二つの航路 —— 帰還と救済 3
1945年7月初頭。マニラ湾は、かつてない活気に満ちていた。
接収したアメリカ軍の膨大な戦略物資ー糧食や医薬品、ドラム缶に詰まった高オクタンの航空燃料などを積んだ輸送艦群、石油を満杯にしたタンカーが停泊している。物資は新連合艦隊とフィリピン第14方面軍の隅々にまで行き渡り、将兵たちの瞳には力強い生気が戻ってきた。
しかし、新連合艦隊の使命はここで終わりではない。次なる一手として、司令部は大胆な「艦隊二分割案」を決定した。
本土帰還:帝国の再定義
1945年7月
マニラ湾の沖合。第二艦隊と《帰還艦隊》が、北へと艦首を向けた。
未来から来た帰還艦隊司令官が、伊藤整一中将に告げる。
「伊藤長官。これより我々は、この戦争計画の最も困難な『修正』に挑みます」
伊藤司令官は頷きながら、答えた。
「この勝利をこの戦争の転換点にするには、本国の立て直しが必要だ、政府も軍隊もその制度も組織も国内の生産設備、製造計画、すべてだ」
彼らの目的地は、本土・東京。目的は、疲弊した艦隊の再整備だけではない。最新の戦果と情報を伴って、日本政府と直談判し、破滅的な戦争指導を排して、現実的かつ盤石な「新・国防計画」を策定すること。
『翔鶴』『瑞鶴』『大鳳』の三空母を残し、『赤城』『加賀』『蒼龍』『飛龍』の4隻の空母と護衛艦隊で複数の輸送船団を率いて、日本の国家政策、国防体制、この大戦の目標定義を一変させるべく、静かにマニラを立った。
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伊藤整一長官、全軍への訓示
苦闘を共にした「友」へ
「新連合艦隊、ならびに第32軍、第14方面軍、全ての将兵に告ぐ。《菊水艦隊》司令長官の伊藤である」
「諸君。我々は今、再建への道に戻ってきた。
振り返れば、沖縄の地獄を潜り抜け、フィリピンの熱帯を戦い抜き、我々はあまりにも多くの火と、あまりにも多くの血を見てきた。
飢えに耐え、病に震え、絶望という名の闇の中で、それでも諸君らは銃を離さず、互いの手を離さなかった。その不屈の闘志に、私は一人の指揮官として、そして一人の日本人として、心からの敬意を表したい」
「死の運命」から「生の使命」へ
「かつて、我々はこの海を、大地を『死に場所』として選ぼうとしていた。
だが、見てくれ。我々の前にあるのは、滅びの門ではない。
諸君らがその手で守り抜き、奪い返してきた『希望』という名の道だ。
我々が運んでいるのは、ただの物資や兵器ではない。それは、日本という国が再び立ち上がるための、たった一つの『可能性』なのだ」
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「因幡之白兎」艦隊の結成
一方、マニラ湾に残ったのは、南方の「油田施設」を再起動するための精鋭たちだ。ターゲットは、オーストラリア軍と連合軍の攻撃によって、陥落の危機にある、カリマンタン島・ブルネイの『セリエ油田』。そして、カリマンタン島の各地にある油田基地『タラカン島油田』『バリクパパン油田』。
この南方奪還任務を託されたのは、あの「天一号作戦(沖縄特攻)」で軽巡洋艦『矢矧』と運命を共にし、奇跡的に生還した古村啓蔵大佐だ。
「古村司令官。艦隊名は……『因幡之白兎』としました」
先任参謀の石飛 晃中佐も一緒だ。
「白兎……大国主命が、皮を剥がれ苦しんでいた兎を救い、最後に姫と結ばれた話ですな」
古村大佐は、かつての戦いで傷つき、救助された自らの運命を重ね合わた。
「南方で孤立し、皮を剥がれるような苦しみを味わっている同胞たちを余さず救い出し、共に日本の危機を救う力にする。まさに我々の誓いにふさわしい名だ」
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精鋭部隊の陣容
『因幡乃白兎』艦隊の陣容は、まさに「新連合艦隊」の柔軟さを象徴するものでした。
《帰還艦隊》主力空母『翔鶴』『瑞鶴』『大鳳』。3つの空母とその航空隊はニューギニアのアメリカ軍航空隊、オーストラリア軍航空隊からの防衛、そして、空飛ぶ砲兵としての打撃力を与える。
護衛艦隊は接収したアメリカ海軍の駆逐艦(フレッチャー級、ギアリング級)。乗員は、フィリピンの泥濘で地上戦を戦い抜いてきた日本海軍の士官・兵士たちと、そして、天一号作戦で撃沈され、救助された、第二艦隊乗員1600人が乗り込む。アメリカ製駆逐艦の横には歴戦の「初霜」「雪風」も並ぶ。
揚陸・輸送部隊として、米第7艦隊から接収した多数の大型輸送艦、戦車上陸艦や高速輸送艦。工作艦、補給艦、タンカーがある。
上陸戦力・山下奉文大将率いる第14方面軍の第19師団、第23師団、第103師団、独立混成第58旅団の選抜隊、第32軍、台湾から合流した第9師団が船に乗り込む。
偵察または、真の打撃艦隊として 帰還艦隊の『伊400改型』潜水艦隊が海の中からにらみを利かす。
艦船の甲板に積まれているのは、日本軍の九七式中戦車ではなく、接収した強力なM4シャーマン戦車やバズーカ砲、無反動砲。アメリカの物量、文字通りの「接収、急造戦隊」だ。しかし、中身の実力は本物だ。
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「『矢矧』を失った我々が、今度は敵の艦を駆って、友軍を助けに行く。……皮肉なものだが、悪くない」
古村大佐は、接収した米軍駆逐艦の艦橋に立ち、南方へと続く水平線を見つめた。カリマンタン島の同胞たちは、今この瞬間も、圧倒的な連合軍の前に追い詰めらている。「因幡之白兎」艦隊は、その名の通り、傷ついた兎を慈しみ、救い上げるための「神の御杖」となるべく、熱帯のスコールを切り裂いて南進を開始した。
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一方、東京湾へ向かう新・連合艦隊
同時刻、伊藤長官率いる大和、《帰還艦隊》は、台湾海峡を越え、本土近海へと入った。そこには、自分たちの帰還を待っている、満身創痍の日本と、そしてB-29のによって本土壊滅を狙うアメリカ陸軍第20航空軍との対決が待っている。
伊藤整一長官、全軍への訓示
「新連合艦隊、全ての将兵に告ぐ。司令長官の伊藤である。
諸君。我々は今、ついに母国、日本の海域へと戻ってきた。故郷の山河は、もうすぐそこだ。あともう少しだ、皆、がんばれ。」
「家族が、友が、そして我々の帰還を信じ、この苦難の時代を耐え忍んでいる国民が待っている。
我々が持ち帰るこの『新国防計画』こそが、彼らの涙を拭い、この国を真の平和へと導く灯火となるだろう」
新たなる夜明けの誓い
「諸君。本土に足を踏み入れるその瞬間、我々は『敗戦の残光』ではなく、『再生の先駆者』として、胸を張って入港しよう。全艦、入港準備 ……ともに日本を救うぞ」
伊藤長官の最後の言葉と共に日本の再生が始まる。
二つの航路 —— 帰還と救済 終
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