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リリカシア=アジャ-アズライアの日記  作者: 真夜中 緒
龍の島 街道編
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百四日目

 朝からちょっと豪製に、パンに干し肉とチーズをのせて炙って食べた。晶屋においておけば傷みにくいとは言っても、パンもチーズもいつまでもとっておけるわけではないし、ちょっとそういうものが食べたかったので。アジャの葉茶もいれると、まるっきりリカド風の朝食になる。どう考えても匂いが異質なのはわかっていたので、晶屋の中で調理も食事も済ませた。

 手持の荷物の中にシージェイさんたちに貰った疲労がとれるという飴を忍ばせる。それからいつもの月光糖と、竹筒の水。

 宿場で売っていた竹筒をもうひとつ買って、こちらには湿布に使う煎じ薬をいれた。匂いがしみてしまうから他の用途には使えなくなるだろうけど、これはもう専用にしておいてもいいと思う。それから手ぬぐいも何枚か用意した。

 それだけ考えて万全の準備の上で、急な下り坂に挑んだ。

 息が切れて苦しいのは上り坂だけど、足を痛めている時に怖いのはむしろ下り坂だ。

 昨日、心配をかけた女中に、お礼を言って早朝に宿を出た。

 予想通り膝や足首に結構な負担がかかった。

 草鞋は滑りにくいとは言っても、ゴロゴロ転がっている石を踏んで転がせば、もちろん普通に滑る。しかもこういう道では石の衝撃が直に足に来るようでかなり痛かった。

 不注意な者が転がした石が落ちてくるのも危ない。

 そういうことも考えて早朝に出発したのだけど、私は坂を下っていても、上る人も当然いるわけで、下るほどに石が落ちてきやすくなるのはどうしようもなかった。

 長い急な坂を下り終わると案の定、膝や足首が痛んでいた。

 この先もだらだらと麓まで下り坂が続くわけで、痛みはできるだけ和らげた方がいい。十九番まではすぐだけれど、いくらなんでも一日に一つしか宿場を進まないのはひどすぎる。

 それで、十九番宿の入り口の茶屋に入ってお茶を頼み、待っている間に手拭いに竹筒の煎じ薬を含ませて、痛む膝や足首に巻いた。ひんやりとした感触に痛みがすうっと軽くなる。

 思わず安堵のため息をつくと、他の客に声をかけられた。

 自前の痛み止めで湿布をしているところだと言うと、金を払うから分けてくれという。見ると転がってきた石が当たったとかで、左のくるぶしにひどい青あざができていた。

 銀貨一枚と言われたので手持ちで出来るだけの事はした。

 まず傷まわりを洗い、腫れどめの膏薬をそのへんから積んできた化膿どめの効果のある葉に塗りつけて傷に貼り付けた。

 手ぬぐいを一枚出してもらい、竹筒の煎じ薬を含ませて足首のまわりに巻いた。

 手当の間、身体を固くしてうめいていたのが、手拭いを巻き終わると目に見えて表情を和らげた。

 「すごいな、ずいぶん楽になった。助かったよ。」

 あとは膏薬を塗った葉を二枚貼り合わせたものを三組用意して、煎じ薬の薬草を紙にくるみ、それぞれの使い方を説明して手渡した。使い終わる頃には普通に歩けるはずだ。

 ただ、今日はもう歩かないほうがいい。足の怪我はこじらせるとやっかいだ。

 無理は禁物だと説明するとうなずいて、今日はもうここで宿をとると答えた。相当痛かったようだ。

 感謝の言葉と銀貨を受け取ると、私自身は次の宿場を目指して歩き出した。

 手当に時間は取られたけれど、結果的には私の足にも良かったようで、痛みはすっかり引いていた。

 十九番からはだらだらと下り坂が沢沿いに続く。

 二十一番まで進むと谷の出口だった。

 二十二番は結構大きな宿場だった。

 今までの宿場と違うのは、飯盛宿がやたら目立っていたことだ。飯盛女というのは食事を盛る女という意味だけど、実際は娼婦なのだそうで、当然そんな宿に私のような客はお呼びじゃない。とっとと通り過ぎて二十三番宿で宿を取った。

 二十二番が幾分猥雑なところもある繁華な宿場であることの反動のように、二十三番は落ち着いてこじんまりとした宿場だった。

 二十二番が飯盛宿で栄えている理由の一つは、温泉が出るかららしかったが、じつは二十三番にも温泉がある。湯船は男女混浴と言われたので諦めたが、足湯という足だけをつける湯船があって、こっちは楽しむことができた。

 足だけを湯につけているとじんわりと汗が吹き出してくる。ちょっと蒸し風呂と似た感じもする。

 足湯をする人は飲み物や食べ物を持ち込む人も多い。竹筒の水と月光糖をつまみながら、ゆっくりと楽しんだ。

 日が暮れると酒を持ち込む者が増えてきたので退散して、夕食を調達に出た。

 もっとも、足湯はどの宿も通りに面して作ってあるので、煮売り屋の方から出向いてくる。足湯でお酒を飲むものが多いせいか、つまみのようなおかずはよく売っていた。宿が世話するのは風呂と寝床だけの決まりのようだ。

豆腐の味噌漬けを見つけたので、それとこの間の残りの貝の甘辛煮と売っていたおむすびで夕食にした。

 

 魔術で手当すればいいようなものですが、魔術の手当は術者に負担がいきがちなので、応急処置以外にはあまり使いません。

 本格的な手当を行う場合は、専門の術者が複数で対応するのが普通です。

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