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『ツインソウル物語3』“初恋”  作者: 大輝
第23章 卒業式の約束
23/24

初恋23

【響の宿舎】


「松葉ガニのええ(良い)のが取れたけなぁ」


「いつも悪いな」


「ニャー、ニャー」


「ニャカニャ%☆♪」


「シロ達のも有るけ」


野上卓。


お爺さんの後を継いで、漁師になったんだ。


「そろそろ卒業式だけ、また泣いとんならしぇんかともって(思って)来てみたに」


「ハハ…」


「俺ん時も、泣きゆんなったけ」


そうそう、卓達の代は、ここへ来て初めての卒業式で、我慢してたんだけど、1年生だった香達の優しい言葉に璃子が先に泣き出して、僕も泣いたんだよな。


もうすぐあの子達の卒業式だ。


「響先生、山菜取り行かか」


ああ、柿崎玄も来てくれた。


「玄も、先生が泣いとんなるともって(思って)来ただらあがな」


「おまい(お前)もだらあ」


【中町】


「あら、皆んな。どこ行くの?」


「山に山菜取り」


「私も行く」


【山】


「2人とも、お酒は呑めるようになった?」


「うん」


「ちーと(少し)」


「じゃあ、一緒に呑みに行けるわね」


ははあ、璃子ほどは呑めないよな。


「休みには、寛太も戻るけ」


そしたら、大人になった悪ガキトリオと呑み会だな。


「山菜、まだあんまり出てないわね」


柿崎の奴、山菜取りとか言って、本当は何でも良かったんだよな。


ただ、僕の様子を見に来てくれただけなんだ。


それでも、少しは採取出来たぞ。


「しょうのけ飯にしようかしら?」


「ビーカーで炊きなっだかいな?」


「どうやったらビーカーで炊けるのよ」


「璃子ちゃんの料理は、理科の実験だけなぁ」


「ハハハ」


「響が言うから、本気にしてるのね。見てらっしゃい。竃で美味しいしょうのけ飯を炊いてあげるから」


「横路通っていなぁか(帰ろうか)」


「いなぁ、いなぁ(帰ろ帰ろ)」


聞いてないし…



【響の宿舎の台所】


「あ、お焦げが出来てる」


「旨げななぁ」


「どう?」


「ああ、ちゃんと炊けとる」


「当たり前でしょう」


【部屋】


さっき取って来た山菜で、璃子が炊いたしょうのけ飯。


それに、野上卓が取って来た松葉ガニで、4人でワイワイと夕食を食べた。


「良いわねー、こういうの。だからこの町が好きだわ」


本当だよな。


「お兄ちゃん。ええ加減戻って来にゃ、いけん(ダメ)がな」


玄の妹の麻莉奈だ。


彼女は、今年中町学園を卒業したら、旅館の仲居さんになる。


【諏訪旅館】


「ニャ、ニャー」


「かわい猫ですね、何て言う名前ですか?」


「湯之助です」


「写真撮らせてね」


【香の部屋】


「ニャーオン」


「ポンちゃん、おいで」


「ニャー」


「抱っこして」


〈香に抱っこしてゴロゴロ言うポン〉


「ポンちゃん。明日ね、卒業式なの…もう…響先生と会えなくなっちゃう」


「ゴロゴロ」


【響の宿舎】


「響おはよう。行くわよー」


「ああ、今行く」


【中町】


「わー、綺麗ね…見て」


「ああ、風花が舞ってる」


晴れているのに、天から大きな花びらのような雪が、フワフワと舞い降りて来る。


東京でも、卒業式の頃は花冷えがするけど、こっちは雪だ。


「何だか幻想的ね…」


【中町学園体育館】


〈卒業生入場〉


璃子の奴、もう泣きそうな顔してるぞ。


3年の担任だったからな。


香が…居るな。


〈開式の辞、校歌斉唱、そして卒業証書授与〉


「朝風香さん」


「はい」


「浅田未来さん」


「はい」


「雨宮那月さん」


「はい」


「荻野愛佳さん」


「はい」


「柿崎麻莉奈さん」


「はい」


「諏訪眞澄さん」


「はい」


〈校長式辞与、在校生送辞、卒業生答辞と続き…〉



とうとうハンカチを出したぞ。


「大丈夫か?」


「響こそ…これから合唱の指揮が有るんだから、泣かないでよ」


なんて言いながら、顔がグチャグチャだぞ。


〈そして混声合唱。ハレルヤ、グローリア、大地讃頌〉


ああ、卒業式は何度経験してもダメだわ。


今年は、担任の生徒達だから、よけいよね。


〈閉式の辞、卒業生退場〉


この町に来て初めて会った生徒が、香だったな。


あれから3年か…


【職員室】


「響ちゃん。香が桜の木の下で待ってるよ」


「また困った顔してる」


「卒業したんだから、良いじゃない」


「ほらほら」


〈眞澄と未来に押されて職員室を出る響〉


【校庭の桜の木の下】


ああ、あそこに居るな…


「桜…まだ咲いてないな」


「あ…」


来てくれた。


「4月にならないと咲かないかな?」


「4月になったら、打吹公園の桜見に行きますか?」


「え?その頃はもう横浜だろ?」


「大学の入学式までに咲いたら…」


「……」


「……」


「……良いよ」


「本当ですか?本当に一緒に行ってくれますか?」


「約束する」


〈香の大きな瞳から涙がこぼれる〉


「泣くなよ」


〈香の頭を手でポンポンとする響〉


【香の部屋】


4月9日が入学式。


それまでに咲くかしら?


「全く、鐘城先生も…桜なんか咲かなくたって良いじゃない。もう卒業したんだからデートぐらいねえ」


「きっと、卒業しても教え子には変わりないと思ってるのね」


「頭固いな…何とかならないかしらねー」


「ニャー」


「あ、ほら、桜の開花情報毎日更新してるって。桜の名所100選。打吹公園有った」


打吹公園の桜の開花は、3月下旬から4月上旬。


きっと大丈夫。


お願い桜の精、横浜に行くまでに花を咲かせて。



【響の宿舎】


「コッコッコッコッ、コケー!」


「今日も、コッコちゃんの新鮮な卵を頂きますよ」


「あー、この子がマエストロねー。ポンちゃんとそっくり」


あん?


【庭】


出たな、神出鬼没の涼子さん。


「おはようございます」


「おはようございます」


「初めて来ちゃった」


「ああ、そうだね」


「あ、ねえ、携帯貸してくれる?」


「あ…はい、どうぞ」


「ニャー」


「あ、チャコ来たのか」


「ニャー、ニャー」


「お腹空いたのか?待ってろ」


〈部屋にキャットフードを取りに行く〉


「チャコちゃん、良い子ね」


「ニャー」


「これで、良しと」


〈響が戻って来る〉


「はい、チャコちゃん。どーじょ」


「携帯ありがとう」


「いえいえ」


「チャコちゃん、それ食べたら帰るわよ」


ああ、最近神社の猫になってるよな。


【香の部屋】


あら?


無いわ。


どこにも無い。


「ポンちゃん知らない?」


「ニャ?」


「私の携帯」


「ニャーニャ%#☆」


「え?今喋った?」


「ニャ」


シロちゃんも喋るのよね。


親子だから、ポンちゃんも喋るのかしら?


「ニャーニャ%#☆ニャ?」


「携帯は?って言った?そうよ、私の携帯どこ?」


「はーい、香の携帯」


「え?お姉ちゃんが持ってたの?」


「打吹公園の桜の開花情報チェックした?」


「まだ」


「早くチェック、チェック」


「うん」


まだみたいね…


「桜が咲いたら鐘城先生に電話するのよ、携帯番号ゲットしといたから」


「えー?」


「フフーン、じゃあね」


〈携帯の連絡先を見る香〉


鐘城響…本当だ。


あ、メールも出来るわ。


どうしよう…?



【下町の階段】


〈携帯の通知音が鳴る〉


うん?


え?!


香からメール?!


何で?


〈驚きながらもメールを見る響〉


「まだ桜開花しません。間に合うかしら(>_<)」


これは…どうしよう…?


〈しばらく悩む〉


女の子からのメールは、なるべく早く返さないといけないんだよな。


今日は、4月1日か…


「横浜に行く迄に咲くと良いな(^◇^;)」


〈しばらく悩んで送信をタップする〉


【香の部屋】


「あ…返信してくれた」


後7日…


お願い、それまでに花を咲かせて。


〈それから毎日桜の開花情報をチェックする香。4月5日〉


「今日もまだ開花してない」


「今年は寒いからね」


「8日には行かなくちゃいけないのに…後2日しか無いのよ」


「諦めないの、後2日有るんじゃない」


【囲炉裏】


今日は、4月6日。


後1日…


「香、少しは食べなさいよ」


「食べたくないの」


「そんな事でどうするの。医者になるんでしょう?体力勝負なのよ」


晶子伯母ちゃんみたいに強くなれない。


【香の部屋】


〈4月7日の朝、桜の開花情報を見る香〉


開いてない…


「もう、会えない」


「香…」


〈涼子の胸で泣く香〉


うーん、何とかしてやりたいなあ。


何とかならないかなあ?



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