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4人での任務

読んでくださり、ありがとうございます。

ちょっと不穏になってればいいかな……?という回です。

「おかえり。あれ、そちらは?」


帰投するなり、ミクマが出迎えた。

一番後ろを歩いていた桔梗を見て、興味津々に話しかけるミクマ。


「桔梗です。色々あって……私と契約しました」


簡潔に詩音が説明する。


「契約したんだ。どうやって?」


詩音はさきの出来事を思い出して真っ赤になる。


「ああ、きs……」


と言いかけた皐月の口を、紗蘭が慌てて塞ぐ。


「指先切って、血を繋いだとか。紗蘭ちゃんと皐月くんはそれで契約したでしょ?」


事実、紗蘭と皐月の手の甲にも、詩音と桔梗と似たような紋がある。ミクマの言う契約方法で2人は契りを交わしたのだ。


「俺が無理矢理キスしてやった」


べ、と舌を出しながら桔梗がドヤ顔で語る。


「ばっ……!バカ、お前!!」


詩音は顔を真っ赤にしたまま、思い切り睨みつける。だが当の本人はどこ吹く風だ。


「事実だろ」

「言い方があるだろうが!」

「なんだ?もっと情熱的に説明してやろうか?何度も何度も俺はコイツに……」

「やめろ!!」


珍しく声を荒げる詩音に、ミクマがくすくすと笑う。


「へえ、詩音ちゃんがそんな顔するんだ。いいもの見ちゃった。面白いなぁ」

「見ないでください!」


ぷい、とそっぽを向く詩音。


「いや〜、でも面白いの拾ってきたねぇ」


ミクマは桔梗をじろじろと観察する。


「なんだよ」

「精霊とは違うけど、霊体で干渉できるタイプかぁ。面白いなぁ」


当の桔梗は不服そうだ。だが、ミクマは見ぬふりをしている。


「で、なんで君、詩音ちゃんと契約したの?」


楽しそうなミクマの問いに、桔梗は暫く考え込む。

そして。


「この中で一番強そうだったから」

「は?」


あっけらかんとした答えが返ってきた。

思わぬ返答に、詩音は素っ頓狂な声をあげる。

ミクマは思わず苦笑いである。


「それだけ?」

「悪いか」

「悪くはないけど……」


ミクマはふむ、とあごに手を当てる。


「ま、シンプルイズベストだね。他にも理由はありそうだけど……」

「さあな。それより疲れた。俺の部屋ってあるのか?」


明らかにミクマの問いをはぐらかす桔梗。


(……まだ警戒は必要そうだな)


落ち着きを取り戻した詩音は、桔梗に冷たい視線を向ける。桔梗が気づく様子は無さそうだった。


「ま、よろしくね」


ミクマは笑みを崩さなかった。





少しして。

本殿でミクマは退魔師たちから任務の報告を聞く。


「へぇ、完全に魔と同化しちゃってた訳だ」

「封印はまず無理でした。喰った者のスキルを奪うスキルを持っていて……」


紗蘭は残念そうに声を落とす。


「私、また殆ど何もできませんでした」


詩音はそんな紗蘭の肩に手を置く。


「そうでもない」

「え?」


目を丸くする紗蘭。

詩音はミクマを見ながら、言葉を続ける。


「玉乃井は、ちゃんと戦局を見極めようとしていました。それに、とどめを刺したのも彼女です」


褒められて、思わず俯いて顔を赤くする紗蘭。

ミクマは温かな目を紗蘭に向ける。


「成長してるねぇ。詩音ちゃんの指導の賜物かな?」

「私は少し助言しただけです。本人の努力が最も大きいかと」


詩音の言葉に、ミクマはうんうんと頷く。


「実にいい。紗蘭ちゃん、これからもその調子だよ」

「……はい!」


ようやく少し自信が持てたのか、紗蘭は顔を上げた。

その表情は、どこか晴れやかだった。





翌朝。

鳥居の前には4人が集結していた。

昨晩、ミクマから次の任務について聞かされていたからである。





「最近、私の友人が治める世界の小さな農村で、人が消える怪奇現象が起きてるらしいんだよね」


昨夜の夕餉の最中、真剣な面持ちになったミクマがふいにそう零した。

4人の視線がミクマに集まる。


「人が、消える……?」


紗蘭が眉をひそめる。


「争った形跡はない。血もない。ある日突然、いなくなる。どんなに探しても見つからないんだって。まだ被害は小さいけど、世界中にその怪奇現象が広がったらどうしようって、友人が嘆いていたよ」


確かに、世界中で大規模な失踪事件、みたいなことが起きたら大問題だ。


「他の神の仕業じゃないのか?神隠しってよくいうし」


桔梗は興味なさそうに味噌汁を飲みながらそう言う。


「それが、部分的にはそうでもなさそうなんだよね」

「部分的には?どういうことです?」


皐月は箸を止める。


「魔の気配がするらしいんだよね。でも……」

「でも?」


勿体ぶるミクマ。

詩音は嫌な予感を感じていた。


「魔の気配、薄いらしいんだよ」

「薄い、ですか」

「うん。他の神社も調査に出てるみたいだけど、成果が無いって。そのうち、私たちの所にも……ん?」


ミクマがそう言いかけたところに、神社の家事・雑事を全て担っている竜の子の一人ーーおかっぱの人の姿をしてはいるが、頭に竜の角が生えているーーがやってくる。そして、ひそひそとミクマに耳打ちすると、そそくさと立ち去っていった。


「ベストタイミング。まさにその調査依頼がうちにも来たみたいだ」


うええ、と紗蘭が苦い顔をする。


「そんなことってあります?」

「今まさにあったね。明日からでいいから、頼んだよ。皆」


こうして、4人は再び任務に就くことになったのである。






鳥居を潜ると、そこは日本の戦国時代の農村を思わせる光景だった。

空気もどこか日本と似ている。田畑を揺らす湿った風、カエルの鳴き声、子どもの笑い声。


「はぇー。なんというか……平和そのもの?だね?」


皐月が意外と言わんばかりの声をあげる。

田畑では農民たちが汗を流し、家々からは炊煙が上がっている。どこにでもある、穏やかな村の風景だった。


「ね。ちょっと落ち着く」


紗蘭の顔はどこか穏やかだ。

だが、それとは対照的に桔梗の顔はむっとしている。


「そう見えるだけだろ」


その言葉に、紗蘭も不機嫌そうになる。


「何よ、平和を享受したっていいでしょ?」

「失踪事件が起きてる村で平和ボケ〜って方がおかしいだろ。明日は我が身って怯えるのが普通の筈なのにさ」


今回も言い合いの絶えない紗蘭と桔梗。こっちの方が契約しているコンビのように息が合っている風に見えるのは、きっと詩音の気の所為だと思う。


「……」


詩音は一人、魔の気配を追えないか意識を集中させていた。紗蘭に任せたほうが良いのだろうが、あの調子だ。紗蘭より時間はかかるが、自分がやった方が早いだろう。

確かに、薄ぼんやり魔の気配がする。だが、これまでの相手に比べると、あまりにも薄かった。

それこそ、ティッシュペーパー1枚を薙刀で薙げ、と言われるレベルの薄さ。


(いるにはいるんだろうが……これは私に正確な位置探索は無理だな)


やはり紗蘭に頼もうとした時だった。


「おや、旅人さんたちかね?」


不意に、背後から声をかけられる。

そこには、村人と思わしき農具を持った男性と、野菜を籠いっぱいに持った子供が2人いた。


「おねーさんたち、だれー?」

「だれー?」

「見ない顔だね。この村に何か用かい?」


人の良さそうな顔。だが、どこか疲れが滲んでいる。

詩音が一歩前に出る。


「旅の者です。最近の失踪事件について調査をしに来ました」


農夫の表情が一瞬、曇った。


「……ああ、そのことか」


少しだけ視線を落とす。


「お父つぁん?」

「どうしたのー?」


子どもたちが父親の顔をのぞき込む。


「お前たち、先に帰ってなさい」

「はーい」

「お父つぁんもはやくねー」


子どもたちは、いそいそと籠を持って立ち去った。

彼らの影が消えたのを見てから、農夫はぽつりぽつりと語り始める。


「もうかれこれ、5人失踪しとります」

「5人も!?」


話を聞いた紗蘭が目を丸くする。


「何か、気づいたことは?」


桔梗が尋ねると、農夫は小刻みに震え出す。


「みーんな夜にいなくなっちまった。太郎兵衛さんも、お小夜ちゃんも、お雪さんも、助六爺さんも、権蔵さんも……」

「争った形跡は?」

「無え。翌朝、家族が気づくんだ」


確かに、話を聞く限り痕跡無く消えているようだ。

たまにある、女性だけとか男性だけというのも、今挙がった名前を聞くに、法則がある訳でも無さそうだ。老若男女、平等に対象らしい。


「ありがとうございました。参考になります」

「ああ……お前さん等も気をつけろ」


詩音が頭を下げると、村人は力なく微笑み、その場を去っていった。


「あの人、けっこうメンタルやられてるね……」


紗蘭は村人の背中を見ながら、心配そうに呟く。


「小さな村っぽいし、みんな知り合いってレベルでしょ。だから心配にもなりそうだよねぇ」


皐月も頭を掻きながら、辺りを見回した。


「ホントはもうちょっと手がかりが欲しいけど……多分、これ以上出てこなさそうだよねぇ」

「一筋縄ではいかなさそうな相手だしな」


桔梗も周囲を観察する。


「意味あるか分からねぇけど、張り込みするか?」

「きっともう皆やってるでしょうね。それで無意味だったから、私たちにお鉢が回ってきたんでしょ?」

「……可愛げのない奴」

「なんですって!?」


あわや桔梗と紗蘭の取っ組み合いになりそうなところを、詩音と皐月が制する。


「まあまあ二人とも。こんな所で喧嘩したら村人の注目を集めちゃって調査どころじゃないよ」

「皐月の言う通りだ。節度を持て」


詩音の叱責に、二人は拗ねながら「ごめんなさい……」と返事をする。


「しかし、本当に困ったねぇ。どうする?」


皐月の問いに、詩音は少し考え込んだ。

そもそも、何故これだけ捜査に引っかからないのか?

何か……そう、何かを見落としている気がする。


「もう少し、村を観察してみるか」


3人は詩音の提案に頷いた。





「はぁ〜。ほんっとに手がかりがない」


皐月が疲労のため息を零す。

時刻は夕暮れ時。カラスが鳴き、成長途中の稲が風で靡いている。子どもたちは変わらず遊んでいるが、そろそろ帰るだろう。


「普通の農村すぎるってぇ。こんなことある?」

「今まさにこんなことが起きてるだろ」


皐月の言葉に突っかかる桔梗。

進展の無さに苛立っているようだ。

もうすぐ夜、人が消えてもおかしくない時間だ。

詩音にも焦りが生じ始める。

何か、何かないか……?


ふと、紗蘭が子どもたちを眺めているのに気づいた。


「玉乃井?」


詩音が尋ねるが、紗蘭は反応しない。じっくり子どもたちの様子を見て、眉をひそめている。


「先輩。あの子どもたち、村に着いた時からずっとあそこにいません?」


その言葉に、3人が顔を見合わせた。そして、子どもたちへと視線を移す。


田んぼの畦道。細い竹の棒を持って振り回す子ども。

追いかけっこをしているような子どもたち。

だが、暫く観察していると、3人も違和感の正体に気づく。


走っている場所や、棒を振り回す軌道が、ずっと同じなのだ。

まるでRPGなどで動きをプログラムされているかのように、同じ行動しか起こしていない。


「よく気づいたな、玉乃井」


詩音が驚きの声をあげる。


「いやあ、えへへ……」


照れる紗蘭。


「そうやって気づいちゃうと気味悪いねぇ。まるで人形みたいだ」


皐月の発言に、桔梗は何か閃いたようだった。


「……そうか。機械的に動いてない奴を探せばいいのか」


言われてみればその通りだった。


「なら、その線で張り込みしてみる?」


紗蘭の提案に、3人は頷いた。

決戦は近い。





静まりかえるどころか蛙の鳴き声が煩くなるのが、初夏の風物詩とも言えよう。

うだる暑さにはまだ遠い、そよそよと凪ぐ風が心地よい夜、4人はそれぞれ解散して、屋根の上で村人を見張っていた。


4人はそれぞれ互いに会話できるよう、ミクマから魔力で動く通信機を貰っている。ワイヤレスイヤホンのような形をしていて、耳にはめさえすれば通信できる、優れものだ。


夜7時頃。

まだ家の明かりは灯っていて、家族団らんの声が聞こえる。

これもプログラムされた動きなのだろうか。

そう思うと、詩音は少し胸が締め付けられた。


(こんなので家族だなんて、な……)


それは、本当の家族の愛を知っているからこそ想うことであった。





辺りが寝静まった頃、動きがあった。


『桔梗だ。昼間の農夫宅からガキ2人が出てきた』


直ぐに詩音が対応する。


「どっちに行った?」

『林の方だ。村外れの。追跡する』

「了解。すぐに合流する」


そうして、すぐに屋根を蹴って指定された場所に向かった。






茂みに隠れ、2人を尾行する詩音たち。


月明かりの下、 昼間と同じ無邪気な顔のまま、二人の子どもは歩いていた。

その足取りは、あまりにも揃いすぎている。兵隊の行進を思わせる揃い様だ。

その後ろには、別の家の女だろうか。キョンシーのように両手を前に突き上げながら、子どもたちの後ろをついて行く者がいた。


やがて、3人の村人は開けた場所で立ち止まる。

子どもたちがぎぎぎ、と重たいうごきで首を動かすと、女を見据える。

すると、2人が手を繋ぎ、天高く繋いだ手を掲げた。

たちまち黒い影が2人の影から現れ、女を包み込む。

そのまま、抵抗するでもない女は、たちまち姿をけしてしまったのであった。


「なるほど、そういうことか……」


失踪の方法と真犯人は分かった。意外だったが、あの子どもたちで間違いない。

では、どうやって他の神社の者たちを欺いたのだ?


そう思った矢先だった。


「記憶、消ス。敵、発見」

「敵、発見。記憶、消ス」

「!!」


見つかった。

4人は慌てて茂みから出て、各々武器を構える。


「今、記憶を消すとか言ってなかった?」


紗蘭の問いに、桔梗が「そうか……!」と呟いた。


「こいつら、記憶操作で調査に来た奴らの記憶を書き換えたんだ!俺たちまで引っかかったらまずい!」


4人の間に緊張が走る。


「デアエ、デアエ!」

「デアエーーー!!」


子どもたちの超音波にも似た叫び声に、4人は思わず耳を塞いだ。


「くそっ、なんつう声だよ!?」


桔梗は舌打ちをする。


すると、林の入り口の方から、ざっ、ざっ、と人の足音がした。

1人2人ではない。もっと大勢の足音。

村人たちだった。

彼らは鍬や鋤、鉈などを持って4人を今にも襲わんとしている。表情は無く、虚ろな目のまま、ぞろぞろと歩いてきた。その中には、昼間話を聞いた農夫や、プログラムのように動いていた子どもたちもいる。


「なんて悪趣味な……」


やりづらい、と詩音は顔をしかめた。


「被害は最小限に食い止めろ!狙うのはあの子ども2人だけでいい!」

「了解!!」


詩音の号令で、皆一斉に駆け出した。




とにかく、気絶させるに限る。

そう思った桔梗は、峰打ちに徹する。

農具を弾き、背後をとり、首後ろへチョップ、または刀で峰打ち。

それで倒れる者もいれば、全く動じない者もいる。洗脳の深度の問題だろうか。


詩音は薙刀を使わず、格闘技のみで対応していた。時には投げ飛ばし、時には殴り、蹴り。

それでも、なかなか意識を失わない村人たちに、何度か取り押さえられそうになる。そうなると、下へ潜り込み、足元を狙って回し蹴りをする。それが最も効果的な戦い方になっていた。


銃を撃てない皐月は、かなり苦戦していた。

炎をちらつかせても、村人が後ずさる様子はない。ならばと、武器だけ高温の炎で溶かすよう徹した。手に火傷を負わせるのは致し方ないと割り切るしかなかった。


紗蘭も紗蘭で、光による目眩ましや拘束術を試してはいるものの、なかなか効果を発揮できない。討ち漏らしは全て桔梗か詩音任せになっており、焦りを感じていた。


なかなか村人たちに阻まれ、子どもたちの方にまで手がまわらない4人。

決定打に欠けたまま、消耗していく。


「はぁっ、はぁ……」


一番体力の無い紗蘭は、かなり息が上がっていた。

するとその時、一人の村人が鉈を振りかざして紗蘭に襲いかかってきた。


「いやっ……!」


とっさに幣を構え、光の盾を展開する。

鉈は盾に弾かれ、村人の手を離れ、くるくると宙を舞った。

それが運悪く、別のの村人の頭に突き刺さってしまう。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!痛いぃぃぃぃぃ!!」


その痛みで正気を取り戻したのか、頭に鉈の刺さった村人はのた打ち回った。そして少しすると、動かなくなってしまった。


「……あ」


守らなきゃだったのに。


わたし。


自分を守るために、人を殺してしまった。


「あ……あ……」

「玉乃井!」


紗蘭の様子のおかしさに気づいた詩音が、慌てて駆け寄る。


空間が歪む。光が溢れる。

負の感情に、魔力が引きずられていく。


止まらない。


「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」


次の瞬間。

魔力で、周りのものが全て吹っ飛んだ。

最も近くにいた詩音も、容赦なく。


「詩音!」


桔梗は受け止めようとするが、想定より大きくふっ飛ばされた詩音は地面に叩きつけられる。

肋を何本かやられたやしい。呼吸音がヒューヒュー鳴っている。

詩音がふらふらと立ち上がる。すると、凄惨な光景が広がっていた。


敵味方問わず降り注ぐ光の槍。

吹っ飛ぶ腕、足、首。

避けようとする桔梗や皐月にも、切傷を負わせている。

最早敵味方関係なく蹂躙する紗蘭の姿が、そこにはあった。


「いやっ!いやぁっ!!」


頭をぶんぶん振りながら、無造作に光の槍を撃ち込む紗蘭。それがたまたまあの子ども達にも当たる。

繋いでいた手ごと切離して。

呆気に取られていた子どもたちの首も飛んだ。


「玉乃井……!もういい、止まれ……!」


恐らく、肺に骨が刺さっている。

痛みを堪えながら詩音は叫ぶが、紗蘭は止まる気配を見せるどころか、攻撃を激しくさせていく。


槍が詩音の頬を掠める。

詩音には薙刀を取り出し、次の攻撃に備えるしか、できることが無かった。


(くそ、ここで暴走だなんて……)


紗蘭の魔力による暴走の件は、ミクマから聞いてはいた。止め方を聞いたが、ミクマは「その時になればわかるよ」とだけ言っていた。

その後、何度止め方を尋ねても、ミクマにははぐらかされっぱなしだった。

こんなことなら、意地でも問いただすべきだった……!


桔梗が隣にやってきて、刀を構える。


「討つか?」

「バカ言え」


そんなことできるか、と詩音はつけ足す。


「俺は本気なんだがな」

「お前……」


そうだ、こいつはそういう奴だった。

自分以上に切り捨てが早い奴。

だが、詩音はそんな桔梗を手で制す。


「私が止める」

「そんなボロボロの体でか?」

「やるしかないだろう、アイツは……」


と、言いかけた時だった。


「はい、ストップ〜」


突如、皐月が割って入る。


「何」


詩音が眉をひそめながら尋ねる。皐月は人さし指を詩音に向けると、ウインクした。


「詩音ちゃんは何でも自分でやろうとしすぎだよねぇ。ここはボクの仕事だよ」


体中に細かい傷を作りながら笑うこの精霊は、桔梗に「彼女のこと、頼むね」と言うと、紗蘭の方に向かって駆け出した。


「馬鹿!死ぬぞ……!」


だが、皐月は足を止めない。


「……放っといたら、紗蘭ちゃんの心が死んじゃうもんね」


ぼそりと呟き、炎を纏う。

だがそれは攻撃のためじゃない。防御でもない。

焼きながら進むためのものだった。


光の槍が肩を貫く。


腹を抉る。


脚を裂く。


「っ……!!」


それでも、止まらない。一歩一歩、確実に歩を進めていく。


「いや……いやぁ………」


そして皐月は、まるで泣きじゃくる子どものようにうずくまる紗蘭を、そっと抱きしめた。


「もう大丈夫だからね」


すると、温かい光が皐月を中心に広がる。

光の槍が少しずつ収まっていく。


だが、槍の1本が皐月の胸を貫通した。


「ぐっ……ぅ……」


それでも痛みに耐え、皐月は抱きしめる力を緩めない。


「ほん、と……?」


弱々しい紗蘭の声がした。

皐月は朦朧とした意識をなんとか保ちながら、微笑む。


「ほんと、ほんと。ボク、嘘つかないよ」


優しい炎で、周りの鋭い光を溶かす。

やがて2つの魔力は一体化し、するすると皐月の中に入っていった。





辺りには静寂が戻る。遠くでは、変わらず蛙の合唱が聞こえていた。


皐月の体が崩れ落ちる。


「皐月!」


桔梗に支えられながら、詩音が駆け寄る。

一命はとりとめたようだが、正直生きているのが奇跡とも言える状態だった。


「はぁ〜……つかれ、たぁ」

「喋るな!血が……!」


肩で息をする皐月。そんな彼の応急処置をする桔梗。


「わた、し…………」


紗蘭は震えていた。

暴走していた時のことは、全て覚えていた。

私が、皆殺した。

止められなかった。


「ごめ、ごめんなさ……」


ぼろぼろと溢れる涙を抑えきれず、嗚咽を漏らした。

誰も責めなかった。責めようが無かった。




ふと。

詩音の背筋に寒気が走った。


「……?」


辺りを見回すが、何もいない。


「詩音?」


桔梗が尋ねるが、詩音は反応しない。


(気の所為か?)


そう思った刹那。


『実に興味深い』


それは、深淵から湧き出るような声。

詩音の耳に纏わりつくような音に、顔をしかめる。


「本当にどうしたんだ?変だぞお前」


どうやら、今の声は桔梗たちには聞こえて居ないようだ。

視界の端に、黒い影が現れる。だが、すぐに消えた。

だが。


『お前の強さ。欲しいな』


すぐ後ろに黒い影が現れたかと思うと、耳元でねっとりとした声音を発する。


『お前は新世界の秩序となるのだ』


思わず振り払う。


「おい、本当に大丈夫か?」


桔梗が心配そうにするが、詩音には届いていない。


『また来る』


そう言った途端、影は消えた。


(何だ?今の……)


鼓動がうるさい。怪我のせいもあるだろうが、激しく打つ脈が耳元でやかましかった。


(わから、なーー)


そのまま詩音は、失血の為なのか、先ほどの声のせいなのか。

意識を手放してしまった。

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