沖縄戦 1-2 アメリカ軍上陸
アメリカ軍上陸
沖縄中西部の海岸に上陸した米第10軍は、拍子抜けするほどの無抵抗に戸惑っていた。「鉄の暴風」と謳われた艦砲射撃が島を耕し、海兵隊が砂浜を駆け上がっても、聞こえてくるのは波の音と自分たちの足音だけ。日本軍が伝統的に得意としていた「夜襲」は、新兵器の登場によってその優位性を失いつつあった。
アメリカ軍部隊は、赤外線照射器を備えた「暗視スコープ」が装備されていた。初の暗視装置「T3カービン」赤外線投光器と暗視スコープをセットにし、M1カービンに装着された。漆黒の闇の中、音もなく忍び寄る日本兵の姿は、アメリカ軍のレンズ越しには鮮明な緑色の影として浮かび上がる。引き金が引かれるたびに、闇に紛れたはずの命が次々と刈り取られる。
洞窟陣地に対し、アメリカ軍は改良型M4中戦車(火炎放射戦車)を投入した。これまでの火炎放射器とは桁違いの射程と火力を誇るその「ジッポー戦車」は、陣地の入り口から数百リットルのナパーム燃料を流し込み、地下深くの酸素を瞬時に焼き尽くす。
頭上から降り注ぐ砲弾も、恐怖の進化を遂げていた。アメリカ軍が実戦投入したVT信管(近接信管)。それは、地表に触れる前に敵の頭上で正確に炸裂する信管。「伏せろ!」と叫んだ時には、すでに空中で無数の破片が降り注いでいる。遮蔽物のない野戦では、兵士たちがどれほど深く地面にへばりついても、この「死の雨」から逃れる術はない。
さらに、日本軍が反撃の一発を撃てば、音波探知機が瞬時に発射位置を特定し、数分後には正確無比な対砲兵射撃が陣地を粉砕した。前線の兵士たちは、重い大砲ではなく歩兵が携行できる中距離においる対装甲攻撃能力を手に入れた。新兵器M18 57mm無反動砲やM20 75mm無反動砲を肩に担ぎ、かつては戦車でなければ破壊できなかったトーチカを、一人の歩兵が粉砕していく。
さらに、M2 107mm迫撃砲が、榴弾を絶え間なく送り込む。アメリカの軍需産業は、デトロイトの工場から沖縄の最前線まで、一本の巨大なベルトコンベアのように繋がっていた。
日本軍に対し、第10軍は「装備、士気、補給」のすべてにおいて、文字通りアメリカ軍史上最強の軍団としてそこに君臨した。首里の地下で八原参謀が感じていたのは、敵の強さへの敬意ではなく、「戦争を生産し直す」かのようなアメリカという巨大なシステムへの、底知れぬ絶望だったのかもしれない。
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座間湾 アメリカ海軍沖縄上陸部隊
旗艦の艦橋で、海軍上陸軍司令官リッチモンド・K・ターナー中将は、手元の報告書に目を落とし、不敵な笑みを浮かべた。
「私の頭がおかしくなったのかもしれないが……」
彼は通信士を呼び寄せ、太平洋艦隊司令長官チェスター・ニミッツ大将へ向けて、半ばジョークを交えた電文を打つ。
「当地における日本軍は、戦闘を行う意思がない模様である」
楽観的な空気が流れ、兵士たちは予定より遥かに早いスケジュールだった。彼らは信じたかったのだ。日本軍の組織的抵抗は、すでに崩壊しているのだと。しかし、遥か後方の司令部でその電文を受け取ったチェスター・ニミッツ大将の表情は、氷のように冷ややかだった。彼はペリリューの、そして硫黄島の地獄を知っている。中川州男大佐や栗林忠道中将といった、日本の「精鋭」たちが、いかにしてアメリカの戦艦の大砲や航空機による爆撃に対抗してきたかを。
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グアム島 太平洋艦隊司令部
「報告書を訂正させろ。ターナーは敵を見誤っている」
ニミッツは、手元の海図を睨みつけました。
「日本軍は逃げたのではない。我々を『招き入れた』のだ」
ニミッツの確信。それは、日本軍が艦砲射撃の届く海岸線をあえて捨て、内陸の複雑な地形に潜り込んだことを意味していました。艦砲の届かない地下深く、泥濘の丘陵地帯。そこでアメリカ軍を出血多量で殺す——
その頃、沖縄中西部の海岸より南方25㎞、首里の地下壕。八原博通大佐は、アメリカ軍が順調に進撃しているという報告を、完璧に思考を制御した将棋士のような顔で聞いていた。
「敵は喜んでいるようですな」
部下の言葉に、八原は短く答えました。
「喜ばせておけばいい。海岸から離れれば離れるほど、彼らの自慢の巨砲は無用の長物と化し、我が砲兵の射程内に踏み込むことになる」
沖縄の海岸ではアメリカ軍の戦車隊が乾いた音を立てて内陸へと進む。しかし、その行く手にある緑の丘は、実は数万の精鋭が潜み、彼らを叩き潰す「かなどこ」へと改造されていた。
「さあ、来い、防衛陣地も兵隊も砲も備えも十分だ、意気軒昂」
牛島満中将指令官は高級参謀八原博通大佐、参謀達を前に激励する。太陽の光が届かない地下陣地で、400門の火砲と、そして「53,000の陸戦の精鋭」は戦闘準備は完了した。
アメリカ軍が「日本軍は戦う意思がない」と笑っていられた時間は、もうすぐ終わろうとしていた。




