表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
待たせたな!  作者: 僧籍
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/113

南方奪還——「曙光作戦」の胎動

1945年5月。沖縄を覆っていた絶望の雲は消え去り、島は解放された。掃討作戦を終えた日本軍沖縄防衛軍(第32軍)と、菊水艦隊「新連合艦隊」は、一つの強大な軍集団になる。


舞台は、那覇沖に停泊する戦艦『陸奥』の司令部へと移る。

戦艦『陸奥』の司令部施設。重厚な鉄扉の向こう側には、1940年代の常識を遥かに超えた光景が広がっていた。

多数の陰極線管(CRT)が淡い緑の光を放ち、リール式の磁気テープが静かに回転し、フィリピンからインドネシアに至るまでの戦況が映し出されていた。機械の明滅する電子回路、そしてリアルタイムで周辺の敵味方を識別するレーダー・システム。1940年代の技術を凌駕する高度な戦略管制システムを陸奥の司令部員が動かしている。

「……これは、本当に我々の知る『軍艦』の中なのか」

「……信じられんな。周辺海域の敵の動きが、手に取るようにわかる」


八原博通大佐は、透明ボード(垂直プロット)上の地図上に表示されたルソン島の地形を見つめ、その上に「敵味方の識別記号」や「予想進路」を書き込んだアクリル板を見て、驚嘆を隠せませんでした。隣に立つ牛島満中将は、その画面を見つめながら静かに頷きました。


「八原君、これはすごいな。『最短距離』が示されている」


そこには、新連合艦隊司令長官・伊藤整一中将、そして「帰還艦隊」の司令官長官、潜水艦隊司令官が顔を揃えていました。彼らの前にあるモニターには、フィリピン奪還、ブルネイ・セリア油田に至るまでのシーレーン確保を目的とした、壮大な南方反撃作戦が映し出されていました。


****

牛島中将は深々と頭を下げました。

「伊藤長官。そして帰還艦隊の司令官長官。沖縄の将兵、そして数十万の県民を絶望の淵から救い出していただいたこと、第32軍司令官として心より感謝申し上げる」


その言葉には、理屈を超えた魂の重みがこもっていました。八原もまた、軍刀を傍らに置き、深く一礼しました。


「……感謝に堪えません。しかし、参謀として、あえて無礼を承知で伺いたい。貴公らは何者なのか。あのアメリカ第58任務部隊を……アメリカ海軍の機動部隊を撃破した、その力は一体どこから来たのか」


****


帰還艦隊司令長官は、次元の向こうにある深い闇を見つめるように静かに語り始めました。


「牛島中将、八原大佐。信じがたいことでしょうが、我々もまた、自分たちがなぜここにいるのか、その物理的な理由は分かっていないのです。我々は、いくつもの異なる『可能性の次元』から呼び戻された者たちの集まりなのですから」


この言葉に、帰還艦隊の潜水艦隊司令官が続けます。

「ある者は、海に沈む瞬間に。ある者は、戦後に。我々は異なる時空で一度は果てた魂、あるいは失われた記憶なのです。しかし、気づいた時にはこの鋼鉄の船とジェラルミンの翼と最新鋭の武器とそれを操縦する経験と知識と共に、この1945年の沖縄の海に浮上していました」


「なぜ、ここなのか。なぜ、今なのか。その答えは我々の中にはありません。しかし……」


帰還艦隊司令長官は、二人の目を真っ直ぐに見据えました。

「我々全員の胸には、磁石の針のように揺るぎない一つの使命だけが刻まれています。『日本を救い、世界を救い、そして人間の尊厳を守る』こと。それが、我々をこの戦場へ呼び戻した唯一の理由なのです」


****


「人間の、尊厳……」

牛島中将はその言葉を噛みしめるように繰り返しました。泥にまみれ、自決を覚悟し、ただ「死ぬための理由」を探していた日々が、遠い昔のことのように感じられました。


「理屈や理論を重んじる私ですが」

八原大佐が、わずかに口元を綻ばせました。

「この『陸奥』の設備と、貴公らの戦果という圧倒的な『現実』を前にしては、次元がどうあれ、疑う余地はありません。貴公らは、我々が待ち望んでいた、真の友軍だ」


牛島中将、八原大佐は、伊藤長官と帰還艦隊司令長官と潜水艦隊指令達と固い握手を結びんだ。

「何よりもいのちが大切。この言葉を、死に向かって生きるのではなく、未来を創るためのいのちとして使う時が来たようですな。新連合艦隊と共に、我ら第32軍も、このいのちの使い道を最後まで見届けさせていただこう」


****


「曙光作戦」:フィリピン攻略計画

司令部作戦参謀長が指揮棒を手に取り、作戦の概要を語り始めました。


「我々の目標は、ルソン島の西回りに進撃し、マニラ湾を一気に封鎖することにあります。まず、イギリス太平洋艦隊(第57任務部隊)が陣取るスービック湾を急襲し、彼らの拠点を無力化。続いて、マニラ湾の門番であるコレヒドール島要塞フォート・ミルズおよびカビテ海軍基地を攻略します」


「まず、地上攻撃部隊の増強のため、台湾に展開している精鋭第9師団と合流、地上戦は第32軍が担当していただきます」


モニター上のアイコンが次々と赤く塗り替えられていきます。


「マニラ上陸後は、陸軍の主要拠点フォート・マッキンリーを制圧。周辺の航空基地を占領し、制空権を完全に掌握します。その後、ルソン島の山岳地帯に潜伏し、今も戦い続けている山下奉文大将率いる第14方面軍と合流。戦力を再編成し、フィリピン南部の諸島に展開するアメリカ軍を各個撃破します」


その最終的な狙いは、南方資源地帯、特にブルネイのセリア油田の確保。このシーレーンが繋がれば、日本のエネルギー不足は解消され、日本の続戦能力が向上し、全体状況が改善され劣勢ではなくなります。


****


那覇の港は、かつてない活気に満ちていました。

接収されたアメリカ軍の輸送艦やタンカーには、今や日章旗が掲げられ、アメリカの良質な燃料や食料が、新連合艦隊へ積み込まれていく。


潜水母艦に横付けされた伊400改型で編成された潜水艦隊は、高性能魚雷と燃料を補充していた。


第32軍の兵士たちは、アメリカ軍の装備が支給され、連合艦隊の大型輸送艦へと次々に乗り込んでいきます。彼らの目は、次の戦場、フィリピンへ向けられた。その目には現地で戦っている兵士たちを救出するという、強い意志が宿っていました。

死を超えた使命感、そして地獄から生還した兵士たちの不屈の意志。

それらが一つに溶け合い、「希望」へと変えながら進み始めました。


****


抜錨:那覇港からの出航

1945年5月中旬、夕刻。

那覇港の新連合艦隊の船団の蒸気タービン機関が出力を上げ始めた。


「……全艦、抜錨」


伊藤長官の号令とともに、戦艦『大和』『陸奥』を先頭に、正規空母「赤城」「加賀」「 蒼龍」「飛龍」「大鳳」「翔鶴」「瑞鶴」、伊400改型潜水艦隊、そして多くの駆逐艦と上陸船団、輸送船団が、静かに、しかし力強く港を離れていきました。


海岸線には、海に突き出たサンゴ礁の断崖絶壁の岩の上にある波上宮なみのうえぐうで那覇の人々が集まり、見えなくなるまで手を振り続けていました。


艦隊の行く先は、南。

フィリピン、そしてブルネイ。

失われた領土と誇りを取り戻すため、新連合艦隊は、黄金色に染まる海を一路南へと突き進んでいった。


****


スービック湾

ルソン島中西部、サンバレス州の深い緑に囲まれたスービック湾。そこには、先島諸島から撤退し、休息と補給のために後退してきたイギリス太平洋艦隊(第57任務部隊)の姿があった。


装甲甲板を誇る正規空母『インドミタブル』『ビクトリアス』『イラストリアス』『インディファティガブル』。

イギリス海軍の誇りであるこれらの巨艦は、湾内の静かな水面にその巨大な影を落としていました。


特別攻撃隊による被害。

そして、ここ沖縄に「アメリカ海軍第5艦隊の戦艦、空母、沖縄上陸艦隊、陸軍第10軍の地上戦力」を壊滅させた軍団がこのスービックを襲う者はすぐそこまで来ている。


イギリス太平洋艦隊は決死の大海戦への準備を始めていた。


****


1945年5月下旬。

フィリピン、ルソン島。マニラ近郊に位置するフォート・マッキンリーの司令部ビルは、熱帯の湿り気を帯びた空気さえも凍りつかせるような、異様な沈黙に包まれていた。


数日前まで、この場所はアメリカ軍の戦略を作成する演算装置でした。壁面には日本本土上陸作戦「ダウンフォール」の緻密な工程表が並び、将校たちは、上陸時に流れるであろう兵士のいのちを、統計学の数字として処理していました。


しかし今、そのシステムは、一通の電文によって跡形もなく粉砕されました。


****


司令官室の奥。ダグラス・マッカーサー将軍は、彫像のように動かず、手にした紙片を見つめていました。そこには、アメリカ海軍史上、最悪という言葉ですら生ぬるい「壊滅」の報告が記されていました。


「沖縄派遣軍……第10軍、および第58任務部隊……全滅だと?」


マッカーサーの低い声が、部屋の隅々にまで響き渡りました。

スプルーアンスの機動部隊。不沈を誇った最新鋭の正規空母群。そして、沖縄を完全に制圧したはずの数個師団。それらすべてが、正体不明の「日本艦隊」によって、わずか数日で海の藻屑と化した。


「再来の誓いを果たし、我々はこの島を奪還した。だが……再び、あの攻防戦が始まるのか?」


****


階下のメイン・指令室では、数日前までの整然とした雰囲気は霧散していました。

張り巡らされた無数の電線、電信線は、沖縄派遣軍が壊滅した驚愕の情報を流し続け、テレタイプは絶望を打ち出し続けています。


「第58任務部隊との連絡が途絶! 第5艦隊、第10軍、および沖縄上陸部隊からも応答がありません!」

「沖縄周辺の哨戒機、一機も戻らず! 敵の正体は……不明! 報告によれば複数の空母と護衛艦隊が来襲したと!」


アメリカ軍将校たちは、接収したビルの中で、自分たちが築き上げた世界最強の兵站システムが、根底から腐り始めていることに気づき始めていました。


マニラ湾にひしめく数百隻の輸送船、フォート・マッキンリーに集積された膨大な山――弾薬、医療品、食料。それらはすべて、アメリカ本土からの「海路」という動脈で繋がっていた。


「沖縄が落ちたのなら、我々は……このフィリピンで防衛戦略を構築しなくてはならない」

一人の若い参謀が、震える声で呟きました。


****


昨日まで、彼らは最前線へ物資を流し込む計画を練っていた。

しかし今、その計画は破綻した。

マニラ港の倉庫では、沖縄へ向かうはずの弾薬箱が積み上げられたまま放置され、しかも、兵士たちは「次の補給が来ないかもしれない」という噂に、早くも怯え始めていました。


マッカーサーは、窓の外の夕闇に沈むマニラ市街を見つめました。

廃墟を土台に築き上げたこの「巨大な軍事システム」は、精強な海軍の守護を失った、しかし、まだ、フィリピンには精強な航空隊、地上戦力、イギリス太平洋艦隊(第57任務部隊)が存在している。


****


「将軍、台湾方面の哨戒網に異変です」

情報将校が駆け込んできました。

「レーダーにノイズが混入。さらに、潜水艦隊からの定期連絡が途絶しました。何かが……何かが北から、南フィリピン海域に向かって近づいています」


マッカーサーは、ゆっくりとコーンパイプを口にくわえ、マッチを擦りました。

その炎が、彼の戦意に満ちた瞳を照らし出します。


「……海軍がいなくとも、我ら陸軍にはこの大地がある。来させてみろ、マニラ湾の藻屑にしてやる。上陸してきたらルソンの土に埋めてやるまでだ」


強気な言葉とは裏腹に、彼の背中には、冷たい汗が流れていた。


フォート・マッキンリーの巨大な心臓は、迫りくる「新連合艦隊」の鼓動に呼応するように、激しく、そして不規則に打ち始めていました。


****


クラーク・フィールド航空基地

ルソン島中央部に位置するクラーク・フィールド。ここはもはや「飛行場」ではなく、空を支配するための「工場」だ。

日本軍から奪還した際に付いた弾痕を埋める間もなく、コンクリートが流し込まれ、滑走路が無限に伸びていた。


B-17、B-24、そして最新の戦闘機たちが、大地を震わせる轟音を立てて絶え間なく離着陸を繰り返していた。


ニコルス、ニールソン、そしてミンドロ島の各基地からも、哨戒機が四方に飛び立ち、南シナ海の制空権は完全にアメリカの掌中にある……。


少なくとも、彼らはそう信じて疑いなかった。


****


フィリピン海域封鎖・深海からの包囲網

南シナ海からルソン海峡に至るまで、10隻の伊400改型潜水艦が、音もなく定位置についた。


船殻を覆う防音タイルは海流の摩擦音さえも吸い込み、ディーゼル・エレクトリック推進は潜航時に高性能電池による電磁モーターによって、アメリカ軍の最新ソナーに対しても完全な「静寂」を保つ。


「目標、サンベルナルジノ海峡へ向かう敵タンカー群。距離15,000」


伊405改の艦内では、冷たい緑色の光を放つモニターを見つめ、水雷長が静かに報告します。そこには、この海域を最新の索敵ソナーと精密誘導兵器で支配するシステムがある。


「1番から4番、発射。有線誘導開始」


微かな振動と共に、誘導魚雷が発射されました。魚雷の尾部からは、超極細の光ファイバーと有線ワイヤーが伸び、艦の火器管制コンピュータと繋がる。


アメリカ軍の護衛駆逐艦は、自慢のソナーに何も映らないことに焦りを感じていました。しかし、その直下を魚雷がすり抜けていきます。駆逐艦が放つ偽装音響デコイを、潜水艦側のオペレーターがモニター上で見破り、手動で進路を修正した。


「ワイヤー切断。自律追尾に移行」


目標まで残り数百メートル。魚雷自体のソナーが「ロックオン」の音を発した瞬間、タンカーの船腹に巨大な火柱が上がりました。続いて、弾薬を積んだ輸送艦が誘爆。海面は一瞬にして燃える油の地獄と化した。


****


封鎖の余波は、瞬く間に陸上へと波及しました。

スービック湾やマニラ港の桟橋では、到着するはずの物資が届かず、焦燥した兵站将校たちが無線機に向かって怒鳴り散らしていました。


「タンカーはどうした! 航空燃料がなければ、クラークの爆撃機はただの鉄くずだぞ!」

「輸送艦隊との連絡が途絶しました。最後の一文は……『海が爆発している』です」


アメリカ軍の誇る巨大な兵站システムは、マニラの兵站基地内に莫大な補給物資と燃料が蓄えられていたが、これが尽きると心臓へ送られる血液を止められた巨人のように、末端から壊死しはじめる。戦車は空の燃料タンクを抱えて沈黙し、ロングトムと呼ばれた大口径のカノン砲の弾薬は底をつき、兵士たちの食事さえもC級レーションから干からびた乾パンへと変わるだろう。


静かなる絶望

アメリカ駆逐艦長は、海面を見つめて震えていました。

「爆雷を落とそうにも、敵がどこにいるのかさえ分からない。我々は……見えない幽霊と戦っているのか」


対潜哨戒機がいくら海面を飛び回ろうとも、伊400改型は深海300メートルの「沈黙のサーモクライン」の下で、次の獲物を冷徹に選び続けている。

精強を誇った連合国南西太平洋軍、アメリカ陸軍第6軍、第8軍と、大英帝国の誇りである第57任務部隊。彼らを支える巨大な動脈は、新連合艦隊の潜水艦隊によって、今まさに締め上げられようとしていた。


****


「沖縄の侵攻軍は、あくまで日本に向けられた槍の先』に過ぎませんでした」

日本連合艦司令部参謀長の声が、司令部室に響きます。


「しかし、このフィリピンに展開している連合国南西太平洋軍は、アメリカという巨人、そのものです。現在、ルソン島攻略の主力である第6軍が約25万、直接の「戦闘部隊」としては、約10万人。さらに、南部諸島の掃討を担当する第8軍が約20万、戦闘に従事した実数は約7万〜8万人。後方支援部隊を合わせれば、その数は50万を優に超え、単一の島嶼戦としては沖縄をも凌駕する兵力密度を維持しています」


第6軍は、マニラを「陥落させた街」ではなく「巨大な集積地」へと作り替えていた。フォート・マッキンリーを核としたその拠点は、日本本土侵攻――ダウンフォール作戦のための、巨大な兵站ターミナルに変えた。


対して、南部に展開する第8軍は、レイテ、ミンダナオ、ビサヤの各諸島を攻略していた。彼らの任務は、日本軍の残光を完全に消し去り、アメリカ軍の「背後」を盤石にすることだった。


「ですが……アメリカ軍の足元には、まだ、同胞が戦っています」

参謀長が指揮棒を向けた、ルソン島北部の山岳地帯。そこには、アメリカ陸軍第6軍と向き合い、飢えと病に耐えながら戦い続ける山下奉文大将率いる「尚武集団」がありました。


「彼らは泥を啜りながらも、アメリカ軍の25万の主力をこの山地に釘付けにしています。アメリカ軍にとって、フィリピンは『完全に占領した国』ではない。我々が海から心臓を突き、彼らと呼応すれば、この巨大な兵站基地は内部から崩壊します」


****


ルソン島北部の険しい山岳地帯。そこには、飢餓と病魔に蝕まれながらも、アメリカ第6軍25万の主力を釘付けにし続ける山下奉文大将率いる「尚武集団」の姿があった。

1月のリンガエン湾上陸から半年。アメリカ軍は圧倒的な火力を叩き込みながらも、複雑な地形に潜む日本軍を完全には排除できず、焦燥を募らせていました。


その最中、南部諸島ではアメリカ第8軍の攻撃は加速させていた。パラワン、パナイ、ネグロス、そして巨大なミンダナオ島。アメリア軍はこれらすべての島々を、日本本土という「本丸」を攻めるための足場へと作り替えていた。


****


「……彼らは、あまりにも欲張りすぎましたな」

八原博通大佐が、フィリピン各地に散開するアメリカ軍の補給線を指揮棒でなぞりました。


フィリピンに駐留するアメリカ軍の正体は、純粋な戦闘部隊だけではありません。その背後には、本土侵攻作戦――ダウンフォール作戦を支えるための、膨大な後方支援部隊、建設大隊、医療部隊、そして山のような集積物資がひしめき合っていました。


「戦闘部隊2に対し、支援部隊8。この巨大なピラミッドは、海からの絶え間ない補給で支えられている。潜水艦隊がその糸を断ち切った今、この数十万の大軍は、自らの胃袋の重さで自壊を始めます」


兵站の窒息

南部諸島のミンダナオ島や周辺の島々(パラワン島、 ビサヤ島、テイテ島)の熱帯の高温多湿な密林でアメリカ第8軍がかつてない異変が起きていました。


「なぜルソンの兵站基地から燃料、弾薬が届かない! 潜水艦にやられた輸送艦の代替はまだか!」


海路における南部諸島の軍団への補給が滞っていた。

アメリカ軍将校の怒声が虚しく響きます。新連合艦隊の封鎖により、フィリピンは「巨大な基地」から、出口のない「巨大な檻」へと変貌しつつありました。


****


「……信じられん。第5艦隊は、もう存在しないというのか」


マニラのアメリカ第6軍司令部では、将校たちが真っ青な顔で沈黙していました。海上の盾を失った彼らにとって、南シナ海はもはや「自由な通路」ではなく、いつ、どこから、どんな怪物が現れるかわからない「絶望の深淵」と化していました。


アメリカ海軍の主力空母・戦艦戦力が消滅したことで、フィリピンの防衛はアメリカ陸軍と、先島諸島から撤退してきたイギリス太平洋艦隊(第57任務部隊)の肩に重くのしかかりました。


****


イギリス艦隊 司令官バーナード・ヴィアン中将

スービック湾に停泊するイギリス空母『インドミタブル』の甲板。

「海上の防衛は我々第57任務部隊に委ねられた。だが……」

艦隊司令官は、湾内に広がる自軍の艦艇を見つめ、溜息をつきました。


イギリス海軍は装甲甲板という強みを持ってはいたものの、彼らもまた、新連合艦隊の実力を理解していた。なによりも致命的なのは、アメリカ海軍を破壊した日本海軍の最新の装備に対応できない点だった。


「アメリカ海軍が全滅した以上、我々が沈めば、ルソン島は完全に裸になる。一歩も引くことは許されない」


****


バターン半島沖海戦 ——


リンガエン湾沖からマニラ湾へ向かう新連合艦隊の前に、イギリス太平洋艦隊(第57任務部隊)がその威容を現しました。装甲空母『インドミタブル』『ビクトリアス』『イラストリアス』『インディファティガブル』。彼らはスービック海軍基地の巨大な兵站基地から潤沢な補給を受け、燃料も弾薬も万全の状態で待ち構えていました。


しかし、新連合艦隊の先鋒を務める秋月型駆逐艦の群れが、海中の脅威「潜水艦」を許さなかった。

「ソナーに感あり! 反響音からアメリカ軍ガトー級潜水艦、複数! 待ち伏せです!」

秋月の艦橋で、最新鋭の探信儀が敵の牙を捉える。爆雷投射機が唸りを上げ、リンガエン湾沖に潜んでいた潜水艦隊を、反撃の隙も与えず深海へと葬りる。空からも三式指揮連絡機改の監視をした。


空を埋め尽くす銀翼の翼


「全機発艦!」


帰還艦隊司令官の号令とともに、日本の正規空母「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」「大鳳」「翔鶴」「瑞鶴」各空母の甲板から、蒸気式カタパルトによって次々と航空隊が発艦していく。

戦闘機『烈風改』『零戦64型改』

艦上汎用攻撃機『流星改』。

上空で鮮やかに複数の編隊を素早く組み、敵艦隊に向かう。


対する連合軍も、クラーク基地、そして、フィリピンにあるすべての航空基地から万全の状態の発進してきたP-51ムスタング、P-47サンダーボルト、P-38、アベンジャーそして、イギリス太平洋艦隊(第57任務部隊)空母からのシーファイア、F6Fヘルキャット、F4Uコルセア、アベンジャーの複数の編隊が空を埋め尽くしました。


バターン半島沖の上空で、数千機が入り乱れる大乱戦が始まる。


****


「……逃がさん。貴様の動きを理解しだ」


新連合艦隊の誇る『烈風改』のコクピット。帰還艦隊の熟練パイロットは、計器盤に映る敵機——アメリカ軍のP-51ムスタングを捉えました。

ムスタングは急降下で逃げ、その圧倒的な速度で振り切ろうとします。しかし、烈風改は2000馬力の大心臓を咆哮させ、さらに鋭い角度で垂直降下を敢行。重力を無視したかのような機動で敵の背後を完全にロックしました。


「墜ちろッ!」


4門の20mm機銃が火を噴き、ムスタングの右翼を根元から引き裂きました。爆散する敵機の破片を掠め、烈風改は再び急上昇へと転じます。


****


その下方、中高度域では、改装を施した『零戦64型改』が、イギリスのスーパーマリン・シーファイア、そしてアメリカのF6Fヘルキャットと死闘を繰り広げていました。


「これが零戦の……『戦い』だ!」


数機のF6Fが編隊を組み、零戦を十字砲火に追い込もうとします。しかし、零戦64型改は不自然なまでのロール速度でその網をすり抜け、空中でひらりと身を翻しました。

かつての零戦にはなかった「防弾」と「加速」を手に入れたこの機体は、シーファイアの背後に音もなく忍び寄ると、「ユナイテッド・キングダム(UK)」製の翼を無残な鉄くずに変えていく。


****


空は単なる一対一の決闘場ではない。

日本軍の編隊は、帰還艦隊の指揮管制によって、まるで一つの巨大な意志を持つ生物のように動いていました。


2機の零戦がF4Fワイルドキャットを誘い出し、背後を見せた瞬間に、上空から潜んでいた別の烈風改が「一撃離脱」で仕留める。

あるいは、敵のP-47が重武装で突進してくれば、3機の零戦が扇状に散り、敵を追い回して最後は正面から機銃で蜂の巣にする。


****


連合軍も黙ってはいない。

「何なんだ、あのジャップの動きは! 物理法則を無視している!」

アメリカ英のパイロットたちは、本土侵攻の夢を砕かれまいと、死に物狂いで食い下がります。F4Fのパイロットは、あえて零戦を自機の「死角」に誘い込み、僚機に撃たせる伝統のサッチ・ウィーブを試みますが、日本軍はその連携さえも、さらに高い高度からの機銃掃射で粉砕していきました。


****


空のいたるところで、黒煙を上げる「星条旗」と「ユニオンジャック」の残骸が、バターン半島のジャングルや深い海へ、吸い込まれていきました。


空域の制圧を確認した瞬間、帰還艦隊司令官は攻撃隊に突撃を命じました。

「流星改、全機突入! 誘導弾、放て!」


艦上汎用攻撃機『流星改』の編隊が、雲を突き抜けて英アメリカ艦隊へ殺到します。彼らが放ったのは、最新の対艦誘導弾と、新型航空魚雷だ。

イギリス艦隊の装甲甲板は、上空数千メートルから超音速で突き刺さる誘導弾の直撃を受け、紙細工のように引き裂かれました。


魚雷を装備した流星改も超低空から侵入し、とどめを必殺の新型魚雷で雷撃をする。


「イラストリアス大火災! ビクトリアス、魚雷命中により傾斜!」

アメリカの護衛駆逐艦隊も、逃げ場のない海域で次々と爆沈し、西フィリピン海は赤黒い炎に包まれました。


****


連合軍の攻撃隊――アベンジャーも、死に物狂いで日本の艦隊へ肉薄します。

しかし、そこには大和、陸奥をはじめとする艦隊の防空陣地が待ち構えていました。


水平線下から接近する敵機をいち早く捕捉。


「敵機、160機。方位2-8-0。対空戦闘用意!」


秋月型の10センチ高角砲が、火器管制装置(FCS)と連動し、精密な弾頭を放ちます。


「対空射撃、開始! 敵機を艦隊の円陣に一歩も入れるな!」

秋月型の連装高角砲と、戦艦群の機銃が空を鋼鉄のカーテンで覆い尽くします。直援戦闘機隊の流れるような迎撃により、敵の雷撃機は魚雷を放つ前に次々と撃墜され、海面に巨大な水柱を立てていきました。


****


数時間に及ぶ激闘の末、海戦の果てに、海面に浮かんでいたのは、燃え盛るイギリス空母の残骸と、アメリカ駆逐艦の破片だけだ。


「こちら秋月、周囲に敵影なし。海域の安全を確認」


帰還艦隊司令官は、沈みゆくインドミタブルの最期を、戦艦『陸奥』の艦橋から静かに見つめていました。潜水艦隊が太平洋を封鎖し、水上艦隊が最後のフィリピン海上戦力組織を撃破した。

今や、フィリピンを海から守る力は完全に消滅したのです。


「……マニラは、もう目の前だ。上陸作戦の準備を」


太陽がバターン半島の影に沈もうとする頃、新連合艦隊は、マニラ湾へさらに進む。


****


スービック急襲 —— 闇を裂く雷鳴

月明かりが海面を照らす深夜。スービック湾の入り口に、戦艦『大和』と『陸奥』、そして駆逐艦からなる砲撃部隊が音もなく進出しました。


「目標、スービック沿岸砲台群。打ち方開始」


ズドォォォォォンッ!


暗闇を切り裂く巨大な火柱。新連合艦隊の精密なレーダー射撃により、アメリカ軍が配置していた強力な沿岸砲台は、反撃の火を噴く間もなく、次々と精密に粉砕されていきました。46センチ砲弾の衝撃は大地を揺らし、守備隊の通信網と防衛線を物理的に断ち切りました。


****


特殊部隊の投入

沿岸の砲火が沈黙した直後、駆逐艦の影から、数隻の「高速動力ボート」が静かに解き放たれました。


乗り込んでいるのは、帰還艦隊の高度な訓練を施された「特殊陸戦隊」。彼らは最新の暗視ゴーグルを装着し、消音サブマシンガンを携えた、この時代には存在しない「専門家」たちでした。


「……着岸。これより侵入を開始する」


動力ボートは排気音を極限まで抑え、瓦礫の山となった桟橋に接岸。特殊部隊は影に溶け込むように、パニック状態にある基地深部へと侵入を開始しました。


海軍補給所の確保

彼らの真の目的は、基地の破壊ではなく「確保」にありました。

スービックには、アメリカ軍が日本本土侵攻のために集積した膨大な重油、航空燃料、そして最新の医療品が眠っています。


特殊部隊は、爆破を試みようとしたアメリカ軍の工兵部隊を素早く、そして正確に無力化。

「補給所、第1から第4まで確保。重要物資の毀損なし。周辺の掃討に移る」


無線連絡を受けた第32軍の増援部隊が、続々と大型輸送艦から上陸を開始します。わずか数時間前まで連合軍の拠点だったスービックは、今や新連合艦隊の「南方の前進基地」へと塗り替えられました。


アメリカ海軍第7艦隊司令部・指揮艦、少数の輸送艦、機雷敷設艦はすでにバターン沖海戦が終了した時点で避難していた。

そして、周囲には数百隻のLST(戦車揚陸艦)やLCI(歩兵揚陸艇)が湾内に打ち捨てられた。

この部隊は主にフィリピン奪還作戦や東南アジアでの水陸両用作戦を実行していた部隊だ。

****


夜が明ける頃、スービック湾内には日章旗を掲げた秋月型駆逐艦が悠然と入港してきました。

桟橋に並ぶのは、接収された無傷のタンカーと、倉庫に山のように積まれた医療品のコンテナ。これらは、疲弊しているルソンの山中で戦い続ける同胞たちを救うための「命の糧」となる。


「スービックを完全に手中に収めた。……これからが我ら陸軍第32軍の正念場だ、次はマニラ湾だ」


牛島満中将は、窓越しにフィリピンの深い緑の山並みを見つめていました。そこには、自分たちが沖縄で味わった以上の地獄を生き抜いている同胞たちがいる。


「八原大佐」

牛島中将が、傍らに立つ八原博通大佐へ静かに、決意を込めて命じました。


「第14方面軍の山下大将へ、そしてフィリピンに残存する全部隊に伝えるんだ。手段は何でもいい。暗号も、秘匿もいらん。とにかく、彼らに届けるんだ」


「沖縄を解放した新連合艦隊が、今、マニラ湾に達した。諸君らはもはや孤立無援ではない。これより、友軍による再上陸を敢行する……」


****


臨時ラジオ局「おはよう、フィリピン」


数時間後、スービック基地内の一角に、接収したアメリカ軍の放送設備で臨時ラジオ局が急造されました。


「こちら新連合艦隊。フィリピンの全日本軍将兵に告ぐ。繰り返す、こちら新連合艦隊――」


通信士たちは、あらゆる周波数を用いて、フィリピン全土に向けて同じ内容を繰り返し放送し始めました。それは、密林に潜む敵軍をも恐れぬ、堂々たる「希望の宣言」でした。


ルソン北部:尚武集団(山下奉文大将)


ルソン島北部、バギオの険しい山中。

第14方面軍司令官・山下奉文大将は、湿気で爛れた地図を睨んでいました。軍の組織的な抵抗は限界に達し、将兵は餓死と病に倒れ、もはや「死に場所」を探す段階にあった。


そこへ、一人の通信兵が泥まみれで飛び込んできました。

「閣下! ラジオが、信じがたい放送を拾いました!」


電源不要の鉱石ラジオから流れてきたのは、ノイズ混じりながらも、はっきりと聞き取れる日本語の声でした。


『……沖縄を解放した新連合艦隊が、今、マニラ湾に達した……もはや孤立無援ではない……』


山下大将の鋭い眼光が揺れました。

「沖縄を、解放しただと? あの、大和が……来ているというのか」

傍らの参謀たちが、震える手で互いの顔を見合わせました。絶望という名の闇に、太陽のような光が差し込んだ瞬間でした。


マニラ東方:振武集団(横山静雄中将)


マニラ東方の山岳地帯に陣を敷く振武集団。横山静雄中将は、洞窟陣地の中でその放送を聞きました。

「横山閣下、聞こえますか! あれは、牛島将軍の声ではありませんか!」


マニラ市民を巻き込んだ悲劇的な市街戦の果て、死を待つのみだった将兵たちが、次々と這い出してきました。


「生きて……生きていてよかった。日本軍は、まだ終わっていなかったんだ!」


横山中将は、暗い洞窟の奥から空を見上げました。そこには、自分たちを救援しに来たという「奇跡」の音が響いていました。


マニラ中部:建武集団


クラーク飛行場周辺から退却し、中部ルソンの山中に拠点を置く建武集団。

かつての航空隊員たちは、翼をもがれ、歩兵として泥を這っていました。しかし、ラジオから流れる「再上陸」の報を聞いた瞬間、彼らの目に鋭い光が戻りました。


「マニラ湾に艦隊が来ている。俺たちの基地を奪い返す時が来たんだ!」


****


1945年5月時点のフィリピンは、すでに連合軍による1945年3月のマニラ奪還を経て、日本軍にとっては「組織的な組織戦」から「山岳地帯での徹底した持久戦(生存戦)」へと移行していた。


山下奉文大将率いる第14方面軍は、軍をいくつかの「集団」に分け、各地の峻険な山岳地帯に立てこもっていた。


当時の主な残存兵力と配置。


・ルソン島の北部の尚武集団


山下大将が自ら指揮を執った、フィリピン戦における日本軍の「本営」。


指揮官: 山下奉文大将


拠点: バギオからさらに北部のキアンガン、ボントックを中心とする山岳地帯。


残存部隊: 第19師団、第23師団、第103師団、独立混成第58旅団など。



・振武集団:マニラ東方


マニラの水源を確保し、連合軍を牽制するためにシエラマドレ山脈に陣取った部隊。


指揮官: 横山静雄中将



・建武集団 マニラ中部


クラーク飛行場群を防御し、アメリカ軍の進撃を遅らせる任務を負っていた。


拠点: サンバレス山脈(ピナトゥボ山周辺)。


1945年5月 この時期にはすでに組織としての機能はほぼ消失しており、残存兵は飢えと戦いながら山中に潜伏していた。


****


1945年6月。

新連合艦隊が、ついに運命の関門、マニラ湾の入り口へと差し掛かりました。


かつて「東洋のジブラルタル」と称えられたコレヒドール島、要塞フォート・ミルズ。しかし、その現在の姿は、かつての美しき軍事都市の面影を完全に失っていました。



沈黙のジブラルタル —— マニラ湾強行突破

第32軍の上陸艦の艦橋から、牛島満中将は双眼鏡を覗き込みました。

かつての山頂部に聳えていた全長1.6kmの兵舎「マイル・ロング・バラックス」は、1944年のアメリカ軍による苛烈な爆撃によって、今は飴細工のように曲がった鉄筋と、白いコンクリートの粉塵が堆積する「骸骨の山」と化していました。


トロリー電車が走っていた線路は引き裂かれ、映画館も病院も、すべてが南国の熱気に晒された廃墟だった。


****


「……鼠が動いていますな」


八原博通大佐が、レーダーと索敵機から情報を交互に見ながら告げました。


アメリカ軍は、その瓦礫と化した要塞の残骸を土台に、執念深く新たな罠を仕掛けていた。


****


スービック基地から転進し、マニラ湾内に逃げ込んだアメリカ第7艦隊の残存部隊。彼らは新連合艦隊の圧倒的な火力を前に、死物狂いの遅滞戦術に出ていた。


「湾口一帯に高密度の機雷反応。磁気、音響、触発の混合です。第7艦隊が、持てる限りの在庫をバラ撒いたようですな」


秋月型駆逐艦のソナーが、海中に潜む無数の「鋼鉄の棘」を検知した。機雷原はマニラ湾の喉元を完全に塞ぎ、不用意に踏み込めば、いかに最新の防御装甲を持つ戦艦とて無傷では済まない。


さらに、コレヒドール島の山頂付近、かつての司令部跡の瓦礫の山の中。

アメリカ陸軍の工兵隊は、崩れたコンクリートの塊を巧みに利用し、無線機を備えた「臨時の砲撃観測所」を急造していた。


彼らはそこから、マニラ湾奥に配置された重砲兵部隊に新連合艦隊の正確な位置データを送ろうと息を潜めていました。


「艦隊が機雷に足を取られた瞬間、ありったけの火力を叩き込む。それがマッカーサーの最後の賭けか」


****


キンケイド中将の最期

「全艦、この湾を墓場にするつもりで機雷を撒け」

キンケイドの命により、第7艦隊の残存駆逐艦や敷設艇は、マニラ湾の入り口であるコレヒドール島周辺から湾奥に至るまで、数千個の機雷を隙間なく敷設した。


旗艦、揚陸指揮艦『ロッキー・マウント』は、もはや航行するためではなく、巨大な「洋上司令部」として湾内に固定した。


「船を捨てろ! 銃を取れ!」

船団の護衛という役目を失った数万人の水兵や技術兵たちは、キンケイドの命令で次々と陸に上がりました。彼らはマニラ市街の堅牢な石造りの建物や、接収したビルを要塞化し、海軍歩兵として日本軍の北上に備えた。


それは、かつて日本軍がマニラで展開した「マニラ市街戦」の立場を完全に逆転させた、アメリカ版の執念の防衛戦でした。


そして、ついに新連合艦隊の本隊がマニラ湾沖に出現した。


キンケイドは『ロッキー・マウント』の艦橋から、水平線を埋め尽くす「日の丸」の艦隊を静かに見つめていました。

「……機雷は作動しているか」

「はっ、しかし敵の掃海艇は……いえ、あれは掃海艇ではありません!」


日本軍駆逐艦から放たれた自走式機雷処分用爆雷がキンケイドが仕掛けた機雷は連鎖的に爆発し、マニラ湾に巨大な水柱のカーテンを作り出しました。


****


新連合艦隊 旗艦 戦艦『大和』


「……機雷、そして観測所か。古典的だが、この状況では最良の選択と言える」


艦橋で、伊藤整一長官が静かに右手を上げました。


掃海そうかいに手間取る必要はない、秋月と照月に連絡に連絡せよ、……艦長、あの山頂の『動く瓦礫』を黙らせなさい」


新連合艦隊の反撃は、アメリカ軍の想像を絶した。

秋月型から放たれた自走式機雷処分用爆雷が、海中で次々と機雷を誘爆させ、マニラ湾の入り口に回廊を作り上げる。


同時に、『大和』の46センチ主砲が、山頂の観測所に向けて火を噴きました。

ピンポイントで着弾した徹甲弾は、アメリカ軍が「盾」にしていたコンクリートの瓦礫ごと、山の一部を削り取るように粉砕しました。


「機雷原に『道』ができた。……全艦、突入せよ!」


****


キンケイド提督の最後

「提督、これ以上は……! 陸へ上がりましょう!」

幕僚が叫びましたが、キンケイドは首を振りました。

「私は第7艦隊の司令官だ。ふねが動けぬなら、ここが私の司令所であり、棺桶だ」


その直後、日本軍駆逐艦の砲撃が『ロッキー・マウント』の通信アンテナが林立する艦橋中央部を正確に貫きました。

爆風がキンケイドの意識を奪い、第7艦隊の誇りは、揚陸指揮艦の巨躯とともに、ゆっくりとマニラ湾の泥の中へと沈んでいった。


爆発の余韻が残る海面を切り裂き、新連合艦隊が次々とマニラ湾内へとその姿を現しました。

コレヒドールの廃墟に掲げられた、急造の星条旗が爆風に千切れて舞い上がる。


****


マニラ湾の海面は、新連合艦隊が放つ熾烈な艦砲射撃の閃光によって染め上げられた。


コレヒドールの門を粉砕した艦隊は、事前に航空偵察で特定していたアメリカ軍の陣地――埠頭の倉庫群、海岸線の重火器拠点、そしてマニラ市街の要所に、ピンポイントの「火の雨」を降らせました。


マニラ近郊のクラーク陸軍航空隊基地にも流星改の爆撃隊を送り込んだ。


「第32軍、これより上陸を開始する。」


牛島満中将の力強い号令と共に、無数の上陸用舟艇がマニラ港の埠頭へと殺到しました。先陣を切るのは、第32軍の第9師団の精鋭たちです。


しかし、瓦礫の街は死に絶えてはいなかった。

崩れたビルの陰から、アメリカ軍のシャーマン戦車が砲身をもたげ、火を噴きます。


アメリカ軍の歩兵たちは無反動砲やバズーカを抱え、瓦礫の迷宮から執拗な反撃を試みます。さらに、アメリカ軍に協力するフィリピン人ゲリラ組織『ユサッフェ』や、共産系の『フクバラハプ』が、影のように動き回り、日本軍の側面を突きました。


****


市街地の北端、激しい銃撃戦が続く一角。ボロボロの軍服に身を包みながらも、その眼光だけは鋭く光る一団が、瓦礫を越えて現れました。ルソン北部の山々を死守し、泥を啜って生き抜いてきた山下奉文大将率いる「尚武集団」――第19師団、第23師団の生き残りたちだ。


「……待たせたな、山下将軍」

「牛島中将……本当によく来てくれた」


山下大将と牛島中将が、硝煙の中で固い握手を交わしました。

さらに、東方から駆けつけた横山静雄中将の「振武集団」、そして中部から合流した「建武集団」。フィリピンの各地で孤立していた兵士達が、今、再び一つの「軍」へと結集した。


市民の蜂起:マカピリの参戦


戦局を決定づけたのは、軍同士の戦いだけではありませんでした。


「日本の兄弟たちが帰ってきたぞ! 独立を守れ!」


ホセ・ラウレル大統領率いる第2共和政を支持する親日派市民たちが、ついに立ち上がりました。親日武装組織『マカピリ』の隊員たちが、秘匿していた武器を手に取り、アメリカ軍や反日ゲリラの背後を襲います。


「フィリピン万歳!フィリピンに真の独立を!」の声が路地裏に響き渡り、マニラはアメリカ軍にとっての「占領地」から、「敵地」へと変貌しました。


フォート・マッキンリーの陥落

連合軍の最後の中枢、フォート・マッキンリー。

ここはマッカーサーが指揮を執る要塞だが、今や新連合艦隊の艦砲射撃と航空爆撃、地上からの日本軍・マカピリ連合軍の総攻撃に晒されていた。


「突撃ッ!」


第9師団の戦車隊が正門を突破。アメリカ軍は戦車、重機関銃、無反動砲で抵抗しますが、日本軍も迫撃筒や接収したバズーカ砲で拠点を一つずつ沈黙させていった。


****


陥落直前のフォート・マッキンリー基地

マッカーサー将軍は、燃えるマニラ市街を最後に見つめていた。


「私は帰ってきた。……私は帰ってきた。私は帰ってきた。私は帰ってきた。」


彼の脳裏には、1942年の敗北と1944年の勝利、そして先ほど見た信じがたい光景――が繰り返されていた。


****


マニラの街路が日本軍とマカピリの熱狂に包まれる中、北方の空から不穏な重低音が響き渡った。


クラーク陸軍航空隊基地。

そこは、新連合艦隊による壊滅的な爆撃を受け、滑走路の随所がクレーターと化していたはずの場所。しかし、アメリカ陸軍航空隊は、執念の突撃を敢行した。


「全機、離陸せよ! 誘導路だろうが未舗装路だろうが構わん、空へ上がれ!」


クラーク基地の司令官は、絶叫していました。爆撃を免れた数少ないB-17「フライング・フォートレス」と、巨大な爆装を施したB-24「リベレーター」が、黒煙を上げる格納庫から這い出してきました。


滑走路は破壊されていたが、アメリカ軍工兵隊は瓦礫をブルドーザーで押し出し、わずかな平地を確保していました。


「エンジン全開!」


過積載に近い爆弾を抱えたB-24が、揚力を失いかけながらも、滑走路端の樹木を掠めるようにして、フィリピンの重い空気の中へと浮き上がりました。


離陸に成功したが、その数十機。しかし、それはマッカーサーが放った最後にして最大の「攻撃」だ。彼らの目標は、マニラに上陸作戦中の第32軍。


「日本人に思い知らせてやれ。これがアメリカの意志だ!」


B-17のハリネズミのような12.7mm機銃が四方を睨み、B-24の腹の下には、マニラ市街を一瞬で火の海に変えるだけの爆薬が詰まっていた。彼らは護衛の戦闘機もつけず、ただ死を覚悟した「特攻」に近い形での水平爆撃を狙い、マニラ上空へと侵入を開始した。


****


「クラーク航空隊基地方面より敵重爆編隊接近。高度6,000。迎撃に当たれ」


新連合艦隊は、その巨大な影を捉えるのに時間はかかりませんでした。

装甲空母「翔鶴」「瑞鶴」「大鳳」から『橘花改』のジェットエンジンが、『キィィィィィン』という高周波音を響かせて飛行甲板でカタパルトに固定され、発艦指示員の合図で発艦、急上昇していく。


上空で3機3編成の編隊を組み、アメリカの爆撃機の編隊へ向かっていく。


「……目視で確認 B-17、B-24の2個編隊 各機上昇し、上から撃ち落とせ」


橘花改のパイロットは、照準器越しに、下を飛行する無数の銃座を突き出した「空中要塞」を捉えました。


B-17の機銃手たちが必死に弾幕を張りますが、時速800kmを超えるジェット機の速度には追い付けない。


橘花改の編隊から放たれた30mm機関砲の徹甲炸裂弾が、複数のB-17を正確に撃ち抜く。

かつて世界最強を誇った四発重爆撃機が、一瞬にして火だるまとなり、空中分解しながらマニラ郊外の平原へと墜落していった。B-24の編隊もそれに後を続いた。


「全機排除完了」


最後の反撃は、潰えた。クラーク基地から立ち上がった最後の煙は、フィリピンにおけるアメリカ航空戦力の、完全なる終焉を告げる狼煙となった。


****


「……ここまでか、何度も何度も何度も死にかけたが、これが最後かな」


マッカーサーの呟きをかき消すように、司令部ビルの重厚な扉が爆破されました。


煙の中から現れたのは、凄まじい闘気を放つ第9師団の精鋭たちでした。


「動くな! 手を上げろ!」


最新のサブマシンガンの銃口が、マニラの支配者であった将校たちに向けられました。抵抗を試みた数人の衛兵は、一瞬の銃撃で無力化され、司令部は静まり返りました。


****


執務室の奥、立ち込める硝煙を割って歩み出たのは、山下奉文大将でした。

その隣には、牛島満中将が並んでいる。


マッカーサーは愛用のコーンパイプをゆっくりとデスクに置き、正面の「虎」を睨みつけました。

「……山下将軍。君たちがこれほどの『ジョーカー』を隠し持っていたとはな」


山下大将は、沈着な声で答えました。

「切り札だけではない。これは、この地で泥を啜りながら戦い続けた我が将兵たちの執念だ、マッカーサー将軍。……フィリピンにおける貴軍の戦いは終わった。無用な流血を避けるため、全軍に降伏を命じてもらいたい」


****


1945年6月30日。

スービック基地で確保された臨時ラジオ局を通じて、全世界に衝撃の放送が流れました。


「私はダグラス・マッカーサーである。フィリピン全土の合衆国陸海軍、および連合軍諸君に告ぐ。……我々は今、抗い難き軍事的状況に直面している。これ以上の抵抗は、数多の若者の命を無為に散らすだけである。全軍、直ちに戦闘を停止し、最寄りの日本軍に投降せよ」


マッカーサーの震える声が、マニラの街角から、山岳地帯で戦う第6軍の末端まで響き渡りました。


それは、アメリカ合衆国がその歴史上、初めて味わう「完全なる敗北」の瞬間でした。


そして、日本軍 第35軍:南部諸島


レイテ戦を戦った部隊の残存兵力、

ミンダナオ島: 第100師団(ダバオ周辺)第30師団(北ミンダナオ)。

米軍がダバオに上陸され、内陸のジャングルへと退却。猛烈な追撃を受け、「生きて帰れぬミンダナオ」と呼ばれる凄惨な状況だった彼らのもとにもフィリピンの戦闘の終わりの知らせは届いた。


遠い異国の地にて死ぬ覚悟をしていた兵士達は、静かに山やジャングルを下り、海岸の救援艦隊の上陸艇で収容された。


一人の若い兵士は、招集されて配属されたこの部隊で、何度も死にかけた。

「あぁ、生き残った、われらは生き残った、厳しい戦いだったが、生き残った」

とつぶやき、再び故郷の山々、家族のもとに帰れることを噛みしめていた。




****


司令部ビルの屋上では、星条旗が静かに降ろされました。

代わって掲げられたのは、白地に赤く燃える日章旗と、フィリピン第2共和政の旗。


「八原大佐。これで、ようやく一息つけるな」

牛島中将が、マニラ湾に浮かぶ『大和』の巨躯を見つめながら言いました。


「いいえ、閣下。これは始まりに過ぎません」

八原博通大佐は、手元の端末で次なる航路を確認していました。


「フィリピンの解放は、日本本土への『補給線』を確保するための第一歩。我々の次の戦場は、南方の油田基地にあります」


マッカーサーの捕縛と降伏宣言により、フィリピンにおける組織的な戦闘は終結した。

接収された膨大な米軍物資は、山下大将率いる第14方面軍と、フィリピン市民へと分配された。


この地はこれから「東南アジアと日本を結ぶ中継基地」へと生まれ変わる。フィリピンはアジアの国際貿易国の中継国として、歩み始める。


新連合艦隊は、マニラ湾で失われた「燃料」を米軍の備蓄で満タンにし、その艦首を再び南へと向けた。


解放の夕暮れ

マニラの街に、平穏が、しかし以前とは違う、真の「自立」の熱気と共に戻りつつありました。

瓦礫の陰でラジオから「おーはよーう フィリピーン!」と聞こえてきて、軽快な音楽やニュースが日本軍兵士たちやフィリピンの市民に届けられた。


****


フィリピンの占領後

新連合艦隊、再補給後にブルネイのセリエ油田の接収作戦を開始。


****

ブルネイへの進駐後 破壊されたカリマンタン島の油田を再起動する。

そして、海上輸送防衛艦隊設立し、石油、戦略物質を本土への輸送。


残存していた日本海軍の艦艇、接収したアメリカ軍の駆逐艦、そして、帰還艦隊の最新式のソナーとレーダーを備えた秋月型駆逐艦が主力になる。


帰還艦隊の複数の輸送艦、大型油送艦、残存している日本の艦艇、接収したアメリカ軍の輸送艦、タンカーが活躍。

その他の資源の確保。


帰還艦隊の潜水艦隊、索敵機を積んだ潜水艦母艦が太平洋の連合軍の索敵、通商破壊作戦に従事することになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ