訪問!前編 ─ しおりん家
久々に会った友達から、ほっぺにキスをされた。
動揺した私は、クッキーの金型と――溶けた冷やしクッキーを取り違えて渡しちゃった。
その結果、友達は泣き出しちゃって、教室をそのまま飛び出していった。
何とか和解?は出来たけど、お詫びに土曜日に友達の家に訪問することに。
・・・怒涛の月曜日だった。まだ、月曜日なのか。
昨日の出来事はお昼の時間帯。
私はその後、学校に帰った。
しおりはと言うと「泣いた姿を見せてしまったのが恥ずかしい」という理由でそのまま公園に残るらしい。
「放課後までずっと壁を向いてブランコに乗ってるの?」
「出口側に向いて使用人に見つかったら連れ戻されてしまうもの」
別にどっち向いていても同じだと思う。
というか使用人とかいるんだ?
「でも、どっちにしろ学校から急に出て行ったとなると既に家に連絡が言ってるんじゃないの?」
「それに関しては問題ありませんわ。先に手を打ってますもの」
用意周到。学校に連絡しておいたとかかな。
それならいいか。いいのか?
「・・・っていうことがあったんだよ」
「しおりちゃんって、あのしおりちゃん?」
お風呂上りに裸でソファーに座ってアイスを食べてる妹が此方を向いた。
我が妹はどこかでしおりと会ったことあったんだっけ。
「なんでしおりを知ってるの?」
「昔よく家に来てた子でしょ?あの大人しそうな」
そんなことあったっけ。
・・・よく覚えてるな。でも大人しかったっけ。
まるでしおらしいような言いぶり。
全然しおらしくなかったけど。
「それで土曜日にしおりの家に行くことになったんだよ」
「何がそれでなのか全く分からなかったけど、ふうん」
アイスに夢中で興味なさそう。
「お姉ちゃんは昔からデリカシーとか足りてないからねー」
「ウッ・・・」
「お詫びの品でも持ってったら?今度は“溶けてない冷やしクッキー”を」
「ウッ・・・」
グサグサと容赦なく刺してくるな。
でもそうだ。
今度はちゃんと冷やしてあるリストリエのクッキーを持っていこう。
次の怒涛の月曜の夜が更け、次の日。
学校に着いて上履きに履き替え、私の教室がある三階へ向かうと、教室の前で叶と複数の生徒が何やら揉み合っていた。いつも叶を囲っている面子じゃないのが気になる。
「だーかーらーまだむぎは来てないってば~!」
聞き間違いじゃなければ、いま私の名前を呼びました?
叶がこちらに気づいて「あ!むぎ!」と叫んだ。
それを合図に、叶を囲んでいた集団がいっせいにこちらを向く。
「佐藤さんだ」
「お菓子研究会の」
「対決するって本当ですか!?」
知らない顔が半分以上いる。
他のクラスまで話が届いてるの?
昨日の今日で、何がどうなってそうなった。
「ちょ、ちょっと待って。何の話?」
「何のって、転校生の卯月さんとお菓子対決するんでしょ!」
「えっ、対決?」
そう言えば昨日、しおりから宣戦布告されたんだった。
しおりを泣かせてしまったごたごたでスッカリ頭から抜けていた!
「ん~~どうかな~~」
結局昨日しおりとのやり取りでお菓子対決の話が出てこなくてなぁなぁで終わってる。
「でも私、今はお菓子作れないし・・・」
「むぎは食べ専だもんね!」
そう。
今は食べる専門のお菓子マニアだ。
そんなやりとりに、叶を取り巻く生徒の一人が「じゃあなんでお菓子対決を挑まれたの?」と聞かれたけど、それは分かるような。分からないような。
「さ、さあ~なんでだろうね~・・・」
とモニョニョしていたら、取り巻きの一人が、私の奥を見て「おい、アレ」とを指した。
取り巻きが一斉にそちらの方を向いて、そちらの方に走り出す。
ようやく鞄を自席に置ける。と安堵してたらその後ろから大きな声で「私、卯月しおりは佐藤こむぎさんと勝負を行いますわ!」と高らかな勝負宣言が聴こえた。
勝負の件はチャラになったんじゃないんだ・・・。
そんな予感はしてたけど。
「むぎも朝から大変だねー」と叶はどこか他人事。
いや、他人事ではあるんだけど、数少ない友人じゃん?
「でも昨日の今日でこんなに広まる?」
「そりゃあ、菓子野先生の独断で授業の時間を卯月さんの質問大会に回したでしょ?」
「うん」
「それにクラスの熱狂とむぎの絶叫」
「うん・・・」
「トドメに転入初日の女の子は即早退」
「噂になるには満点ということだ」
「そゆこと。そこからはお昼にむぎが出てったあたりで一気に広まったって訳」
「一応聞いておくけど叶は広めてないよね?」
「少しだけ・・・うちの放送部の子に話したくらいだ・・・よ?」
目を逸らしてて大分疑わしいけど・・・。
「おはようございます。こむぎさん」
先程の群衆を捌き切ったしおりが朝の挨拶をしてきた。
「おはよう、しおり」
「おはよう、卯月さん!」
叶が勢いよく待ってましたと飛び出した。
黒い双眸を丸めているしおり。
初めて見る驚きの表情。
「私、九重叶!むぎの親友!九重だと呼び辛いと思うから叶でいいよ!」
「叶さんですね。よろしくお願いします」
礼儀正しくお辞儀をするしおり。
口調からもそうだけど、多分育ちが良いのかな。
「そ!よろしくね!」とカラッとした声で叶はしおりの手を取った。
「あ。そう言えば、しおりの席は私のうし・・・」
昨日しおりは自己紹介の後に早退をキメる不良ムーブをしたから自席が分らないと思うけど、あの後で先生からしおりの席を聞いた。だから、それを伝えようと思っていたんだけど・・・しおりは既に自席に座っていた。なんで?
「私の後ろだよ」
「え、ええ」
頭の中に引っかかる些細な違和感を覚えたけど、
「はーい。時間でーす」と朝のホームルームに入ってきた先生の掛け声と共にどこかへ消え去った。




