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待たせたな!  作者: 僧籍
外伝1 南方戦線に取り残された同胞の救出を誓う

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翔鶴、瑞鶴、大鳳の艦長たち

1945年7月31日。ムアラ海軍基地の司令部応接室。


カーテンの隙間から差し込む熱帯の強烈な陽光とは対照的に、室内はエアコンの冷気で満たされ、心地良い空気が漂っていた。


テーブルを囲むのは、古村啓蔵中将と石飛参謀、そして、《帰還艦隊》三空母の艦長たちだ。


古村啓蔵中将。かつては大佐として現場を指揮していた彼は、その指揮能力を認められ、この度、例外的に、フィリピン戦で少将、カリマンタン戦の後に中将として南方戦線の救出作戦、そして「因幡乃白兎艦隊」を束ねる中心として辞令を受けていた。その傍らには、常に彼を支えてきた先任参謀、石飛晃中佐も共にいる。


翔鶴、瑞鶴、大鳳の艦長たち


「翔鶴」艦長:高松 剛 大佐

白髪混じりの短髪、歴戦の重みを感じさせる沈着冷静な男。艦隊の長兄役。


「瑞鶴」艦長:野村 健二 大佐

瞳に野性味を宿し、実戦での直感を重んじる猛将。情に厚く、部下からの信頼が絶大。


「大鳳」艦長:小沢 幸一 大佐

眼鏡の奥に鋭い知性を光らせる、新鋭艦にふさわしい理論派。数字と合理性を尊ぶ。


****


古村中将が、入れたてのコーヒーの香りが心地よいマグカップと皿に盛られたブルネイ名物を勧めるように指した。


ココナッツや米粉を使ったカラフルな伝統菓子「クエ(Kueh)」、米粉とパームシュガーを揚げた「チンチン(Cincin)」、甘いドーナツ「アルダン(Ardam)」が添えられてある。


「皆さん、お疲れさまでした。これはブルネイ王宮より頂いたものです、なかなか美味いですよ。コーヒーと組み合わせを食べると、体の底からほっとする・・・・しかし、ついにソヴィエトの共産主義者どもがその邪悪な欲望をこっちに向けてきましたね」


野村中将が遠慮なくアルダンを頬張り、笑う。


「ありがたく頂戴します、中将。しかし古村長官、我々が抜けた後のこの南方の穴、本当に大丈夫なんですかな? ニューギニアやソロモンの米軍は、今か今かと牙を研いでいるはずだ」


小沢が手帳を広げ、冷静に補足する。


「私の計算では、ニューギニア周辺のアメリカ軍を排除するために、航空打撃艦隊が無ければ、攻略は難しいかと思われます。この方面での敵の脅威を速やかに排除して、北方のソヴィエト軍に全軍を上げて、迎撃するにあたって、少なくともあと3週間以内にアメリカ軍の脅威を取り除く必要があるかと思われます。」


古村中将は、コーヒーを一口啜り、深くうなずく。


「うまいな」


北西部のラビ地域で生産されるアラビカ・ロブスタの混合種「ラビコーヒー」、ベトナムコーヒーに近い濃厚な風味とコクが特徴だ。


古村は続けて、


「心配は無用だ。前回の輸送船団のタンカーが運んでいった膨大な燃料や資源……あれが今、呉や佐世保で眠っていた艦艇を目覚めさせている。戦艦『長門』『榛名』『伊勢』『日向』、空母『葛城』『天城』。これらを中心とした『新太平洋艦隊』が、間もなくこのブルネイに到着する手はずだ」


石飛参謀が壁の海図を指し示した。


「翔鶴、瑞鶴、大鳳が新・連合艦隊に合流し、再整備を行い、ソ連軍の侵攻に対応するために出撃するには時間がありません。満州、朝鮮、樺太、北方諸島へソ連軍が侵攻を現地の守備隊、満州の関東軍で踏み留めねば日本の居留民達は殺されるでしょう。ソ連軍の侵攻時期は8月下旬の予想です、国内でも大陸へ派遣する戦力の再編成を急速に行っています」


「新太平洋艦隊はムアラを拠点に、ソロモン、ニューギニアへ一気に反攻をかける。満州の関東軍、新・連合艦隊が北でソ連を食い止めている間に、我々はこの南方での後方の憂いを取り除き、新たな国同士の関係を構築する」


高松大佐が、静かに湯気の立つカップを置いた。


「……なるほど。我々の北上は、単なる防衛ではない。南方の『真の独立』を完成させるために、背後の怪物どもを退治するというわけですな。重大な試練だ」


「ああ」と古村が応じます。「高松さん、あなたの『翔鶴』がいてくれたから、我々はこの過酷な空戦を勝ち抜けた。野村さんの『瑞鶴』の強運、小沢さんの『大鳳』の鉄壁の防御……。正直に言えば、手放したくはない」


野村大佐が不敵に笑う。


「よしてください、古村中将。我々がいなくなっても、ここには山下大将の陸軍と、あの緑十字を背負ったB-17がいる。それに……」


野村大佐は、窓の外で出航準備を急ぐ「雪風」や、日章旗を掲げた「フレッチャー型駆逐艦」や遠くの戦車上陸艦の中に乗船していくM4シャーマンを見つめた。


「あの混成艦隊こそ、新しい時代の象徴です。米軍の船や装備で、ソ連を叩く。痛快じゃありませんか」


高松が立ち上がり、居住まいを正す。


「古村閣下、石飛参謀。我々《帰還艦隊》、これより北上します。ソ連の不当な侵略、断じて許しはしません。日本を再び血で汚させはしない」


「頼みます」


古村も立ち上がり、三人の艦長と力強く握手を交わした。男たちの意志は燃え上がる、そして、お互いにこれからの困難な戦に向かう。

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