百五日目
昨日の足湯がきいたのか、今日は調子がいい。
朝は今日もパンを食べた。アジャ蜜をほんの少し塗って。
朝の甘いものってすごく元気が出る気がする。
旅も六日目だから体もちょっと慣れてきているのかもしれない。
龍の鏡からずっと街道の左手に見えていた山並みが随分と高くなってきている。龍の背骨と呼ばれている山脈だ。
背骨とは言っても実際には三筋の山脈があるようで、いま左に見えているのはその中の中央の山脈。右側の山脈はもう少し北から始まっている。
龍の背骨からは大きな川が二筋流れ出しているが、そのうちの一筋は二十六番宿と二十七番宿の間にあった。
昼頃から雨が降った。
大した雨ではなかったけれど、どうしても道ははかどりにくくなる。衣類にも雨弾きの術はかけてあるけれど、頭だって濡れるしなんの雨具もつけないのはかえって目立つので、二十五番で笠を買った。
傘というのは浅い山形になるように作られた帽子のようなもので、雨よけ日よけになっている。結構大きさもあり邪魔な気もしたので今まで持っていなかったのだけど、被ってみて認識を改めた。
思っていたよりかなり軽い。布の紐で顎のところに縛り止めるのだけど、かなりしっかり止まる。それから風もよく通る。
笠と雨弾きの術のおかげで快適に歩くことができた。
二十六番宿を出たところにある川はなかなか大きかった。
川もだけど川原が広い。
砂利や小石に覆われた川原は、川の両側に丁度川の幅ほどに広がっている。この川は普段は広い割に浅くて馬でも渡れるのだけど、雨で水がすぐ増えるそうで、そうなると川どめになってしまう。橋は流されやすいそうなのでかかっておらず、水が減るまではどうしようもない。
実際、神威の西の宿場に張り出されていた情報では、川どめがかかっていた。
幸い、雨はまだ降り始めでしかも大した雨ではなかったので、素直に渡ることができた。
止まっていない時の川には舟橋がかけてある。
平底の船を並べてつなぎ、板をのせて渡れるようにしたもので、二十六番から二十七番へ向かうものと、その逆と、それから特別に急ぐとき用の三本がかけてあった。
渡り賃銅貨五枚を払って渡った。
しっかり繋いであるようで、それほど揺れるということもなく渡り終えた。
川を渡るとすぐに二十七番宿だ。
二十六番と二十七番には、神威の西の宿場にあったような地図を壁に描いた店があった。薄板がたくさん刺してあるのも同じ。
二十七番の店に入った。
茸の汁を頼んですすってると、結構小腹がすいているのに気づいたので焼きおむすびも頼んだ。
給仕の娘の話ではここのところ次の川の川どめの話はないというが、なにせ雨は増えてくる頃合いなので何とも言えないそうだ。一度山の方に入る道からなら川を簡単に越えられるらしいが山中の悪路なのですすめられないと言われた。
特に急ぐ旅でもないし、普通に街道を進む方が良さそうだ。
二十八番まで歩いてから宿をとった。
歩く内に雨は本格的に降り出して、宿に入ったときには土砂降りになっていた。
夏だからいいけれど寒い季節だったら、濡れはしなくても冷えて結構つらそうな気がする。外に出るのも億劫だったので、夕食はパンに炙った干し肉とチーズを挟んで食べた。