「このけんはみんながいいこになればしろくひかります
「ねえ、ネーヴェ。ぼく、うまく悪魔のふりができたかな」
ジェーロはにせものの角を外しながら言いました。たくさんの人を怖がらせるために、ジェーロは絵本の悪魔になって人のいる街まで行ってきたのです。まっ黒な翼を広げて楽しそうに笑いながら、街の上を飛んできたのです。絵本の悪魔が笑いながら飛んでいたから、ジェーロも同じように笑いながら飛んだのです。
「ええ、とても上手だったわ。みんなジェーロをとても怖がっていたもの」
ネーヴェにとってそれは全然怖くないものでした。だってジェーロは本当に楽しそうに飛んでいただけなのです。世界の全てが幸いであると、この世の全てが美しいと、それを疑いもしない笑顔でした。ネーヴェが見た中で一番美しい笑顔でした。けれど人間はそれを怖がりました。ジェーロが願った通りに、ネーヴェが思った通りに、人間は悪魔になったジェーロを怖がりました。街に居た人々はジェーロの姿を見ただけで恐れ、怯え、逃げ惑いました。悪魔がやって来たのだと大きな声で叫んで、喚いて、泣いたのです。
「そっか! よかった! これでみんなぼくを一番怖いと思ってくれるかな?」
こんなむじゃきに喜ぶジェーロをどうして恐ろしいと思えるのでしょう。こんなに優しく笑うジェーロをどうして怖いと叫ぶのでしょう。その理由なんてネーヴェはとっくに知っていました。彼らがジェーロを見ていないからです。彼らはジェーロではなく悪魔を見ているのです。それがジェーロでなくても構わないのです。
「ええ、そうね。きっとジェーロが一番怖くなったわ」
けれどこんなことをやるのはジェーロだけだとネーヴェはわかっていました。誰でもいい悪魔なのに、誰でもよくないジェーロしかならないのです。そうやって誰でもよくないものから、大事なものから消えていくのだと、ネーヴェはもうわかっていました。
この世界が美しいと疑いませんでした。
この世界が美しくないと知っていました。




