六十三日目
なんとか任務を果たした。塔主様からお預かりしていた晶石を朝顔の宮にお届けすることができた。
朝から頑張ってお化粧して髪を整えて、一番いい服を着て靴も忘れないように履き替えて、商館長と何人かの職員に付き添われて四季の宮に赴いた。
四季の宮では季節によって中心になる庭が変わるそうで、今はまさに夏の庭の季節、しかも朝顔の宮は夏の庭の代表、夏の王を務めておられる宮だ。どう考えてもお忙しいし、長く時間を割いていただくのは無理だろうと思っていたのだけど、相当長い謁見時間を頂いただけでなく、夕べの正餐のお招きにまで預かってしまった。
正装、一着しかないんだけどどうしよう。まあ旅の途中だし、髪型だけでもなんとかして良しとしてもらおう。
まずお会いして早々に晶石をお渡しした。
中身が何なのかは知らないけれど、喜んでおいでのようだった。それから旅のねぎらいを頂いた。海賊退治の話までご存知だったのには冷や汗をかいた。
王のお話では、あの海賊は流れ者で地元の者ではなかったらしい。海賊の根拠地にされていた島もひどい有様だったそうだ。
「そなたの行いに救われた者は少なくありませぬ。他の船だけでなく、その島の者も多く救ったのですから。」
褒めていただけるのは嬉しいけど、結局かかってきた火の粉を払っただけの事で、それ程考えて行動したわけじゃなかったので、面映いどころの話じゃなかった。
それよりも驚くべきは王の耳の速さだ。
言っちゃなんだけど海賊なんてものすごく珍しいってわけでもない。あそこまで残虐な連中はめったに見ないだろうけど、通行料取る程度の海賊ならお約束みたいなものだ。それをすでにここまで詳細に知っておられるのはすごいと思う。
長いとは言っても一般の謁見時間の中での話だったので、そこそこのところで引き上げて、一度商館に帰ってきた。
これから商館長たちと相談して正餐の準備をしなくちゃいけない。
この旅はなんか不思議に大袈裟になることが多くて、ちょっと困る。
商館は外交交渉のサポートを務めることも多いです。アジャが一人で使いとして派遣されたのも一つにはその為で、当然商館がサポートに入ります。
もちろん国としての正式の使節団は多人数ですが、其の場合も補助を務めます。
アジャが一人で使者として成り立っているもう一つの理由は、上級魔術師であることです。
貴族や聖職者、将軍などとは違い、もともと単独行動の多いとされる上級魔術師は、従者なしでも威儀にかかわらないものと考えられています。
一部の特殊な武芸者、芸能者なども同じ扱いですが、格式は一般的に上級魔術師が上です。




