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待たせたな!  作者: 僧籍
外伝1 南方戦線に取り残された同胞の救出を誓う

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総合国家政治戦略企画機関の誕生 1 国家総力戦研究所

1945年7月。蝉時雨が降り注ぐ霞が関の空気は、澱んだ重苦しさに包まれていた。


かつて、この街の一角で、一つの「知性」が葬られた。


国家総力戦研究所。


平均年齢35歳。各省庁や軍部から選りすぐられた精鋭たちが、客観的なデータと統計を武器に国家の未来を机上演習した場所だった。彼らが出した結論は、あまりにも冷徹な「日本必敗」の四文字だった。


しかし、その報告書を受け取った上層部の軍人や高位官僚たちは、その計算された未来予想に重きを置かなかった。

彼らにとって、研究所は所詮、各省の「下部組織」であり、体裁を整えるための「教育機関」に過ぎなかったのだ。情報を総合的に判断し、不都合な真実を直視する能力を欠いた組織構造が、その存在意義を事実上、無効化した。


露呈した「判断の欠落」

指導部が積み重ねてきた戦略的判断の誤りは、修復不能な破綻となって現れた。補給網は寸断され、資源は枯渇し、机上演習が警告していた「ソ連の参戦」が、現実の脅威として北から迫っていた。


大負け寸前の極限状態に至って初めて、指導層は自らの判断能力に致命的な疑念を抱かざるを得なかった。もし、突如として現れた異形の艦隊――《帰還艦隊》という計算外の戦力が介入していなければ、日本はすでに組織的な抵抗能力を失い、占領を受け入れる以外の選択肢がなかったことを、彼らは突きつけられた。


苦い歴史からの脱却

この組織的な機能不全という苦い経験から、一つの組織が再定義された。

それはもはや、既存の枠組みに縛られた検討会ではない。


総合国家政治戦略企画機関。


この機関は、かつての国家総力戦研究所が持っていた人員と知見をそのまま引き継ぎながら、その位置付けを根本から変えた後継組織だ。


新設されたこの機関は、軍や外務省の下部組織という地位を脱し、国の各省と並び立つ規模と権限を持つ独立した組織へと改組されました。


情報の統合化: 各省庁が個別に抱えていた情報を一元化し、軍事・経済・外交を切り離すことなく、一つの「国家戦略」として構築する。


客観性の担保: 組織の保身や自尊心によってデータが歪められることを防ぐため、内閣や各省の指揮系統から独立した判断基準を持つ。


かつての「研究生」たちは、いまや一国の進むべき航路を算定する実務者として、巨大な作戦盤の前に立っていた。

彼らが手にするのは、精神的な高揚ではなく、あらゆる情報に幅広い情報分析と、二度と判断を誤らないという組織的な規律だ。


敗北の縁で生まれたこの機関が、《帰還艦隊》という強大な戦力をいかに運用し、迫りくる北の脅威に対してどのような解を導き出すのか。


日本の新しい戦いがここから始まろうとしていた。


****





時を遡る

1940年(昭和15年)10月。秋の気配が色濃い東京・河田町に、一つの看板が掲げられた。


「内閣総力戦研究所」


それは、これまでの日本軍が経験したことのない、全く新しい戦いのための「頭脳」となるべき場所でした。


召集された「若き知性」


その門をくぐったのは、軍の老将たちではない。平均年齢30代半ば。各省庁や軍部、民間から選りすぐられた精鋭たちが、一つの「模擬内閣」を構成するために集められた。


陸海軍からは、最前線の現実を知る中堅将校。


大蔵省、外務省、内務省からは、国家の骨格を担う若手官僚。


日本銀行、同盟通信、民間企業からは、経済と情報の専門家たち。


彼らは「研究生」と呼ばれましたが、その実態は、国家という巨大なシステムを科学的に解剖し、再構築しようとする「国家の頭脳集団」だ。


1941年8月。開戦の足音が間近に迫る中、彼らは歴史に残る「総力戦机上演習」を敢行した。


薄暗い演習室に、膨大な統計資料と計算尺、そして地図が広げられる。彼らは主観を排し、冷徹な客観的事実のみを積み上げていく。

「米国の工作機械生産力は日本の十倍以上だ」

「南方からの輸送路が断たれれば、製鉄所は一ヶ月で止まる」

「ソ連の動向を無視して戦略は組めない」


数日間にわたる議論の末、彼らが弾き出した結論は、あまりにも残酷な「日本必敗」の四文字だった。


突きつけられた「死のシナリオ」


彼らが描き出した未来は、まるで数年後の現実を予言するような詳細なものだった。


初期戦況: 真珠湾攻撃などの奇襲により、日本は一時的に優位に立つが、長期戦となれば米国の圧倒的な生産力に押し潰される。


補給の断絶: 海上輸送路が敵の潜水艦と航空機によって完全に遮断され、日本本土からは石油、鉱石、そして食料さえもが消え去る。


ソ連の参戦: 戦局が末期に至った際、ソ連が日ソ中立条約を一方的に破棄して参戦。これが日本への「トドメ」となる。


「……これでは、戦う前に負けているではないか」

研究生の一人が、震える手で計算書を置いた。科学が導き出した答えは、日本の滅亡を指し示していた。


黙殺された真実

この衝撃的な報告は、時の内閣総理大臣・東條英機の耳にも届けられた。

演習の最終報告会。研究生たちの真剣な眼差しに対し、東條は机上の報告書を隅から隅までしっかりと読み込む。


「諸君の研究は良い方向性で纏まれている、その結果は別として。しかし、戦いというものは計画通りにはいかないものだ。そこには『意外な要素』というものがある、それが前回の大戦や日露戦争だ」


東條は、科学的予測よりも自らの信念を優先しざる負えず、その言葉と共に「必敗」の結論に、目を瞑る。


「この戦いは避けがたい状況で始められた、以前の日露戦争、三国干渉による戦いの時同様に、避けようがない状況である。今回はそれ以上にアメリカ、イギリスの策略によって、日本は抜け出せない状態に陥っていると考えても良い。この予想結果は無視ができないが、しかし、我々は戦わざるを得ない」


その瞬間、日本の運命は確定しました。

科学を捨て、数字を無視し、自ら描いた「勝利」という幻想を追って、帝国は破滅への坂道を駆け下り始めた。


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