第一幕
「夏といえば怪談というのは、安直過ぎないか?」
「逆に新鮮だよね」
「三百六十度回転したつもりか? ちっともマンネリを打破できていない」
「そう、冷たいこと言わないでよ」
「腕を掴むな。暑苦しい」
「設定温度を下げる?。キリが良いから、二十度にしよう」
「冬の暖房かっ。リモコンを貸せ。これは俺が預かっておく」
「最近の家電は、本体だけでは操作できないから不便だよね。――せっかくの休みなんだから、どこか行こうよ」
「快適な室内を離れる気は無い」
「出不精なんだから。これからは、オデブくんって呼ぼうかな」
「デブは貴様だろうが。いまの体重を言ってみろ」
「西瓜三つ分だよ」
「西瓜一つは、二十五キロもない」
「知ってるなら訊かないでよ。――ねぇ、行ってみようよ」
「あいにくだが、俺はヴァーチャル・リアリティーには興味が無いんだ」
「この体験を機会に、興味が湧くかもよ? 何事も挑戦だよ」
「俺は自分では、何をやっても三日坊主の誰かさんより、よっぽど賢明だと思っている」
「誰かさんに失礼だよ。三日続けて不向きだと分かったから、違う方法を試してるだけなのに」
「その結果が、その体型に繋がるんだがな」
「御託、講釈、能書き、お題目、長広舌。出来ない理由は必要ないから、ともかく行こうよ」
「つまらないと思うけどなぁ」
「つまらないかどうか、確かめてみないと。経験してもいないのに、勝手に判断する癖は良くないよ」
「今日は部屋で骨休みをするって決めてたんだ。予定を変えられて堪るか」
「話し合いで解決できないなら、物理で訴えるしかないよね。ヨッと」
「おい、こら。引き摺るな。摩擦熱が、背中にっ」
「行くというまで、引っ張るよ」
「分かった、分かった。行く。行ってやるから、その手を足から離せ」




