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第十一話 事件解決

 私は牢屋にブチ込まれた。牢屋は木製なのでその気になれば出ることはできるのだが、そんなことをすれば疑いの目は一層強くなるのは明白だ。


「騎士様が来るまでここにいてもらいます」

「待ってください」


 退出しようとする村長を呼び止める。


「私が真犯人を見つけます。それでどうでしょう」

「真犯人を?」

「はい」


 私は必死に頼み込む。


「良いでしょう。騎士様がいらっしゃるまでの三時間だけ釈放しましょう。但し、見張りを付けさせていただきます」


 なんとか釈放してもらえた。だが、期限は三時間。それまでに真犯人を見つけないと騎士に連行されてしまう。


 私は早速、事件現場の小屋を調べることにした。見張りのドドルトも着いてくる。


 協力して逃げられる恐れもあるため、他の四人との接近は禁じられた。だから四人は遠巻きに私を見守っている。若干一名、面白がっている者もいるが。


 死体はすでに移動させられているらしく、小屋には誰もいなかった。ただ、小屋の中は事件当時のままだ。

 小屋を調べると、カタクチの実が落ちていた。カタクチの実は変な割れ方をして、中から粘液が漏れ出している。よほど強い衝撃を与えたのだろうか。

 さらに、お金が入っていたと思われる巾着もあったが空だった。盗賊が持ち去ったのか。


 小屋の捜索はこのあたりにして、死体を調べることにした。死体は村の広場に出されていて布を掛けてあった。

 布をめくり、死体を観察する。途中気分が悪くなったが、調べないわけにはいかないので我慢する。

 死体は包丁で刺されていたが、私の包丁とは明らかに形が違った。もし科学捜査があったら、すぐに冤罪が晴れるのに。


 刑事ドラマなら、凶器が見つかることでグッと真相に近づくのだが、村中を探しても見つからなかった。犯人が持ち去ったのだろう。


 さて、調べるところは調べた。しかし、真相には近づきそうにない。何か見落としてないだろうか。


 そういえばおかしな物があった。カタクチの実だ。あの実の殻は硬いから落としただけで割れるとは思えない。私は再び小屋の中にあるカタクチの実を調べた。すると、あることに気づいた。そうか、そうだったのか。ならば犯人は……。


「騎士様がいらっしゃったぞ!」


 時間が来てしまったようだ。


「サーレさん。犯人は分かりましたかな?」

「はい……たぶん」

「たぶん?」


 自信はない。しかし、この人だろうというのはいる。


「では聞かせて貰えますかな?」

「はい。まず犯人の動機ですが、このカタクチの実です」

「カタクチの実?」

「カタクチの実は、殻が硬く割るのは難しいです。しかし、ある剥き方をすれば簡単に剥けるんです」


 私が実践すると、皆驚きの表情をする。


「このように、殻の繊維に沿って丁寧に切れば剥くことができるんです」


 剥いた身を五等分にして村長に差し出すと、顔をしかめた。


「これは食べられるのですかな?」

「はい」


 セレナも物欲しそうに見ていたので、渡した。身を受け取るやいなや食し始めたので村長も連れて食す。


「美味しい」

「これは美味しいですな」


 騎士達は、それで? という顔をしたので続ける。


「つまり、殺されたレオンさんはこの調理法を発見したのです。それが殺される原因になりました」

「どういうことです?」


 騎士が問う。


「この木の実は武器として流通しています。売ろうとすれば一人一個売れるんです。ですが、身にしてしまえば五人分は賄うことができるので、五人に一個売れることになります。そうすれば、値段も下がってしまうでしょう」


 騎士や村人は、そうか! という表情をする。


「そうなれば、村の収入も減ってしまう。これに反対した人がレオンさんを殺したんです」

「それで、犯人は誰なんですか?」

「犯人はカタクチの実を食用として流通させたくない人物、サキナさんあなたです」


 名指しされたサキナさんは狼狽する。


「わ、わたしですか? わたしは犯人ではありません」

「では持ち物を見せてくれませんか?」


 サキナさんはしぶしぶ持ち物を出した。すると、包丁が出てきた。


「こ、これは拾ったんです」


 まぁ、そう主張するよね。ここからだ。うまくいくか分からないけど。


「では、包丁の指紋を検出しましょう」

「指紋?」


 この世界では、指紋を知らないようだった。


「指紋というのは、手の指にある模様です。これは人それぞれ違うんです」

「そうなのか?」


 私は無限収納袋から小麦粉を取り出す。この小麦粉を包丁の柄に振りかける。余分な粉を落とせば指紋が浮き出る。

『科警研の男』というドラマでやっていた知識が役に立った。

 本来なら、セロハンテープで指紋を剥がし取るのだが、この世界にそんな物はないので、反転したままだ。


「この指紋は反転していますが、私の指紋とは形が違います」

「本当だ」

「では、サキナさんの指紋はどうでしょう」


 私はサキナさんの手首を掴み、指を見る。すると一致した。


「こ、これは……」


 サキナさんはうなだれた。


「レオンさんから実を捌く方法を聞いたとき、まずいと思いました。私は農業大臣です。この村の特産物であるカタクチの実の収益を減らす訳にはいかなかったんです。だからレオンさんを殺し、盗賊の犯行に見せかけるためにお金を盗ったんです」


 犯行を自白したサキナさんは、騎士に連れられていった。


「やったねサーレちゃん」


 セレナが喜んでいる。


「すみません、サーレ様。犯人扱いしてしまって」


 村長が謝る。


「別にいいですよ」

「一つお願いがあるのですが……」


 村長のお願いとは、村人に料理を教えて欲しいとのことだった。料理人がいなくなってしまったので、料理をする人がいないのだろう。


 私は村人に料理を教えた。意外にも物覚えが良い。これで、この村の料理はマシになると思う。


 ちなみに、カタクチの実の殻からは粘液が出ていて、身を取り出した後も再びくっつければ武器としても売れる。この粘液は、接着剤の役割を果たすのだ。もしサキナさんがこれを知っていれば、今回のような事件は起きなかっただろう。


 私達は採集したカタクチの実と引き換えに、村長から依頼達成の報酬として金貨三枚を貰った。そして村に別れを告げ、隣国へと馬車を走らせたのだった。

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