アメリカ本土進撃――鋼鉄の凱旋
鋼鉄の残光 ―チェサピーク湾の決戦―1946
1946年4月。ハワイを拠点に再編された「新連合艦隊」は、パナマ運河を電撃的に接収。大西洋へ進出するという、かつての史実では空想に過ぎなかった暴挙を成し遂げました。
アメリカ軍、海軍は残存する全戦力――アイオワ級戦艦やエセックス級空母をかき集め、陸軍は本土にある戦える航空機をニューヨーク近郊の飛行場に配備して自由の女神が立つニューヨーク沖で最後の決戦を挑みます。
1946年 8月 晩夏 午前3時30分
アメリカ合衆国の懐深く、チェサピーク湾沖200キロ。 坊ノ岬沖海戦、日本本土防衛戦、第二次ハワイ戦を勝利した日本連合艦隊は、今や満身創痍の姿を波間に晒していた。度重なる激戦を経て、各空母の艦載機航空隊は、激しい攻撃のためにエンジンの消耗や、機体自体の消耗、敵からの銃撃の破損をその都度、血を吐くような整備を繰り返してきた。
最新鋭の機体も誘導兵器もこの時代の日本の技術では作れなかったのだ。
この世界に現れた時に保有していた物以外はなかったのだ。
しかし、この決戦までに燃料や生産可能な弾薬、他の物資を後方の本国より補給できた。
使用可能な機材は当初の60パーセント。最新兵装、兵器も底を突きかけ、本来なら「弾薬切れ」で撤退すべき状況だった。だが、ここから退けば、もはや日本に明日は残されていない。
空母「赤城」飛行甲板
「……これが最後の一本だ。心して吊るせ!」
整備長の声が、海風にかき消されそうになりながら響く。エレベーターから上がってきたのは、もはや予備も存在しない九一式航空魚雷と赤外線誘導弾だった。
熟練整備員たちの手は、燃料と煤で黒く汚れている。それでも、彼らの動きに迷いはなかった。限られた航空燃料を、一滴も零さぬよう慎重に、かつ電光石火の速さで流星改の腹へと流し込む。
「弾薬が足りなきゃ、魂を詰めて飛ばすだけだ!」
若き整備兵が自分を鼓舞するように叫ぶ。隣の烈風改にも航空燃料と20ミリ機銃弾が搭載されていく。
周囲を固める護衛艦隊もまた、限界に来ていた。しかし、 戦艦「陸奥」の主砲塔はこれから戦う敵を見据えて。巡洋艦、駆逐艦は空または海中からの攻撃に備え、そのレーダー、ソナーで備えていた。
午前4時45分
払暁の太陽の光を浴びながら伊藤司令長官の暗号化された無線が、各艦、すべての人々に伝わる。
「全軍、乾坤一擲。皇国の興廃、この一挙にあり 合戦!」
最終攻撃隊、発艦
「赤城」を先頭に、五隻の空母が風上に舳先を向けた。
《帰還艦隊》機動部隊司令官
「発艦始め!」
緑の誘導旗が激しく振られる。 爆音を轟かせ、烈風改が甲板を蹴った。ボルト一本、ネジ一つに至るまで整備員たちの執念が込められた機体は、重々しく、しかし力強く大空へと吸い込まれていく。
続いて、流星改が、下面に装備した最後の武装で車輪を軋ませながら滑走を開始する。エンジンの咆哮は、まるで傷ついた巨龍の雄叫びのようだった。
烈風改:制空権を死守するため、数倍の敵機に挑む「盾」
流星改:必殺の武装の一撃を、敵空母の心臓に叩き込む「矛」
合計160機。 これが、日本連合艦隊が放つ最後の、そして最大の反撃であった。
海面を低く這うように飛ぶ攻撃隊の背後には、朝日に染まる母艦群の影があった。燃料も、弾薬も、そして帰るべき甲板も、これが最後かもしれない。
それでも、プロペラが切り裂く空気の先には、勝利への一筋の光が確かに見えていた
午前5時45分
高度6000。
烈風改のパイロットは、愛機のコックピットを覆う風防越しに、眼下の雲海を睨みつけていた。 背中を押しつける座席の振動が、いつもより力強い。機首に鎮座するの金星エンジンの完成形の「金星七一型」エンジンだ。
「……編隊長より各機へ。敵の複数の編隊が見えた。11時方向、高度5500。編隊の数は二十以上」
喉元の伝声器に低く呟く。無線機からは部下たちの若々しい返答が明瞭に返ってきた。
視界の先に、米軍のF4U-4とF6F-5とF8Aの編隊が、無骨なシルエットを晒している。 「サッチ・ウィーブ」――敵が編隊で交差してこちらの背後を狙う戦術は、既に研究済みだ。
「落とせ。だが、深追いはするな。高度の優位を捨てるなよ」
指揮下の烈風改はスロットルを押し込んだ。 機体が、まるで意志を持った生き物のように突き進む。かつての零戦ならば、この速度域では舵が重くなり、機体が悲鳴を上げたはずだ。この機体は時速600キロを超えてもなお、指先一つの操作に忠実に反応した。
急降下。重力加速度(G)が全身をシートに沈め、視界がわずかに狭まる。 標的のF4U-4が、照準環の中で急速に巨大化していく。
米軍パイロットが異変に気づき、慌てて機体を翻した。しかし、遅い。
「貰った」
操縦桿の引き金を短く、鋭く引いた。 翼内に仕込まれた四門の20ミリ機銃が、猛獣の咆哮を上げた。 曳光弾が吸い込まれるようにF4U-4の付け根を叩く。防弾装甲を自慢する米軍機だったが、大口径の焼夷炸裂弾の前では無力だった。
ドォォ、と重低音を響かせて敵機の翼がもげ、一瞬で炎の塊と化す。 爆発の余韻に浸ることなく、操縦桿を静かに引き戻した。機体は軽やかに機首を上げ、再び蒼天の高みへと駆け上がっていく。
振り返ると、後方の空には、黒い煙を引いて落ちていく「グラマン」の残骸がいくつも点在していた。 かつては「撃たれ強く、恐ろしい相手」だった米軍機が、今やただの獲物に成り下がっている。
「こちらハ(赤城)の一番機から各航空隊へ。敵、さらに複数の編隊を捕捉。……あれが、噂のマスタングか」
指揮官の視線の先、銀色に輝くアメリカの至宝、P-51マスタングの編隊が侵入してきた。
「全機、突撃。帝国海軍の意地を見せてやれ」
指揮官が操縦桿を倒すと、烈風改はその巨体からは想像もつかない鋭さでロールした。 零戦よりも一回り大きな翼。それが生み出す圧倒的な揚力と、高高度用に調整された過給機が、機体を軽々と加速させる。
マスタングの編隊が、こちらに気づいて散開した。 「ジャップの戦闘機だ、高度で圧倒しろ!」とでも叫んでいるのだろう。敵は一斉に機首を上げ、上昇力で逃げようとする。これまでの日本機なら、ここでエンジンが喘ぎ、失速していた。
だが、烈風改は違った。
「逃がさん……!」
「敵機に後れを取るな!全機上昇!」
天空を穿つがごとく、急上昇、視界の空の青の色彩が濃くなる。
汗を拭うことも忘れ、再び青の深淵を求めて、睨んだ。 雲間から差し込む陽光が、機体の日の丸を鮮血のように赤く染め上げていた。
烈風改はスロットルを全開にした。まるで重力を無視するように上昇するマスタングの背後へ食らいついた。 敵パイロットの驚愕が、風防越しに見えるようだ。マスタングが最も得意とする高度で、それ以上の速度と旋回を見せつける日本機。
敵機が必死にひねり込み、急旋回で逃れようとする。製空盒式自動空戦フラップは巨大な翼が気流を完璧に捉え、マスタングよりもさらに内側の円を描いて回り込む。
照準環の中に、銀色の機体が完全に収まった。
「堕ちろッ!」
翼内に装備された二十ミリ機銃が火を噴いた。たった数発の弾丸がマスタングの胴体を真っ二つに引き裂き、空中で巨大な火球が膨れ上がった。
一撃。文字通りの粉砕だった。
「ハ(赤城)の一番機より各航空隊へ。敵戦闘機編隊群を排除した、敵攻撃機編隊群を掃討せよ」
鋼の豪雨:対艦噴進弾の蹂躙
空では、日本海軍の誇る万能攻撃機「流星改」の編隊が、雲を切り裂いて突進していた。しかし、彼らは米艦隊が誇る「ボフォース対空火器」や「VT信管」の射程内には決して入らない。
機体の翼下には、漆黒の怪鳥——「対艦噴進弾」が懸吊されている。
「距離30。噴進弾、放て!」
点火されたロケットモーターが咆哮を上げ、赤外線誘導噴進弾は米艦隊へ殺到する。エセックス級空母、無数の噴進弾が護衛のフレッチャー級駆逐艦群を次々と火柱に変えていく。
防空巡洋艦のレーダーは飽和し、対空砲火は空を虚しく叩くのみ。
流星改の噴進弾が輪形陣に穴を開け、徹甲爆弾が護衛艦隊を真っ二つにして、航空魚雷が空母に串刺しにする。
上空ではすでにアメリカ軍の戦闘機を排除した日本軍の戦闘機の編隊が見守っていた。
チェサピーク湾の空から、敵の影が消え去ろうとしていた。
午前8時30分
チェサピーク湾、鋼鉄の審判:『陸奥』対『モンタナ』
マンハッタンの摩天楼が水平線にかすむ海域。アメリカ海軍の最高傑作、改アイオワ級『モンタナ』は、12門の16インチ砲を同時に旋回させました。建造途中のアイオワ級「イリノイ」の船体を流用しつつ、防御力を高めた装甲、超重量弾、最新のレーダーを装備した、どんなアメリカの敵でも粉砕する「アメリカの誇り」でした。
戦艦「陸奥」。 史実では爆沈の悲劇に見舞われたその巨艦は、今や技術の結晶となっていた。艦橋に高く掲げられた最新鋭の「電探連動型誘導弾」管制システムが、地球の曲率すら計算に含め、米艦隊の動態を完璧に予測する。さらに上空を飛ぶ5号電探改を搭載した流星改からの情報を共有する。
最新の蒸気タービンエンジンに換装された戦艦『陸奥』は、チェサピーク湾へと姿を現します。ワシントンD.C.の喉元に、41センチ砲の砲口が突きつけられた瞬間でした。
「艦長、敵改アイオワ級戦艦に距離30000mで砲撃開始、弾種、二式徹甲弾だ。各砲塔に電探の情報による計算情報を連絡、電探、電算機と相互通信態勢に移行」
伊藤司令官の静かな、しかし重い決断が下ります。
・・・・
モンタナ艦橋「敵艦、距離3万! レーダー照準固定、全主砲斉射!」
陸奥、艦橋伊藤司令官「電磁攪乱、展開。モンタナのレーダーに『幻』を見せろ」
『モンタナ』の艦橋で、米軍指揮官が叫びます。アイオワ級譲りの射撃コンピュータが導き出した正確な弾道、40.6cm 50口径砲、12門が火を噴きました。アイオワ級を上回る圧倒的な投射弾量。ニューヨークのビル群を震わせる轟音とともに、計12発の巨弾が『陸奥』の周囲に巨大な水柱を突き立てます。
しかし、『陸奥』の艦橋では、伊藤司令官は敵のレーダーの妨害を電子戦担当官に指示していた。
『モンタナ』の最新レーダー画面には、『陸奥』のノイズの混じった虚像が映し出されました。米軍が誇る精密射撃は、電子の壁に阻まれ、空しく海を叩くだけでした。
至近弾の衝撃で『陸奥』の巨体が激しく揺れますが、その主砲塔は微動だにせず、ただ一点――モンタナの「バイタルパート」を睨み続けていました。
・・・・
陸奥艦長はその時を告げる
「主砲、電探連動……誘導始動ッ!」「撃てッ!」
『陸奥』の41cm3連装砲3基、計9門が咆哮しました。
放たれたのは「二式徹甲弾」。レーダー射撃を前提にし、誘導性、装甲貫通力を極限まで高めた、その弾頭は、戦艦の大砲でモンタナを狙撃した。
精密なる弾道: 3万メートルを超える遠距離でありながら、9発の砲弾はあたかも一本の矢のように、モンタナの第一・第二砲塔の間に集中しました。
装甲貫徹: モンタナが誇るクラスAの重装甲。しかし、垂直に近い角度で突き刺さった『陸奥』の41cm弾は、物理法則の限界に挑む運動エネルギーを一点に集中させ、ついにその「盾」を食い破りました。
巨神の跪き
「……直撃! 敵戦艦、第二砲塔大破、火災発生!」
『陸奥』の41cm弾1発が、モンタナの第二砲塔バーベットを貫通。内部で炸裂した衝撃が、モンタナの戦闘能力の核心部を物理的に粉砕しました。
100%の命中精度——それはもはや「多数の砲撃での攻撃」ではなく「狙撃」であった。
純粋な「質量と速度」による破壊。その事実は、アメリカ海軍の士官たちに、技術的な敗北以上の「絶望」を突きつけました。
「我々の最新鋭艦が、正面から撃ち抜かれたのか……」
炎上し、速度を落とすモンタナ。その姿は、「合衆国」の断末魔そのものでした。
自由の女神の背後で、黒煙を上げる『モンタナ』と、一分の隙もなく停船する『陸奥』。
・・・・
ニューヨークの市民が目撃したのは、かつて無敵を誇ったアメリカ大西洋艦隊が、日本海軍によって一方的に殲滅される光景であった。
自由の女神の背後で、戦艦モンタナの巨体がゆっくりと、しかし確実にハドソン川の古い河床の泥に沈むように大西洋へと消えていった。
1946年、アメリカ東海岸。 チェサピーク湾を埋め尽くしていたのは、かつて「無敵」と謳われたアメリカ大西洋艦隊の残骸であった。日本海軍遠征艦隊司令官・伊藤整一中将は、旗艦『陸奥』の艦橋から、黒煙を上げるノーフォーク海軍基地を静かに見つめていた。
「これで、終わったか……」
誰かが呟いた。米軍の空母群は壊滅し、迎撃に上がったP-51も、日本軍の戦闘機隊の前に露と消えた。勝利は目前、いや、すでに手中にあった。
・・・・
銀翼の死神
その時、対空電探のオペレーターが悲鳴に近い声を上げた。
「感あり! 方位270、距離80! 巨大な編隊が接近中……これは……B-29です! 数が多すぎる、少なくとも50機以上!」
水平線の彼方から、鈍く銀色に輝く巨大な影が姿を現した。それは日本軍が恐れていた「超空の要塞」B-29の戦略爆撃編隊であった。しかし、その中には数機、他とは異なる機体――広島と長崎を灰にするはずだった、特殊改造機「シルバープレート」が含まれていた。
無線封鎖を破り、全艦隊に米軍からの最後通牒が届く。
『日本艦隊に告ぐ。我々は新型爆弾、すなわち原子力爆弾を手中にしている。この編隊のどれかが貴殿らの頭上で爆発すれば、チェサピーク湾は地獄の業火に包まれるだろう。直ちに無条件降伏せよ。』
艦橋に戦慄が走る。空を埋め尽くすB-29。一機でも残せば、艦隊は全滅する。しかし、高角砲の射程外から高高度の核爆撃に対し、対空火器では限界があった。
燃え尽きた翼、 摩耗した英雄たち
夕刻の光が差し込むチェサピーク湾の上空には、文字通り「死力」を尽くした日本軍迎撃隊の姿があった。 歴戦の戦闘機、かつて美しく空を舞った翼は、度重なる空戦によって煤け、弾痕にまみれていた。
パイロットたちの肉体は、すでに限界をとうに超えていた。 長時間の高G(重力加速度)に曝され続けた首は、もはや自重を支えることすら困難で、飛行服の中は冷たい汗と、急激な機動による内出血の痣で埋め尽くされている。
「……くそっ、視界が……霞んでやがる……」
若き搭乗員が、血走った眼をこすりながら操縦桿を握り直す。酸素マスク越しに漏れる呼吸は荒く、酸素ボンベの残量計はすでにレッドゾーンを指していた。
弾なき空の絶望
米軍の艦隊を壊滅させ、空母機動部隊を仕留めた代償は大きかった。 各機の機銃弾倉は底を突き、20mm機銃の銃身は過熱によって歪んでいる。無線機からは、弾切れを報告する力ない声と、疲弊した仲間の荒い息遣いだけが流れていた。
そこへ現れたのが、空を覆い尽くすB-29の巨大な編隊――「銀色の壁」であった。
「全機に告ぐ! 敵B-29を阻止せよ! 一機たりとも艦隊に近づけるな!」
指揮官の悲痛な叫びが響くが、迎撃に向かう機体の動きは鈍い。数時間の連続戦闘による疲労は、熟練の操縦技能を確実に奪っていた。一機、また一機と、エンジンのオーバーヒートや燃料切れで戦列を離脱していく。
圧倒的物量への無力感
B-29の密集陣形から放たれる、数千発の12.7mm防御火器の弾幕。 普段なら巧みに回避し、死角から肉薄するはずのトップエースたちも、今の疲労困憊した身体ではその弾の雨を避けることすら叶わない。
「弾が……一発も残ってねぇんだ……」
あるパイロットは、敵機を目前にしながら空打ちを繰り返す。別の機体は、体当たりを試みようと高度を上げるが、力尽きたエンジンが黒煙を上げて失速する。
チェサピークの空に広がる絶望。 米軍の「原爆投下」の脅しが届いたその時、空の守り手たちは、ただ銀色の死神たちが艦隊へと進むのを、震える指先で見送るしかなかった。
その時、無線機からノイズ混じりの鋭い命令が飛ぶ。
「――航空隊、全機退避! 繰り返す、全機直ちに高度を下げ、回避せよ!」
疲弊したパイロットたちが眼下を見下ろすと、そこにはチェサピークの海を割り、自らの全身を「巨大な対空兵器」へと変貌させた戦艦『陸奥』が、鈍い光を放ちながら砲塔を回していた。
覚醒する「陸奥」の41センチ砲
「……まだ、切り札は残っている」
伊藤司令官の視線の先には、統合統合指令室にいる艦長、幕僚、情報・モニター員、通信員、操舵員、時空を超えてきた者、この時代の者、この戦場にいるすべての人々がいた。
戦艦『陸奥』、かつて爆沈の悲劇を免れ、近代化改装を施されたこの陸奥には、「対空レーダー連動型・41cm弾」が搭載されていた。
「艦長。目標、B-29大編隊、全力で迎撃する」
『陸奥』、出力を最大へ
新設された主発電機室。そこには、従来の戦艦の常識を遥かに凌駕する超高圧蒸気タービン発電機が鎮座していた。 胎動する「第2の心臓」
「主発電機、並列運転開始! 第一から第四回路、接続!」
技師の叫びと共に、巨大なダイナモが咆哮を上げた。重油の燃える匂いと、高電圧が空気を焼く特有のオゾン臭が立ち込める。その出力は、13MWの膨大なものであった。床を震わせる重低音は、戦艦『陸奥』が単なる鉄の塊ではなく、「生きた雷神」へと変貌したことを告げていた。
神経系を走る青き火花
発電機から生み出された莫大な電力は、腕ほどの太さがある絶縁ケーブルの束――いわば艦の「神経」――を通って、各部へと供給される。
電磁誘導の咆哮: 艦橋最上部に設置された大型電探が、供給される大電力によって青白い放電現象(コロナ放電)を纏いながら回転を速める。不可視の電磁波がチェサピーク湾の空をなめるように走査し、B-29の機影を針の穴を通すような精度で描き出していく。
作戦室の隣にある火器管制電子計算機。電力が流れ込むと指令室のパネルのインジケーターが一斉に明滅を開始した。熱を帯びた計算機は、敵機の高度、風速、自艦の動揺を瞬時に演算し、必殺の解を導き出す。
41cm三連装砲、覚醒
最も電力を要求するのは、新設された41cm三連装砲塔であった。
「砲塔旋回! 誘導射撃用意!」
これまで重厚な水圧に頼っていた旋回機構が、強力な大型モーターによって駆動される。数十トンの砲身が、まるで指揮者のタクトのように軽やかに、かつ精密に空を仰ぐ。
給弾機が唸りを上げ、電力による自動装填装置が、巨大な砲弾を薬室へと押し込んだ。
「全系統、最大出力。陸奥、狙い定まりました」
伊藤司令官がそれを確認した瞬間、艦内の照明が一瞬だけ暗転した。 それは、全てのエネルギーが41cm砲の誘導システムと発射の瞬間に集中した証であった。
『陸奥』の艦上。最新鋭の電探が敵機の一機一機を捕捉し、射撃盤にデータを送り込む。巨大な41cm三連装砲塔が、まるで生き物のように滑らかに空を仰いだ。
陸奥の艦長はすべての準備が整った事を確認して告げる。
「全力斉射、撃てッ!!」
次の瞬間、艦を包み込むのは砲声だけではない。精密にコントロールされた「雷神の一撃」の光がチェサピーク湾に放たれた。
轟音と共に、重量1トンを超える巨大な砲弾が次々と放たれた。それは単なる鉄塊ではない、ここにいるすべての者たちの意志を叩きつける。
空が裂けた。 雲を突き抜けた41cm砲弾が、B-29の編隊を狙撃していく。高高度の空域を鋼鉄の嵐で埋め尽くす。
「一番機、撃墜! 二番、三番……!」
レーダー誘導された砲弾は、次々とB-29のエンジンを、翼を、そして胴体を粉砕していく。原爆を積んでいたとされる特殊機も、その威容を見せる間もなく、オレンジ色の火球となってチェサピーク湾へと降り注いだ。
空を埋め尽くしていた銀翼の群れは、わずか数分のうちに一機も残らず消滅した。後に残ったのは、澄み渡った青空と、海面に浮かぶ無数の航空機の残骸だけだった。
「……敵編隊、全滅。爆発の兆候なし」
報告を聞いた伊藤司令官は、深く椅子に腰を下ろした。 最強の盾となった『陸奥』の向こう側で、アメリカ合衆国の首都ワシントンが、ただ沈黙の中に佇んでいた。
自由の女神と日章旗
1946年秋。ニューヨーク、マンハッタン島。 摩天楼を背景に、「陸奥」の巨体が進みます。自由の女神像の傍らを通過する際、米国民が見たのは、かつての敵国の象徴ではなく、「いかなる困難においても我らは存在するという意志」そのものでした。
ワシントンD.C.では、停戦交渉が行われました。ホワイトハウスには日章旗が掲げられた。
ワシントンD.C.の近郊のアーリントン墓地では、まるで燃え尽きる直前の残り火のような美しさに包まれていた。
丘の上に立つアーリントン・ハウスから見下ろすと、広大な敷地を埋め尽くす白い墓石の列が、波打つ芝生の海をどこまでも続いている。夏の間、あんなに鮮やかだった深い緑は影を潜め、いまやオークやカエデの葉が、琥珀色や深いワインレッドへとその姿を変えていた。
ポトマック川を渡ってくる風は、わずかに冷気を孕み始めている。乾いた木の葉がアスファルトの上をカサカサと音を立てて転がり、その音さえも、この場所が抱える巨大な静寂に吸い込まれていった。
歴史の終着点:Pax Nipponica(日本の平和)
アメリカ東海岸の占領により、太平洋戦争は事実上の終結を迎えました。




