に抹消されたのである。
再び、帝都の市民たちが仰ぎ見る、自分たちを守るために空を切り裂く、誇り高き「日本の翼」の残光を。
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悲鳴に近い通信が交錯する。
成層圏でのドッグファイトを横目に、本土近海に隠密展開していた水雷戦隊もまた、その牙を剥いた。
「全艦、対空戦闘。……一機も通すな。この下には、我々の守るべき家族がいるのだ!」
無線から流れる伊藤整一司令長官の檄。
かつて海に沈む運命だった若者たちが、今、自分たちの「未来」が焼き払われるのを防ぐために、命の炎を燃やしていた。
防空の要たる秋月型駆逐艦の群れ。そのマストに輝く未来の電子回路は、霧の向こうに潜むB-29の高度、速度、さらには機数に至るまでを、一筋の狂いもなく演算し尽くしていた。
現代の技術に近いレーダー誘導によって制御された「六五口径九八式十センチ高角砲」が、一斉に火を噴く。その正確無比な弾幕は、B-29の編隊を逃れられぬ死の檻へと閉じ込め、次々と撃ち落としていった。
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作戦終了後、マリアナ諸島の基地で帰還を待つ管制官たちが目にしたのは、信じがたい、そして残酷な数字だった。
出撃した数百機のB‐29のうち、基地の滑走路を踏むことができたのは、全体の一割にも満たなかった。 満身創痍で辛うじて辿り着いた数少ない機体も、その機体外板は見たこともない大口径機関砲によって無残に引き裂かれ、搭乗員たちは一様に「幽霊を見た」と虚空を睨んで震えていた。
アメリカ軍司令部、そしてワシントンの統合参謀本部は、この未曾有の損失報告に根底から震撼した。
「日本の空には、戦略爆撃を殲滅する航空艦隊がいる」
この短い、しかし戦慄に満ちた報告書が、暗号と共に太平洋を越え、ホワイトハウスへと届けられた。これまで彼らが築き上げてきた「工業力による圧倒」という勝利の方程式は、時空を超えて現れた帰還艦隊という「未知の変数」によって、跡形もなく粉砕されたのである。
「彼らは我々の機銃の弾道を読み、我々の高度を嘲笑い、そして我々の誇りを灰にした」
生き残ったパイロットたちの証言は、アメリカ軍内に急速な動揺を広げていった。レーダー誘導される正確無比な高角砲、成層圏を縦横無尽に駆ける未知の戦闘機。
昨日まで「まもなく終わる戦争」と信じていた若者たちは、今、自分たちが、巨大な壁に突き当たったことを悟った。
ワシントンに届いたのは、単なる敗戦の報せではない。それは、アメリカの戦略が、日本の空で、強制的に書き換えられたという、逃れようのない事実であった。
「空の要塞」の神話は潰え、代わりに「帰還艦隊」という名の新たな神話が、燃え盛る水平線から昇ろうとしていた。
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連日のようにマリアナ諸島の基地を飛び立つ、数百機のB-29。だが、彼らが日本沿岸の防空識別圏に足を踏み入れた瞬間、アメリカ軍のレーダーが反応を示すより早く、水平線の彼方から「それ」は現れる。
「また来たぞ……あの悪魔たちだ!」
機長の悲鳴が無線を震わせる。成層圏の薄い空気を切り裂き、重力すら味方につけたマッハに近い速度で、上空から垂直に躍り出てくる不吉な機影。それは、アメリカ軍が「旧式」と侮ったはずの、しかし全く異質の進化を遂げたZekeであった。
先頭を切るのは、凶暴なまでの出力を秘めた「金星七一型エンジン」を搭載した零戦六十四型改だ。
そのカウリングは、かつての窮屈な設計とは一線を画し、過酷な連戦下でも完璧なコンディションを維持できるよう、余裕をもってエンジンを整備できる機能的な形状へと改められている。
帰還艦隊がもたらした高い整備性と信頼性に支えられたその心臓部は、1万メートルの高高度においても一切の息継ぎをせず、B-29の防御機銃が火を噴く暇さえ与えない。鋼の筋肉を纏ったかのような加速力で、重爆撃機の死角へと食らいつく。
そして、その背後に控えるのは、大柄で逞しい翼を広げ、空の王者の風格を漂わせる烈風改。
零戦と同じく「金星七一型エンジン」を心臓部に持ちながら、その巨大な翼内には、帰還艦隊の技術によって研ぎ澄まされた20mm機関砲4丁を装備している。
B-29が束になって放つ12.7mmの弾幕を、優雅さすら感じさせる機動で潜り抜け、翼内の4門が同時に火を噴く。厚い翼から放たれる圧倒的な面制圧の暴力。4条の光火が重爆の巨体を文字通り「断砕」し、四発重爆の巨大な主翼は、抵抗する間もなく紙細工のように引き裂かれていった。
「奴らは……我々の知っている日本人じゃない。未来から来た死神だ!」
燃え盛る機体から脱出した搭乗員たちがパラシュートで降りていく眼下、日本の都市は焼夷弾の雨から守られ、静かに、その姿を保っている。
マリアナへ帰還できる機体は、日に日にその数を減らしていく。
「全艦、対空戦闘。……一機も通すな。この下には、我々の守るべき人々がいるのだ!」
艦隊の中央に鎮座する『大和』と周囲を固める秋月型駆逐艦が、電探を作動せている。かつては目視と予測に頼っていた高角砲は、レーダー誘導による精密な自動追尾を得ていた。
「目標、高度10,000。全門、斉射!」
六五口径九八式十センチ高角砲が一斉に火を噴く。放たれた弾丸は、見えない糸に導かれるかのように、正確にB-29の編隊の中でその牙を剥いた。
一万メートルの高空は、瞬く間に無数の黒煙と、断続的に膨れ上がる火球によって埋め尽くされた。B-29の搭乗員たちが眼下に見るのは、もはや無防備な日本の都市ではない。自分たちの巨体を粉砕せんと突き上げてくる、鋼鉄と火薬の巨大な壁であった。
機外に広がるのは、次々と爆散し、火達磨となって墜ちていく戦友たちの姿。一撃、また一撃と、目に見えない電子の指先に引きずり込まれるように、超空の要塞はその翼を次々と失っていく。
逃げ場を失った重爆撃機たちが必死に回避行動を取ろうとも、海からはレーダー誘導の砲火が、空からは金星七一型エンジンの咆哮を轟かせる『零戦六十四型改』と『烈風改』の牙が襲いかかる。
太平洋の波濤を蹴立てて進む艦隊から放たれる弾幕は、空を十重二十重に包囲し、B-29を死の檻へと閉じ込めた。回避不能な「面の暴力」の前に、銀翼の死神たちは次々と力尽き、日本の沿岸に広がる青い海へと絶望とともに沈んでいった。
かつて日本の空を焼き尽くすと豪語した巨大な爆撃機の奔流は、忽然と姿を消した。焦土と化すはずだった帝都の上空には、夏の眩しく、透き通った静寂があった。
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「1週間で100機……。これでは、マリアナの基地が空になるぞ」
グアムの米軍第21爆撃集団司令部。カーチス・ルメイ少将は、血の気の引いた顔で報告書を机に叩きつけた。
かつて自信に満ち溢れていた爆撃機搭乗員たちの士気は、今や完全に崩壊していた。出撃命令が下るたび、基地内には重苦しい沈黙が流れ、「あの死神が出るなら飛ばない」と公然と任務を拒む者までが現れる始末であった。
戦略爆撃という「空からの勝利」を信じて疑わなかった合衆国のシナリオは、帰還艦隊という未知の鉄槌によって粉砕された。いかに強大な生産力を誇るアメリカといえど、熟練の搭乗員と高価なB-29を、毎週100機単位で失い続ける無慈悲な消耗には耐えられなかったのである。
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アメリカ軍は被害が積み重なっても攻撃を緩めることができなかった。
さらに、戦略爆撃機隊はやってきた。
高度1万メートルを突き進む100機のB-29による巨大な「コンバット・ボックス」。
機長レイモンド少佐は、加圧キャビンの静寂の中で、酸素マスク越しに荒い呼吸を繰り返していた。これまでの出撃で、マリアナの仲間たちが「全滅」に近い損害を出していることを、彼は嫌というほど知っていた。
「……第15編隊まで、全機、編隊を間を密にして維持しろ。敵機に対して死角を作るな」
レイモンドが無線で鋭く命じる。副操縦士は、血の気の引いた顔で計器を凝視していた。かつての傲慢さは微塵もない。
「少佐、P-51の護衛はまだですか? この高度でも、奴らは……あの『緑の死神』たちは上がってくる。せめて倍の護衛がいなければ、俺たちはただの標的だ」
副操縦士の震える声に、レイモンドは答えられなかった。
その時、一部の選ばれた機体にしか装備されていない後部監視防衛用レーダーを凝視していた通信士が、悲鳴を上げた。
「後部レーダーに感あり! 6時方向、真後ろだ! 速すぎる……この反応は!?」
「全銃座、後方に集中せよ! 撃て、撃ちまくれ!」
だが、レーダーが捉えられるのは後方の限定的な範囲に過ぎない。
次の瞬間、成層圏の濃紺の空から、死角を突いて「それ」が降ってきた。
金星七一型エンジンの咆哮を成層圏に響かせ、マッハに近い速度で急降下してくる『零戦六十四型改』と、翼を広げた大鳥のごとき『烈風改』の群れだ。
「上だ! 上から来るぞ!」
一陣の風が吹き抜けるたび、銀色の要塞が一機ずつ、物理法則を無視したような破壊に晒されていく。
レイモンドの視界の右側で、一機のB-29の主翼付け根が、烈風改の放った20mm徹甲爆裂弾の斉射を浴びた。火花が散った刹那、厚い鋼鉄の翼が、内側から膨らむように爆発して、まるで乾燥した小枝のようにポッキリと根元から折れ曲がった。巨大な機体は平衡を失い、断末魔の悲鳴のような風切り音を立てて錐揉み状態へと陥っていく。
「ベーカー機、主翼喪失! 墜ちていく!」
だが、悪夢は始まったばかりだった。
左前方を飛んでいた同型機のコクピットに、零戦の放った一発の徹甲爆裂弾が吸い込まれるように着弾した。
凄まじい閃光。
次の瞬間、数人の操縦士たちが必死に操縦桿を握り、家族の写真を抱えていたはずの機首部分は、跡形もなく吹き飛んでいた。コクピットがまるまる消失し、断面から剥き出しの配線と内装をぶちまけながら、主を失った鉄の塊が成層圏から放り出されていく。
「レーダーに映らない方向から来る! 逃げられない、奴ら、死角から――」
後部レーダーの限定的な索敵範囲を嘲笑うかのように、敵機はあらゆる角度から肉薄する。
「ノー! 来るな! 撃て、撃ち落とせ!」
銃座の機銃が絶叫するように火を噴くが、背後の死神は翼を翻し、弾道を嘲笑う。
直後、機体後部を凄まじい衝撃が襲った。尾翼が粉砕され、操縦系統が死んだ。制御不能に陥った機内で、操縦士たちはパニックに陥り、互いの名前を叫びながら、ただ墜落までの数秒間を数えることしかできなかった。
無線のチャンネルは、もはや地獄の底のような悲鳴と断末魔で埋め尽くされていた。
「メーデー! メーデー!」
「母さん、助けてくれ!」
「火が止まらない! 脱出――」
もはや編隊としての機能は消失していた。
あらゆる方向――上空、側方、そして死角である真下から。
帰還艦隊の戦闘機群が、獲物を仕留める狼の群れとなって100機のコンバット・ボックスを食い破っていく。
レイモンドの眼前に、一機の烈風改が翼を翻して迫る。
その翼内に装備された4門の20mm機関砲が火を噴く。
それが、彼がこの世で見た最後の光景だった。
100機を数えた銀色の要塞群は、わずか数分のうちに、初夏の空に描かれた黒煙の筋へと姿を変えた。
日本の沿岸に降り注いだのは爆弾ではない。
かつて「超空の要塞」と呼ばれた、傲慢な侵略者たちの残骸であった。
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いつもなら空を埋め尽くし、大地を震わせるはずのB-29の爆音は、どこにも聞こえない。
8月の日本の都市を見守るのは、抜けるような青空と、入道雲の白さだけだった。
その平穏な空を切り裂き、一機の機影が悠然と舞う。高速偵察機『彩雲』だ。
哨戒任務を終えたその美しいシルエットは、初夏の光を反射しながら、沖合に待機する航空母艦へと吸い込まれるように着艦していく。それは、日本の空が再び「日本人の手」に取り戻されたことを告げる、静かな、しかし力強い儀式のようであった。
アメリカ軍はついに、日本本土への無差別爆撃作戦の「無期限停止」を決定した。
「我々は空を支配していたのではない。ただ、彼らに誘い込まれていただけだったのだ」
マリアナの滑走路に並ぶ、主を失った数少ないB-29の群れ。それらはもはや「超空の要塞」ではなく、荒波に飲み込まれた、巨大な鋼鉄の残骸に過ぎなかった。
1945年8月5日
地平線の先に、陽炎たなびく日本の夏は、帰還艦隊がもたらした「勝利」の中で、眩しくも、穏やかな日常を取り戻そうとしていた。




