それはくろいおおきなけんでした
「ねえ、ネーヴェ。ぼくを殺す武器をあげる」
ジェーロは大きな黒い剣を差し出して言いました。全ての光を吸い込むような、ジェーロに似たまっ黒な剣です。
「これがジェーロを殺す剣?」
ネーヴェは感情を殺してジェーロに問いかけました。そうしなければ泣いてしまいそうだったのです。ジェーロを殺す時のことなんてネーヴェはこれっぽっちも考えたくなかったのです。
「そうなんだ! この剣は人がいいことをしたら白くなるように作ったんだ。だからこれがまっ白になった時にぼくを殺してよ」
ジェーロはむじゃきにその剣の説明をはじめます。人が戦争を止めるための鍵。それがこの剣だったのです。戦争がなくなれば悪魔を殺せるのだと言うためだけに作られた剣。ジェーロというにせものの悪魔を殺すためのほんとうの剣です。
「この剣がまっ白になれば戦争はなくなるのね」
感情を殺したままネーヴェは笑って応えます。そうでもしないと泣いてしまいそうだったのです。死なないでと叫びだしてしまいそうだったのです。
「そうだよ、ネーヴェ。だからその時はぼくのこと思いっきり刺してね」
ジェーロは笑顔で自分を殺す時のことを話します。ジェーロにとって世界が平和になるなら自分の死なんてなんでもないからです。
「わかったわ、ジェーロ。きっと苦しませないようにするわ」
ネーヴェは諦めたように笑みを浮かべます。最後の時について話すのはもう止めることができないのです。どれだけそれが嫌なことでも、ネーヴェはジェーロの願いを止められません。ネーヴェはまた一つ終わりが近づいてきたのを感じていました。
それは傲慢な願いでした。
それは諦観した祈りでした。