↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
待たせたな!  作者: 僧籍
第二部 南方戦線に取り残された同胞の救出を誓う

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/177

3隻の空母は北から迫るソ連軍を迎撃するために出航するーそして、樺太にせまるソヴィエト軍の予兆

午後。ムアラの港には、見たこともないような壮観な光景が広がっていた。


波静かな湾内に、巨大な空母三隻がその威容を誇り、その周囲を「幸運艦」として名高い駆逐艦「雪風」、「初霜」、そして、《帰還艦隊》の3隻の秋月型駆逐艦が固めている。


岸壁には、山下奉文大将をはじめとする陸軍部隊、そして居残ることになった「因幡乃白兎」艦隊の乗員たちが勢揃いしていた。


「日本を救いに行ってこい!」

「ここはおれたちが守る!心配するな!」


悲壮感はない。そこにあるのは、自分たちの国を自分たちの手で守るという、清々しいまでの意志でした。将兵たちは帽子を振り、満面の笑みで北へ向かう仲間たちを鼓舞した。


古村中将は、岸壁の最前列で敬礼を捧げた。


――ボーーー、ボーーー、ボーーー。


突如、静かな湾内に、腹に響くような長い汽笛が三回鳴り響く。

それは艦隊から残される者たちへの、そしてこの南の海への、誇り高き別れの挨拶だ。


山下大将が、傍らの幕僚に呟く。


「見ろ、あの三隻を。あれが北方日本を救う艦隊だ!海軍にならって帽を振って応援しよう。」


三空母がゆっくりと回頭を始めると、港中に「帽振れ」の波が広がる。


ボーーー、ボーーー、ボーーー。


再び三回の長い汽笛が鳴る。


「日本を救ってこい!」

「次は勝利の酒を、東京で飲もう!」


ゆっくりと、しかし確実に、巨大な艦体が動き始める。

スクリューがブルネイの青い海を白く泡立て、艦隊は航跡を描きながら外洋へと進んでいく。


空を見上げれば、そこにはどこまでも高い南国の青空が広がっていた。

雲一つない天は、まるで彼らの行く末を祝福するように、黄金色の陽光を海面に降り注いでいる。


日本本国へ、そして北方へ。


南国の高く澄み渡った空に、艦隊の煙がたなびく。


「翔鶴」「瑞鶴」「大鳳」――。


伝説の空母たちは、背後の戦友たちに南方の未来を託し、一路、北の戦雲へと波を切って進む。


タイムリミットまで、あと十数日。


****






北満州の緊迫が極限に達していたその時、北東の果て、樺太と千島列島に張り巡らされた「北の耳」もまた、異変を鋭く捉えていた。


樺太・落合おちあい通信所。

樺太全土の無線傍受を統括するこの施設では、ソ連領北樺太の「アレクサンドロフスク」から発せられる異常な通信量に、通信兵たちが色を失っていた。


「北緯五十度線付近、ソ連軍第79狙撃師団の無線封止が解除されました! 暗号形式、一斉に変更!」

ヘッドホン越しに聞こえるのは、ノイズに混じったロシア語の怒号。これまでの平穏を切り裂くような、攻撃部隊の呼出符号コールサインが、国境を越えて殺到していた。


一方、霧に包まれた北千島の要衝、幌筵パラムシル島。

ここに置かれた海軍の通信監視拠点は、オホーツク海を北上するソ連艦隊の微弱な電波を逃さない。


「カムチャツカ半島のペトロパブロフスクより発信! 潜水艦および揚陸艇部隊へ、上陸作戦開始を告げる秘匿符号を確認!」


霧に隠れて見えないはずの敵艦隊が、無線の波紋となって、通信兵の受信盤の上にありありとその姿を現していた。


これら樺太、北方諸島からの凶報は、即座に大和田通信所へと中継される。


「樺太国境、侵攻準備完了! 占守海峡の先、カムチャッカ半島からの侵攻の予兆を確認!」


大陸、樺太、そして千島。

日本を包囲する北の全線から寄せられた絶望的な情報は、大和田の巨大アンテナを伝い、東京の参謀本部・特種情報部へと奔流のごとく流れ込む。


「全方位、赤信号……!」


通信士の震える手が、すべての危機を一枚の報告書にまとめ上げる。それは、帝国の北壁が崩壊する瞬間の記録だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。