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野盗の洞窟

 朝方――周囲に広がる草原と遠くに見える山々はミューヴィルから離れた場所にあり、そこをミサナギを先頭に道らしくない道を歩き続けていた。

「ミューヴィルの近くに混蟲はいないのか?」

「ふつうは出てきませんね。オオカミとシカくらいです」

「野盗はよく出るのか?」

「どうでしょう、そういう噂は聞きますけど私は見たことないです」

 彼女から少し距離を空けているのは不信感からだ。もちろん、信じていないわけではないが、警戒していないわけでもない。

「あそこに人がいるな」

 岩場に隠れるように空いた暗い穴は野盗や混蟲クリーチャーが好みそうな洞窟。一人の人影からして見張りだろう。

「教えてもらった場所ですし、行きましょうか」

 地図マップを確かめた彼女は、それを腰の大きめのポーチにしまい、こちらに笑顔を見せた。

「それじゃ、話し合いが無理そうだったらお願いしますねっ」

「ああ、了解」

 野盗の見張りに話し合いは通用するのか。話し合いで解決できる方がいいが、そう上手くいくとも思えない。


 洞窟の壁に背中を預けていた見張りもこちらに気付き、腰にぶら下げていた棍棒ウッドクラブを構えた。見張りの格好はレザーで作られた軽装防具ライトアーマーであり、身体の一部しか防護されていない。

「止まれ! 近づくと痛い目にあわすぞ」

 ウッドクラブは適当に補強されているが、自身の持つ竹槍バンブースピアとさほど変わらないだろうが。

「待って、話しだけでも――ね?」

 ミサナギは微笑みながら話しかけると、見張りは少しは興味をもったようで話し合いに応じるようだ。

「あ? 何の話しだ?」

「この洞窟に入りたいんだけど」

「だったら仕事を一つ引き受けてくれよ? 女は別としてそっちの鎧野郎は使えそうだからなぁ」

 見張りはこっちに興味をもったらしい。思うにこういう場合は面倒事か、生死に関わることだろうが。

「……何かあるのか?」

「へへ、この洞窟にクソ蟲どもが住み着きやがって俺たちのアジトを荒らしてやがるんだ。そのクソ蟲を何とかしてほしいんだよ。どうだやるか?」

「どうしましょうか? ラガクさん」

 どうやらクリーチャーは野盗では手に負えないことのようだ。引き受けるには聞きたいことがいくつかある。

「そのクソ蟲はどんな奴だ?」

「クモみたいな奴だ。奴の鎌腕と牙に何人かやられてるぜ。それだけ防具で固めてりゃ大丈夫だろうよ」

 クモみたいな奴、それに鎌腕と牙があるクリーチャー。今までにも戦ったことがある奴だな。

「報酬は?」

「そうだな……やられた奴の持ち物はお前のものでいいぜ。だが、それ以外の箱に入った物は触るな、いいか?」

「いいだろう。引き受けてもいい」

「へへ……交渉成立だ。いいぜ、ついてこいよ」

 見張りに案内されて洞窟に立ち入れば、たいまつ(トーチ)とロウソクくらいで中は薄暗い。洞窟は入り口は狭かったが、奥へ進めば天井は高くなり、中も広くなっていく。

「おいおい、その二人は誰だ?」

 奥から見張りに話しかけたのは、見張りと同じようなレザーアーマーを着た見張りの仲間だろう。腰にぶら下げているアックスに手をかけ、いつでも襲いかかれるよう身構えている。

「待て待て、コイツらは使える。この前の使えない奴とは違う」

「またか。この前もそう言って連れて来た奴は帰って来なかったぞ」

「心配ないさ。この前の奴よりも使えるだろう。女は知らねぇけど?」

「ゲヘヘ……まあ、女は色々と使えるからなぁ」

 少し離れて歩いていても聞こえてくるゲスい喋り声。以前にも誰か連れてこられたようだが、クリーチャーにやられたのだろうか。

「この二人ともゲスい」

「……下衆いな」

 冷静に同意してしまったが、この見張り二人はゲスい。しかし、野盗はこれだけではないはず、もっと奥にいるはずだ。

「おい、鎧野郎と女。ついてこい」

 見張りを先導に自身と彼女はついて行き、その後ろをもう一人の見張りが続く。

「へへ、おっぱいもいいが、尻もいいなぁ……」

 自身は後ろを振り返ることなく、聞こえてくる声も気にせず歩いた。いや、気にせずというのは嘘。おっぱいとお尻は気になったし、彼女の顔色も気にしている。

「よし、鎧野郎。ここからはお前一人で行け。少し行ったら右の穴に進め、そのずっと奥にクソ蟲どもがいるはずだ。残らず駆除しろよ?」

「ちょっと、私は?」

「それで行くのか? クソ蟲に食われちまうぜ」

「そうそう、ここで俺たちと待っていようぜ。可愛がってやるからよぉ」

 見張りたちのいうように自身も彼女が付いてくることは危険だ。しかし、ここに待たせているのも安心できない。

「仕方ない……ミサ!?」

「ヤベェ! 逃げろぉ!!」

 上から砂埃に岩が崩れ落ちてくる。野盗の見張りは入り口に走り、自身とミサナギはそれとは反対の方に走った。

「大丈夫でしたか?」

「ああ、無事だ。そっちは?」

「私も無事です。ただ――」

 彼女は地面に落ちているたいまつを拾い、崩れ落ちた入り口の周囲を照らす。

「入り口は塞がってしまったみたい」

「掘るのは無理そうだな。先に進むしかないか」

 野盗たちのいうクソ蟲がいるならば出口に繋がる通り道があるはずだ。この洞窟を巣にしているなら出入口は一つではないはず、それは出入口が一つだけなら見張りは食われているか、八つ裂きにでもされている。

「出口はあるんでしょうか?」

「大丈夫だ。出口は見つかるさ」

 ツイているのは光りとなるたいまつもあるし、自身一人ではないことだろう。

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