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再会 ─ 帰宅部、終了のお知らせ

お菓子を食べること以外に特技のない高校一年生・佐藤こむぎ。

入りたかった部活は廃部、帰宅部は禁止、親の召喚はされたくない。

詰んでいる。完全に詰んでいる。

そんな最悪な春のある夕暮れ、

公園の富士山のてっぺんに、見覚えのある女の子が現れた。

 「今週中に部活を決めろ、ねえ・・・」

私は公園のベンチで、盛大に溜息をついた。

手には1枚のプリント。


 氏名「佐藤こむぎ」

 部活入部希望の欄「帰宅部」


4月の初週に入部希望調査の紙をこれで提出した。

担任の菓子野先生から毎日「帰宅部は選択肢にないので、もう一度書き直してきてください」と言われるようになり、それを1週間ほど無視し続けたところで「一応ルールになっていて・・・ご両親を召喚しなくてはならなくなるので・・・」とお願いから脅迫に変わっていた。


私の学校は帰宅部禁止、基本的に部活動に入らなくてはならない。

入る高校を間違えたと思う。


生徒手帳に書かれているスカートの丈を制限する規則よりどこにも載ってない謎のルールの方がよっぽど厳しい。あっちは最悪バレなきゃいいけど、こっちは逃げ場がない。


中学の同級生からは、バスケだのテニスだの誘われている。運動は嫌いじゃない。

でも、縦社会・・・あの生まれたのが先という相手にひたすら縦に頷くしかない社会。

あれは無理。苦手。


かといって文化部や研究会に入る自分は想像もつかない。


フルートを吹くなんて器用なことできない。


オカ研(オカ研以外の研究会を知らない)に入ったら心霊スポット巡りとかしなきゃいけないのかな?

それもできない。幽霊は怖い。


私に出来るのはほんの少し運動が出来る事と、お菓子を食べる事。


「・・・詰んでない?」


誰に言うでもなく呟く。まだ冷たい春の風が私を撫でる。

背筋を伸ばし、ベンチの背もたれに身体を預けた。

空を見上げて、はぁ。ともう何度目か分からない溜息。


「本当は私だって入りたい部活はあったんだけどなぁ~!」


往生際悪くそんなことをまだ言っているけど、今となっては考えても意味のない事だ。

はぁ、私の入りたかった部活が無くなっているとか知らないし・・・


諦めていい加減に入る部活を考えるか。親の召喚なんてそれこそされたくないし・・・

などと考えていると、公園で遊んでいた低学年高学年混合の小学生集団はどうやら門限が来たらしく、リーダーポジションと思われる子の「帰ろ帰ろ~」という声で解散ムード。


私も身体を冷やしたくないしそろそろ帰ろうかな。

明日のことは明日の私が考えよう!


ベンチに預けていた身体を勢いよく正面に戻し、帰ろうという気持ちを固めていた。

その時。


タタタッ!


視界の端から勢い良く動く"何か"を捉えた。

小学生達が帰って人影が消えた公園から突如発する意識外の音に一瞬、イヤな予感が過る。


赤く染まった、富士山みたいなあの遊具。

そのてっぺんに、さっきまで誰もいなかったはずの場所に、人がいた。


やや遠くからでも見える、鮮やかな髪色。

気がついたら、指が動いていた。


親指と人差し指で、輪を作る。ポテコより少し大きいくらいの輪。

それを左目に当てて、覗く。


髪の毛は私と対照的に茶色で明るめ。肩まで伸ばしてある。

風に揺れる髪が、沈みかけた太陽の光を掴んだ。


――女の子だ。うちの高校の制服を着ている。


彼女の手元で、何かが鈍く光る。

小さな、金属みたいなもの。


そして彼女は、その場でゆっくりと回りを観察するように回り始めた。


アイシングみたいにほどける桜。

グラニュー糖みたいにきらめく砂場。

焦がしキャラメルの夕陽。

泡立てたメレンゲみたいな雲。


それら全部を、彼女は閉じ込めている。

私の見ている景色と、同じはずなのに。


どこか、違って見えた。


──あ。


目が合った。

私のフィルターが彼女を捉え、彼女のフィルターもまた、こちらをまっすぐ捉えていた。


胸の奥で、パチパチと何かが弾ける。

甘くて、少しだけ痛い音。

風が吹いた。

固まっていた砂糖がほどけるみたいに、世界がやわらいだ。

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