第一話 過去と旅立ち
翌日。私が荷造りをしていると、庭の方から聞き慣れた声がした。
「サーレちゃーん。」
「ちょっと待ってー。」
私は自室の窓から顔を出し、返事をした。庭にいたのは、美しい金髪の少女である。
彼女の名前は、セレナ。天真爛漫な性格で、誰とでも親しく話ができる、私の唯一の親友である。しかもこう見えてエストピア魔王の娘でもある。
そんな彼女と出会ったのは、今から三年前のことだ。
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当時三歳の私は自室に引きこもっていた。というのも、生まれ持ったこの髪色のせいだ。
この世界では、赤髪は呪いの象徴とされ、忌避される。そんな私は、物心ついた時から村人に嫌われ、幾度となく酷い言葉を投げかけられてきた。エンジョイしていた私の心に水を差された気分だった。
両親は私を慮り、村からエストピア王国の外れまで引っ越した。だが、裕福ではないウチの引っ越し先は、ボロい小屋しか見つからなかった。
それでも両親は、少しでも私を元気付けようと魔法を教えてくれた。これは、両親からの必死の励ましだったことは、三歳の私でも理解できた。しかし当時の私は、毎日のように、村人から投げかけられた酷い言葉が頭の中を駆け巡り、どうしても元気を出すことはできなかった。
ある日、ベッドにうずくまっていた私の耳に、聞き覚えのない声が響いた。
「サーレちゃん。あーそーぼ」
誰だろう。私には友達もいないし、ましてやこんな『呪われた子』に会いに来るような物好きな人はいない。
私は幻聴が聞こえたのだろうと無視していると、
「サーレちゃん。あーそーぼ」
また聞こえた。しつこい幻聴だ。私は耳を塞いで聞こえないようにした。しかし、
「サーレちゃん。いる?」
耳を塞いでいたはずなのに、その幻聴は私の手をすり抜けて響いてきた。
「うるさい!」
私は咄嗟に叫んだ。
しばらくすると、ドタドタと足音が聞こえ、バタンと扉が開く音がした。
「なんだー、いるじゃない」
顔を上げるとそこにいたのは、金髪の少女である。年は私と変わらないように見えるその少女は、優雅な服装にスカートを穿いている。しかも、服の所々にヒラヒラが付いているのだ。いかにも貴族の娘という感じだった。
「行くよ、サーレちゃん!」
少女はそう言うと、私の腕を引っ張り、庭へ連れ出した。
「何するの?あなた誰?何で勝手に家に入ってくるのよ?」
「そんなにいっぺんに聞かないでよ!」
質問攻めにする私を制止し、少女は答える。
「あたしはセレナ。エストピア魔王の娘だよ」
私は耳を疑った。魔王? の娘?
そんな人が何で私を知っているのか。何で私を外に連れ出したのか。
疑問が次々と湧いてくる。
「あー、サーレちゃん。何で私を知ってるのかって思ってるでしょ?」
私の思考を見透かしたかのようにセレナは言う。
「あたしは魔王の娘だよ? この国のことなら何でも知ってるよ」
「『呪いの子』のことも?」
睨みながら問う私に、セレナはにこやかな顔で答えた。
「もちろん!」
その答えを聞いて、怒りが湧いてきた。
「なら、何でここに来たの? 私をバカにしに来たの?」
「そうじゃないよ!」
セレナは首を横に振りながら叫んだ。
「サーレちゃんと友達になりに来たの」
私と友達に?
それこそ私をバカにしている。
「嘘を言わないで! 誰がこんな赤髪と友達になるっていうのよ!」
怒り任せに叫ぶ私を制止して、セレナが言う。
「あたしがサーレちゃんと友達になるよ」
そう言うと、セレナは杖を召喚した。
「【髪色変化】」
詠唱と共に、セレナの髪色が赤く変化した。
「何してるのよ、あなた!?」
私は度肝を抜かれた。
「見てー、サーレちゃんとお揃いだね!」
「やっぱりあなた、私をバカにしてる!!」
怒り心頭の私を見て、セレナは悲しい顔をした。
「そうじゃないよ」
セレナは私に抱き着く。
「ごめんね、サーレちゃん。怒らせてしまったんなら謝るよ。でもね、あたしはサーレちゃんと友達になりたいの。あたしもずっと友達がいなかったから、こんな方法しか思い付かなかったんだ」
セレナの涙が私の背中を伝う。その涙は、怒りを鎮めていった。
「本当に私と友達になりたいの?」
「うん!」
間髪入れずに答えるセレナの言葉に、私も自然と涙が溢れてきた。
「分かったよ、セレナちゃん。いや、セレナ様」
「セレナと呼んで、サーレちゃん」
私とセレナは、お互いに強く抱きしめ合った。
「ありがとう、セレナ。これからよろしくね」
「うん、よろしくね」
「でも、髪色は元に戻してね。セレナまで嫌われるのは私も嫌だから」
「分かったよ」
こうして、私とセレナは、友達となったのだ。
それから週三日の頻度で、セレナが訪ねてくるようになり、一緒に魔法の訓練や会話を楽しんだ。
これまで友達のいなかった私としては、セレナとの時間はとても楽しいものだった。
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両親と別れを告げ、私達は学園のある王都へと歩き出した。
その道中、魔物が現れたりしたが、二人で倒した。現れた魔物が脅威度一のスライムだったから良かったが、脅威度が二ならば危なかった。
脅威度というのは、世界ギルド協会が定めた魔物のレベルのことである。脅威度が一から五までなら、一般人にも討伐可能なのだが、脅威度が六以上ともなると、冒険者に討伐を依頼するのが通常だ。
「そういえばサーレちゃん、将来の夢は何?」
セレナは唐突に尋ねる。
「そうね。世界最高の料理人マリア様みたいになることかな」
「あー、あたしも聞いたことあるよ。マリア様の料理は絶品で、口がトロけるようだって噂だよ」
マリア様は、料理人ならば誰でも目指したくなる存在だ。
「セレナは何になるの?」
「あたしはやっぱり魔王かな。お父様みたいな魔王になるのが夢なの」
まぁ、それも必然か。しかし、セレナならば良い魔王になるような気がする。
「そろそろ王都だよ」
セレナの言葉に、私はフードを被る。
これから、長い学園生活が始まる。




