《帰還艦隊》と大和は本土で整備を行う
1945年8月。呉軍港は、帰還艦隊が南方から運んだ物資で帝国海軍は戦力を再び送り出す「再生工廠」と化していた。そして、日本全国のすべての海軍工廠において、製造を中止されていた空母、損傷していた戦艦、空母、重巡洋艦、軽巡洋艦、駆逐艦などが修理、再整備が行われていた。
至る所から響くリベット打ちの金属音、溶接の青白い火花、そして重油と錆の混じった潮風。かつて「不沈」を誇った超弩級戦艦「大和」が、呉海軍工廠の巨大なドックに横たわっていた。
ドックの底では、数百人の工員たちが機敏に動き、バルクヘッドの亀裂を塞ぎ、最新の電探をマストに据え付けていた。射撃装置、通信装置、司令部室の改装の行われる。
「……これほどまでに叩き込まれて、なお浮いているとはな。まさに化け物だよ、この船は」
第1ドックを見下ろす指揮官席で、伊藤整一司令長官は呟く。その視線の先では、大和の46センチ主砲塔が、整備を終えてゆっくりと旋回テストを行っていた。
他のドックに目を向ければ、そこには「帰還艦隊」の空母群――「赤城」や、整備を終えた「加賀」が、静かにその巨体を泊めている。甲板の上では、最新鋭の「烈風改」や「流星改」が、次なる出撃に向けて整備を終え、補給兵たちは弾薬箱を積み上げていた。
そこには、ただの軍隊にはないものがあった。あるのは誰かに託された意思、そして自らの意思。命の危機に見舞われた、遠方の日本人達を取り戻す、新・連合艦隊の静かなる闘志だ。
「伊藤長官、ドックの進捗はどうですか?」
背後から声をかけたのは、《帰還艦隊》の司令長官でした。彼はこの大和と第二艦隊と共に戦い抜いた、この再興の立役者だ。
「予定通りだ。大和の修復はあと三日で終わる。……だが、南方のカリマンタン島が官僚たちの手で『新たな帝国』として歩み始めたというのに、我々武人がここで油を売っているわけにもいきません」
伊藤が皮肉めいた笑みを浮かべたその時、背後の重厚な扉が勢いよく開いた。
北からの黒い影
駆け込んできたのは、通信参謀でした。その顔は蒼白で、手にした電文を持つ指が微かに震えています。
「……緊急電です! 北方、および大陸の諜報部より同時入電。……ソ連軍に、看過できぬ動きあり!」
二人の司令長官の顔から、一瞬にして余裕が消えました。伊藤が電文を奪い取るように受け取り、横から帰還艦隊長官がそれを覗き込む。
『極東ソ連軍、満州国境付近に推定150万の兵力を集結。ウラジオストク艦隊、および千島方面の潜水艦隊、一斉に抜錨の兆候あり――』
「……来たか」
帰還艦隊長官が、低く唸るような声を出した。
「南洋の情勢がスターリンという男を焦らせたな、あの髭ずらのごろつきの強盗め」
伊藤長官は、ドックの底で火花を散らす大和を鋭い眼光で見つめ直した。
「南のオーボー作戦を粉砕したと思えば、今度は北か。……ヤツらは、我々が南に戦力を割いている隙を突くつもりだろう。だが、大きな計算違いがある」
伊藤は、電文を握り潰すと、帰還艦隊長官に向かって力強くうなずいた。
「この呉には、死地から戻った『帰還艦隊』がいる。そして、再び魂を宿した『大和』がいる。……北方へ向かいます。ソ連の赤旗に、我が帝国の海を汚させてはなりません」
「全ドックに通告! 作業を続行せよ!」
伊藤の声が響きました。
「作業が終了次第、点検、補給を的確に正確に行うんだ、出航日時は後にすべての艦隊に指示する、そして、我々が北の海と大地をやつらの『地獄の墓標』に変えてやるのだ」
呉のドックを包んでいた熱気は、その瞬間、日本海を越えた先、オホーツク海の先を見据えた「冷徹な殺意」へと変貌した。
大和の巨体が、再び水に浮かぶその時。それは、新・連合艦隊がソヴィエトという巨大な共産主義者どもの国と激突する、新たなる戦記の始まりを告げるものだった。




