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リリカシア=アジャ-アズライアの日記  作者: 真夜中 緒
航海編
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六十一日目

 朝早くに長々お世話になった船を下りて、川船に乗った。

 川船はペタンとした形の平たい船で、一部に簡単な屋根をかけて乗客の乗り込むところを作ってある。屋根の下には、植物の硬い茎を並べて糸でとめて作ってある日よけがぐるりと釣ってあった。簾というのだそうだ。簾はごく粗く作ってあるので、下ろしてあっても楽に外が見える。

 屋根の下の床にはやはり植物を糸で編んだ筵という敷物が敷かれていて、そのまま座るようになっていた。

 面白いのは細長い板に足をつけたようなものが一人に一つづつあって、寄りかかれるようになっていることだ。椅子の肘掛けだけのようなものらしい。

 船長の話では、貸し切りなどにする「良い船」にしかついていない設備で、しきみとかいうそうだ。

 これがすごく楽だった。

 床に座ってくつろぐなら必須の装備と言っていいと思う。

 船を操るのは驚いたことに船頭ただ一人だ。

 上りなのに川にさおをさして長閑に船を進められるのは、魔術的な何かなのだろうと見ていると、川面に妙なものが見えた。

 さざ波が一瞬、魚のような人のような鳥のような形を作る。

 見間違いかと思ってそちらを見ると、視界の隅でまた形があらわれる。

 そうして姿を追っているうちに唐突に気付いた。

 船を取り巻いて彼らが現れていることに。

 どういう仕組みかはわからないけれど、船が船頭一人で河を上るのは彼らが関係しているみたい。

 いや、川面だけでなく、簾を通して吹いてくる風にも姿が結び、解けてゆく。

 なんだか不思議に美しくて、嫌な感じはしない光景だった。

 龍の尾の付け根辺りまでの暑さに比べると、そもそもの暑さが結構、緩んだ感じだけど、それにしてもこの船は涼しい。

 日差しは屋根と簾がしっかり遮って、簾を通る風は心地よい。

 ちょっと眠くなってきそうなぐらいだ。

 「さすが船長、よその船乗ってまで船漕いでるよ。」

 ぼそっと誰かがつぶやいたので振り返ると、船長が難しい顔で眠り込みそうになっていたので笑ってしまった。 

 食べるものや飲み物は料理番が何やかやと持たせてくれたのでそれを食べた。見ると船頭もおむすびを齧りながら竿を操っている時もあった。船は緩やかな流れを下るがごとく、上ってゆく。

 船頭にも干し肉や干した果物を差し入れると、喜んでくれた。

 日が暮れる頃神威についた。

 神威にはリカドの商館があるので、神威での宿はそこになる。

 部屋につくと案外疲れているのに気が付いた。本当に穏やかでのんびりした道中だったんだけど。

 お風呂があるということなので、入ったらさっさと寝ようと思う。

 

 商館とは貿易相手国に置く、主に通商関係の交渉や、自国の商人に便宜を図る施設です。

 宿泊施設としての機能もあり、自国民の滞在のためにかつようされます。

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