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待たせたな!  作者: 僧籍
第四部 北方防衛開放戦線

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シベリア鉄道大爆破 空軍戦略爆撃隊出撃 4-4 ソ連軍仮設飛行場群を爆撃 1945年9月22日午前4時30分

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


1945年9月22日、午前4時30分。


ウラジオストク近郊、ヴォズドヴィジェンカ飛行場の広大なコンクリート滑走路は、秋の静かな静寂の中に横たわっていた。


9月下旬の沿海州は、まだシベリアからの凍てつく寒波が吹き下りてくる季節ではない。しかし、日本海から流れ込む湿った夜気と夜間放射冷却が重なり、日中の温かさが嘘のように早朝の冷え込みがじんわりと肌を刺す。金属の機体表面には細かい朝露がびっしりと付着し、滑走路に立つ整備兵たちの吐く息が、ほのかに白く滲んでいた。


日の出前の薄明りの中、滑走路の上には圧倒的な威容を誇る重爆撃機群があった。


大気を低く振動させる双発・四発エンジンの咆哮。

発動機の暖気運転に伴い、四種類の重爆撃機の排気管から、青白く鋭い排気炎が薄闇の中に幾重にも散っていた。


護衛に就くのは、統合兵站本部が「帰還鋼」と新技術を投入して鍛え上げた傑作機、四式改戦闘機「疾風」と五式改戦闘機「飛燕」の精鋭隊である。その背後に控える爆撃隊こそ、日本軍が動員可能な最大火力を結集した混成打撃部隊であった。


一式陸上攻撃機三四型:長大な航続距離と洗練された空力性能を誇る、伝統の「海軍陸攻」。

四式重爆撃機「飛龍」:高速性能と頑丈な防弾装甲、重武装を兼ね備えた「陸軍最鋭機」。

B-17E「フライング・フォートレス」:かつてフィリピン戦線で鹵獲され、尾翼に鮮烈な日の丸を塗り直された「空の要塞」。

B-24J「リベレーター」:各地のアメリカ軍基地より鹵獲され、B-17をも凌ぐ破格の爆弾搭載量を持つ「大洋の覇者」。


敵から奪い取った大型爆撃機と、自国の誇る精鋭機が肩を並べる混成編隊。

これらはすべて、佐伯中佐の冷徹な尋問によってソヴィエト軍高官から吐き出させた「ソヴィエト第12航空軍」の致命的な急所――前線基地へ航空燃料を供給する輸送ピストン網を根底から砕くために集結せしめられたものであった。


---


4時45分。


「一番機、滑走開始!」


緑色の管制信号灯が闇を割った瞬間、先頭のB-24Jが四発のツイン・ワスプエンジンを力強く轟かせ、湿ったコンクリートを踏みしめて滑走を開始した。重厚な巨体がゆっくりと、しかし確実に加速し、黎明の空へと躍り出る。


続いて一式陸攻、飛龍、B-17が次々と大気を切り裂いて離陸。滑走路を飛び立った数十機の爆撃機群は、ウラジオストク上空でゆっくりと大きな円を描きながら重厚な大編隊を組み上げた。両翼を固める疾風と飛燕のシルエットが、紫紺から茜色へと変わりゆく蒼穹に映える。


部隊はただちに、満州平原の奥深くに点在するソヴィエト軍仮設飛行場群を目指し、北西へと針路をとった。


高度6,000メートル。


風防越しに見える眼下には、朝もやに包まれた広大な満州の大地が広がっていた。そこには、自らの「足」である燃料補給路を絶たれようとしているソヴィエト軍の拠点が眠っている。


高度が上がるにつれて機内の気温は下がり、搭乗員たちは防寒服の襟を立てた。佐伯中佐の齎した情報によれば、第12航空軍は前線の野戦滑走路に分散配置されているものの、その命脈である航空ガソリンは特定の仮設集積所とLi-2輸送機部隊による狭いピストン輸送に依存している。その局限された動脈を断てば、どれほど強力な最新鋭戦闘機群であっても、ただの無力な鉄の塊と化すのだ。


---


「目標上空、照準開始」


各地の攻撃ポイントへ散った爆撃隊の爆撃手たちが、ノードン照準器や九九式爆撃照準器に目を押し当てた。

朝もやが薄れゆく地表に、ソヴィエト軍が電撃的に設営した直線状の野戦滑走路と、その脇に整然と並べられた大量のドラム缶群。防空設備の整わぬソヴィエト軍の仮設拠点は、高度6,000メートルを悠々と維持する巨大編隊に対し、無防備そのものであった。


「投下ッ!」


爆弾倉の扉が重々しく開き、一斉に爆弾投下レバーが引かれた。

腹下に抱えられた大型爆弾の群れが条痕を描いて急降下し、地表の黒い点へと吸い込まれていく。

高高度の航空機の上から地表で爆撃を確認すると、眼下で複数の爆弾が地上で爆発して小さな円の爆風と鉄の小片を巻き散らした。


ぼん、ぼん、ぼん、ぼん、どっどどどどどどどどどどどどどど


投下から数秒後、地表が激しく炸裂した。


高高度から正確に放たれた爆弾群は、滑走路脇にうずたかく積まれていたソヴィエト軍の燃料ドラム缶の山を直撃。さらに、前線への燃料ピストン輸送を担うべく羽を休めていたLi-2輸送機の群れを容赦なく叩き潰した。


大容量の航空ガソリンが引火し、まるで火山が噴火したかのような鮮やかな橙色の火柱が天を突く。連鎖爆発が次々と起こり、野戦滑走路の全域が瞬く間に逃げ場のない「火の海」へと変貌していった。


緊急発進の暇すら与えられない。滑走路上や無掩体壕に並べられていたソヴィエト軍の最新鋭戦闘機Yak-9やLa-7は、地上の猛烈な爆風と火焔に晒され、翼を折り曲げられ、エンジンを吹き飛ばされて次々と炎上していった。


破砕と猛炎。精密爆撃は、ソヴィエト軍第12航空軍の前線稼働能力を物理的に削ぎ落としたのである。


反撃の対空砲火すらまともに上がらぬまま、任務を完遂した混成爆撃部隊は、悠々と針路を反転。秋の明瞭な太陽を背に受けながら、全機がウラジオストクのヴォズドヴィジェンカ基地への帰還の途についた。


---


同日午後。ヴォズドヴィジェンカ基地の作戦室。


微かに煙草の紫煙が燻る室内で、戦略爆撃部隊司令官は帽子を脱ぎ、卓を挟んで立つ伊勢神中将および高瀬少将に向かって、淡々と結果を報告した。


「護衛戦闘機隊、戦略爆撃部隊、全機無事帰還。目標とした第12航空軍の主要仮設飛行場12箇所を完全沈黙させました。敵航空燃料集積所の約8割を焼却処分。これにより、敵航空機約1,000機の作戦行動範囲および出撃回数は著しく減少したものと判断いたします」


報告を聞き終えた高瀬少将は、卓上に広げられた巨大な満洲全図に歩み寄った。

そして、ソヴィエト軍飛行場を示す12箇所の赤丸の上に、太い黒ペンで静かに「×」印を書き加えた。


「……これで、通遼へ向かう我々の頭上を騒がせる敵の航空部隊は、当面はおとなしくなるか」


高瀬少将がペンを置き、慎重な眼差しで呟く。

しかし、伊勢神中将は頷かなかった。その厳しい表情には、楽観のの色は微塵もうかがえない。伊勢神は腕を組んだまま深く思考の海に沈み、地図上の赤露の兵站線――特にシベリア本線から延びる鉄路の網目を見つめていた。


「いや……まだだ」


伊勢神中将は静かに首を振った。


「今回の爆撃で敵の『前線での足』を一時的に奪ったに過ぎん。ソヴィエト軍の恐ろしさは、その凄まじい工兵能力と、多層化された兵站網にある。仮に主要な滑走路と燃料庫を潰したとしても、彼らの鉄道復旧部隊がすでに主要な鉄路を修復しつつあるならば、別ルートの迂回路を使って即座に代替の燃料と機材を前線へ送り込んでくるはずだ」


高瀬少将も表情を固くし、低く同意した。


「左様ですな。敵はすでに複数の兵站路を確保している可能性がある。12箇所の飛行場を叩いたからといって、制空権を完全に掌握したと過信するのは危険極まりない」


伊勢神中将は地図上の通遼周辺、そしてソヴィエト国境から延びる複数の鉄道路線に指を置いた。


「敵の航空兵力を真の意味で沈黙させるには、空ではなく『陸の動脈』を絶たねばならん。鉄路が生きていれば、奴らは何度でも蘇る」


伊勢神は鋭い眼光で作戦室の将校たちを見回し、明確な圧力を込めた声で次の命を下した。


「ただちに情報部に伝えろ。ソヴィエト側の鉄路の復旧状態、ならびに代替兵站路の構築状況を、至急かつ徹底的に再確認せよ、と。急げ」


「ハッ!」


参謀が深く敬礼し、作戦室を飛び出していく。

一時的な戦果に酔い痴れることなく、次なる脅威の芽を冷徹に見据える司令部の中――伊勢神と高瀬の視線は、大陸を切り裂く「鋼鉄の線路」と、過酷な地上戦が待ち受ける通遼の地へと深く注がれていた。

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