第二幕 陽の当たらない場所
「……ねぇ直哉。なんであんたセックスの時いつもシャツ脱がないの!?」
そこは、まるで陽の当たる場所を避けているかのように、どんよりとした無機質な部屋の中だった。
先ほどセックスを終えたばかりの女は、ベッドの上に足を組み不服そうにタバコをふかしていた。
部屋の片隅に唯一ある小さな窓から、少し差し込む朝の光も眩しいのか、その直哉と呼ばれる男は、女を無視してベッドから立ち上がりブラインドを閉める。
そして冷蔵庫からサンドイッチを取り出したかと思うと、器用に口にくわえながら、缶コーヒーを2本片手づつに持ち、ベッドに座る女に運んだ。
「飲めば……。」
一言だけ呟き、直哉はテレビのスイッチを入れた。
「いい加減にしてよ!!いつもそう!!あなたは私なんか愛してない!!ねぇ………直哉…私たち出逢ってもう3年でしょ!!もっと笑ってよ!!もっと喋ってよ!!」
「…………」
「……私…あなたの全てを知りたいの!!もっと自分を見せてよ!!私……あなたを誰よりも愛してるのよ!!」
「…………」
ヒステリックに興奮する女とは真逆に、直哉は表情を一切変えずに、見えてるのか見えてないのか分からないような力のない目で、テレビを見つめていた。
「ねぇ………直哉…。あなたの心には一体何があるの!? 何を見てるの!? ねぇ……教えてよ!! 私……こんなに直哉を愛してるのよ!!」
ついに女は泣きくずれ、テレビの前に座り込み蒼白く照らされた直哉の背中にもたれかかる。
朝のワイドショーが繰り広げられていた。
『車イスのシンデレラ……若きプリンスと結婚!!』
ワイドショーでは、朝比奈透と一ノ瀬由佳里の結婚記者会見を派手に報道していた。
―――!!!
さっきまで全く力を感じられなかった直哉の目が、その報道を目にしたとたん……
一瞬鋭くなったかと思うと小さく呟やいた。
「……結婚なんてブチ壊してやる!!」
何かに怒り…
何かに悲しんだような憂いの目が、次第に憎悪に満ちた眼差しに変わり、気付けは手に持っていたコーヒーの缶を握り潰していた。
「ははは!! 直哉あなたナニ!? そんな怖い顔してテレビ睨みつけてんのよ!! テレビの中の幸せそうな二人と自分を比べて嫉妬でもしてんの!?」
「…………」
「朝比奈透って言ったけ…その男!? 将来を約束された検察庁のエリートらしいよ!! どう考えたって、あたしらにはかなわない人生じゃん!! あんたは歌舞伎町の三流ホスト…そして私はしがないデリヘル嬢!! どうせこの先、あたしらは陽の当たる場所なんて歩けないんだから……!!」
女は、直哉の首に華奢な腕を回して直哉をからかう。
「…………」
「ねぇ……直哉…。もっとあたしを愛して…」
女は、そのまま直哉の耳元に顔を近ずけ、そっと囁く。
「……悪りぃ。沙織…。オレ…行かなきゃ!!」
直哉は、女の手を振り払い立ち上がったかと思うと、何かにとり憑かれたように、そそくさと着替えを始め出した。
その表情は、さっきまでの無表情だった直哉とはうって変わり、まるで死に急ぐような緊迫した険しい表情だった。
「……ちょッ!! 直哉あんたどこ行くのよ!!」
沙織と呼ばれた女は、直哉の背中を追いかけようとするが、今までみた事のなかった直哉の迫力に動けなくなってしまった。
直哉が家を出たあとの扉が閉まる音が、無機質な空間に虚しく響いた。
何が起こったか分からない沙織は、ただその部屋で呆然と独り立ちすくむしかなかった。
うす暗い部屋の中で、幸せそうな記者会見の模様を繰り広げるテレビだけが、蒼白く不気味な光を放っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「品川プリンスホテルまで……!! 忙しいで!!」
自分のアパートを出た後、直哉はすぐにタクシーに飛び乗った。
車内に容赦なく差し込んでくる外の陽の光が眩しいのか、大きな帽子をさらに深くかぶり、小さく屈みこんだ。
直哉を乗せたタクシーは、バックミラーに怒りで爆発しそうな鋭く尖った直哉の目を映し、品川へ向かい静かに走り出した。
さぁついに謎の男直哉が現れました!!
彼は一体……!?
次回直哉が由佳里に……!!
「………ちょっ…近づいてこないで!! 大声出すわよ!!」
直哉は両手をポケットに突っ込み、腰を屈めながら車イスの由佳里に目線を合わせじわじわと近づいてゆく。
第三幕 忍びよる影
お楽しみに!!




