37.怪人クラヴィス
僕は、『破壊と創造』を、身元がバレないようにして思う存分に振るえはしないかと考えた。
そして、一計を案じる。
仮面をかぶって正体を隠して活動すればいい。
スキルを使って制作した白黒の仮面。
髪も黒一色に染める。
名前は──そうだね。ピアノの鍵盤の語源となったラテン語の『クラヴィス』を名乗ろう。
「王都の腐敗を正す為に、人知れず暗躍する存在──中々に美しいじゃないか」
そうして僕は、クラヴィスとして闇を纏い、王都の汚れを払うために動き始めた。
§
「観念しろ」
残虐者モードに移行した俺が、部屋の奥に追い詰めた悪党相手に低い声で言葉を突きつけた。
その周りの床には、手下の男達が、苦悶しながら転がっている。
「き、貴様は何者なんだ!」
贅を尽くしたきらびやかな衣服を身にまとった、恰幅のいい男が問う。
この目に痛い金ピカな部屋からも分かるように、趣味の悪い男だ。
そのゲスな中身同様に、美しくない。
「クラヴィス。白と黒を合わせをもつ者だ」
「クラヴィス⋯⋯! お前が⋯⋯!」
俺は、じりじりとにじり寄ると、恐怖で震えて動けない男の首を片手で掴み、
「『かく証明された』」
唱えた。
贅肉でたるんでいた男の顔が見る間にしわがれていく。
「う⋯⋯あぁ⋯⋯」
後には、老衰した男が残された。
僕は、そうして毎日のように夜になるとこっそり『ニドゥス・アウィス』を抜け出して、王都の悪を刈り取っていった。
汚職に塗れた貴族。
スラムに蔓延る悪漢達。
盗賊ギルドや犯罪組織。
それらに正義の鉄槌を与えている内に、やがて新聞の一面を飾るなどして、王都で噂になった。
『怪人クラヴィス』として。
そうして、ある日の夜、仮面をつけて世直しに出ようとしたところ──。
「デュアル、こんな真夜中にそんな仮面なんかつけてどこにいくつもり?」
たまたま起きてきたリノア姉さんに見つかってしまった。
「これは、その⋯⋯」
問いただされ、しかたなく真実を打ち明けることに。
「そんな面白そうなこと、私達にだまってやるなんて酷いじゃない。私もその仲間に入れなさい」
リノア姉さんの押しの強さには勝てず、他レティシアやニベアもその意見に同調して、一緒に悪を刈り取るために活動することに。
そして、リノア姉さんの発案で、組織名を決めることになり、ここに秘密結社『モノクローム』が爆誕した。
ラテン語で白と黒を意味する言葉だ。
僕以外のメンバー三人は、コードネームとして、ラテン語の数字で呼び合うことになった。
リノア姉さんは、1のウーヌス。
レティシアは、2のドゥオ。
ニベアは3のトレース。
そして今日も、夜の闇の中、王都の汚れが、白と黒によって刈り取られていく。
§
今日は、セリアに招待されて、クラウベルク家のタウンハウスを訪れている。
メンバーはいつもの、リノア姉さん、レティシア、ニベアだ。
それに加えて、第二王女にイーリスとルーシィもいる。セリアが誘ったとのこと。
「なんですか、この至上の食べ物は!? こんなの王宮の晩餐会でも出てきませんよっ!」
僕の新作料理を食べたイーリスが感嘆の声を上げた。
僕が食後のデザートとして作ったのは、苺のショートケーキ。
それまでの料理でも驚いていたけれど、それは別格だった。
彼女は頬にホイップクリームをつけながら、パクパクとケーキを口に運んでいる。
「イーリス姉さん、デュアルさんは凄いでしょ?」
ティアナ嬢が自分のことのように得意げに言う。
「はい! 作家として素晴らしい作品名を次々と生み出しながら、料理も得意だなんて、ますます尊敬しちゃいますっ!」
感激屋なイーリスが、大げさに称賛した。
「デュアル君は天才だからね。もう何を出されても驚かないよ」
ルーシィがそう言って続く。
「これでさらにA級冒険者というじゃない。早く模擬戦で戦ってみたいわ」
好戦的なセリア嬢。
「食後は、デュアルが作った新作ゲームで遊びましょうよ。人生ゲームっていうの」
リノア姉さんが提案した。
「あれ、面白い。私、デュアルと結婚したい」
ニベアが願う。もちろん結婚とは、ゲーム内でのことだ。
「待ちなさい、ニベア。デュアル様と結婚するのは私です」
レティシアがそう言って張り合う。
「それって、どんなゲームなんですか?」
ティアナ嬢が身を乗り出すようにして尋ねた。
「人の一生を、サイコロを転がした目だけ進みながら、簡略化して辿っていくのよ。赤ちゃんから始めて、大人になって仕事について──ニベア達が言うように、プレイヤー同士で結婚もできるわ。そして、ゴールした後に、一番資産が多かったプレイヤーの勝ちね」
リノア姉さんが説明する。
「面白そうですね。私もやってみたいです」
とイーリス。
「よーし、大金持ちになってやる!」
ティアナ嬢が意気込みを示す。
それから、皆で輪になって人生ゲームで遊び、楽しい時間をすごした。
一位は、王女にまで上り詰めたセリア嬢で、悔しがるティアナ嬢とイーリスに対してドヤ顔を見せていたよ。




