表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

第十四話 真実

 翌日、闘技場の熱気は凄まじかった。卒業試験の比ではない。こんなところで闘わなければならないことにプレッシャーを感じる。


 対するマルシェさんは黒いフードを目深に被り、堂々としていた。顔は見えないが、物凄いオーラを感じる。只者ではないのかもしれない。


「それでは最終試合始めーーー!」


 実況の合図と共に私は包丁を取り出す。たが次の瞬間、私は驚いた。


「な……なぜあなたが?」


 マルシェさんが取り出したのは、ママの包丁だった。


「くくっ、驚きましたか? あなたの()()()母親から返して貰った包丁です」


 何を言ってるんだろう。返して貰った?


「わたしの正体、みせてあげましょう」


 そう言うと、マルシェさんはフードを脱いで顔を晒した。見た目は容姿端麗な美女という感じで、髪は真っ白だった。


「わたしの本当の名はマリア。あなたを殺す者です」


 マリア……様? 私を殺す?


「混乱していますね。いいでしょう、全てお話します。五百年前、わたしは不老不死の研究に携わっていました。しかし、その途中で赤髪の悪魔を召喚してしまった。召喚された悪魔はエストピア王国を蹂躙しました。そこに現れたのが吸血鬼(ヴァンパイア)の勇者、あなたの本当の母親です」


 わたしの母親がヴァンパイアの勇者だった? 衝撃の事実を突きつけられ、頭が真っ白になった。


「その経緯までは知りませんが、勇者と悪魔が恋に落ちた、その間に生まれたのがあなたです」


 そんな。私は……。


「これでよろしいですか? では攻撃させて頂きます」


 マリアが斬撃を放つ。しかし、私は動けなかった。マリアの話が衝撃すぎて何も考えることができなかったのだ。


 ドーンという衝撃音と共に、斬撃が私を直撃した。だが、私は無事だった。


「サーレちゃん、しっかりして!」


 振り向くと、セレナとエミリー、エルフ姉妹が私にバリアを張っていた。


「あいつは何かおかしいのです」

「……今の話、変」


 変?


「……サーレちゃんが五百年前の人間なら、年齢が合わない」

「そうだよ。それに何でサーレちゃんの命を狙うの?」


 その通りだ。まさか嘘なのか?


「くくくっ。そこに気づきましたか。優秀な仲間をお持ちですね。わたしは魔王ティーバの延命魔法で生きているのですが、これが完全な不老不死とはいきませんでね。掛けられるのは生涯に一度きりのうえに、魔法の効果も切れかかっています。そこであなたの魔力が必要なのです」


 私の魔力?


「研究の結果、ヴァンパイア勇者と悪魔のハーフであるあなたの魔力は、不老不死魔法に欠かせないことが分かりました。そこであなたの命を狙おうとしたのですが、勇者が先手を打っていました。あなたを封印したのです。これであなたに手を出せなくなりました」


 私が封印されていた? ならばなぜ私は今ここにいるんだろう。


「封印の期限は五百年です。ですからわたしもそれまで待つことにしました。そしてやっと今、あなたを殺すことができる。それにしても、あなたのママはバカですね。待つ間、気まぐれに弟子を取ったらわたしの包丁を持ち逃げするとは。ただ、エルシィがあなたを拾ったのは僥倖でした。あなたを殺せる上に包丁を取り戻せますからね。残念ながら、あなたを殺すことは叶いませんでしたが、包丁は取り戻せました」


 全ての真実を明かされた私は、呆然としていた。


「サーレちゃん!」


 セレナの呼びかけに、ハッとする。

 マリアは目指すべき存在じゃない。倒すべき存在だ。


「では、あなたを殺します、全力で」


 そう言うと、マリアは包丁を逆手に持ち替える。料理人にとって逆手は禁忌だ。マリアはもはや料理人ではない。不老不死に取り憑かれ、殺し屋と化している。


 マリアが構える。その構えを見て、私は叫んだ。


「皆逃げてーーー!」

「逆手料理剣技【究極全能(バイキング)みじん切り】」


 すると、マリアから複数の細かな斬撃が飛んでくる。このままだとセレナ達や観客が危ない。


「料理剣技【角切りネット】」


 私はネット状の斬撃を飛ばす。これで防いだ、と思ったが無理だった。セレナ達は守ったが闘技場の壁が砕け、客席が崩れ落ちる。

 観客は悲鳴を上げながら逃げ惑う。セレナ達も後ろに下がった。ここにいても、私の邪魔になると思ったんだろう。


「防ぎましたか」


 防げていない。私は傷だらけだし、包丁は……砕け散った。

 私は赤い包丁を取り出す。


「ほぅ、不死鳥包丁ですか。親子は継承しますね」


 まさか、母親の包丁? 勇者の。


「逆手料理剣技【究極全能(バイキング)半切り】」

「料理剣技【不死鳥切り(フェニックス・カット)】」


 私の斬撃が不死鳥を型取り、マリアの半切りと衝突する。

 爆音が鳴り響くが、不死鳥はやがて消滅する。


「やりますね。これで魔力を奪ってあげますよ。【魔力を喰らう闇(マジック・イーター)】」


 闇魔法? 何でこいつが?

 マリアから闇の蛇が出現し、私に襲いかかる。噛まれる。そう思ったとき。どこからか矢が飛んできて蛇を貫いた。


 客席の方を見ると、キュナードさんがいた。キュナードさんには、羽が生え尻尾があった。その姿はまさしく魔王だった。


「隠しててごめんなさいね。私は魔王キューピット。この大会の主催者よ」


 そんな馬鹿な。キュナードさんが魔王だったなんて。


「もう大会どころではなくなってしまったわね。あなたも、魔王の姿になったら? 魔王エストピア」


 やはりバレてたか。私は魔王の姿になる。


「マリア。私の国で好き勝手させないわよ」

「弱い魔王ごときが。わたしを止められるものか」

「なら受けてみれば? 万人に愛を。【愛の矢(ラブアロー)】」


 魔王キューピットは、ハート型の矢を召喚すると、マリアに向けて放つ。放たれた矢はマリアを直撃するが、無傷だった。


「そんな……。私の矢が効かないなんて」

「邪魔だ」


 マリアが包丁を軽く振ると、魔王キューピットの羽が切断され、落下する。


「なんてことを」


 私は怒った。使うしかない、闇魔法を。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ