第十二話 ビジネスと価格
「もらいにいくのよ!!」
蘭子は堂々とそう言った。
これからタクシービジネスをやるための、トライク、つまり大人用三輪車を手に入れると。
「はい!?」
「え!?」
僕と明日空は聞き返すのが精一杯だった。
僕らの常識とは違う考え方だった、一生懸命バイトして貯めるのかと思っていた。
「一体どこで!?」
なんとか一歩進んで、明日空が蘭子に問いかけた。
僕は蘭子の突拍子もない発言にまたくついていくことができなかったので、明日空は流石だ。
「決まっているじゃない!」
ビシッと指を出して、腕を高く上げた。
「自転車屋さんにもらいに行くのよ!!」
当たり前のように蘭子はそう言った。
「おいおい、自転車屋さんは自転車をくれるところじゃねーぞ!自転車を売るところだぞ!!」
明日空が言った。
当たり前のものいいに僕は少し笑ってしまった
「たしかに」
僕は笑いを噛み殺しながら、そうなんとかつぶやいた。
「あなた達、商売がわかってないわね!!」
腕組みをする蘭子。逆に僕達が怒られた。
「商売がわかっていない!?どういうこと?!」
僕が蘭子にそう聞いた。なにか意味がありそうに思ったからだ、ただでもらうことと、ビジネスが密接に関わりあっているように思ったからだ。
「そもそも、あなた達、値段が固定だなんて思っていないわよね!?」
「値段が固定じゃない!?!?」
蘭子の発言にとまどう明日空。僕もその言葉を反芻していた。
「ちょっと考えさせてくれ」
と片手を上げて、蘭子を静止する明日空。
自分が思いつく価格の例をランダムに想像しているのだろう。
「たとえばコンビニの値段は固定だよね」
僕もそのリストアップに強力することにした。
「だな。コンビニの商品の値段が変わることはない。固定だ」
と明日空は僕に言った。
「そうね。でも、セールというのがあるわね。オニギリ100円セールとか」
「確かに!!固定されてない、相手の意思によって、変動している」
実例をもとに事実を確認する明日空。
「そもそも商売というのは、お互いが納得すれば、いくらでもいいのよ。1円でもいいし100億万円でもいいのよ」
「100億万円という単位はないと思うけど」
蘭子がわかりやすく説明してくれた、ただ、単位は気になったので突っ込んでしまった。
くすくすと笑う明日空。
「いくらでもいいのか。なるほど。」
「日本では、なかなか高校生どうしが、おかねのやりとりをすることはないから、たいていは無料でやってしまうから、気が付かないけど、たとえば、買い出しに言ってくれた人にお釣りを上げるとかね。まったく違法ではないのよ」
明日空の理解を助けるように。蘭子が言う。
「いくらを渡しても、なんにも問題がない。」
「おもしろいな、俺たちは、価格が決まった世界に生きているからその事実に気がつかないってことなのか」
蘭子が整理して口にする。明日空が考える。
「そう、価格はいくらでもいいのよ。普段10万円するものが、その時は0円でもね!」
ビシっと蘭子は腕を振り上げた。