その6 執事補佐は見ていた。
お料理は計画から片付けまでがお料理です。
リヴゴーシュ家には、現在2人のお嬢様がいます。どちらも気さくで、使用人に横柄な態度を取ることはなく、食事の好き嫌いもしません。非常に令嬢らしく、また万人に好感を抱かれるお嬢様方だと思います。…少し変わってらっしゃるのは否めませんが。
と申しますのは、今、調理場の隅で焼き串に鼻歌を歌いながら食材を刺している下のお嬢様にどうお声掛けすべきか迷っているからです。
ディアナ様は、かれこれ、1時間は調理場にいらっしゃいます。
「焼き串がお気に召したらしい。賄を作ってくれると張り切ってらっしゃる。」
料理長がいい笑顔です。
いえ、そういうことではなく。
あ、ディアナ様が食材庫に入っていった。
「あ、お嬢様!それは使わないでください!明日の晩餐用の仕込みです!」
「えー?いいお肉つかいたいのに。」
「賄は余ってる食材で作るんですよ。ここのは余りじゃないです。」
「えー…みんなにも美味しいのがいいと思うのに。」
あ、とぼとぼと出てきた。
「ディアナ様!余り物で料理ができるようになるのが1人前っっすよ!」
スタッフの一人が笑っている。
「あ。じゃあ!」
ん?
「私たちの夕飯の予算を倍にしたらいいんですね!」
ごっ!
え?
何か鈍い音がしましたが。
……………………………………………………………………………………………………………奥様!?
「ディー。」
「お母様…いたいです…」
奥様の微笑みが怖い。
この微笑み、絶対、熊をも倒せる。
「お嬢様、無駄遣いは誰も喜びませんよ。」
奥様に微笑まれ=睨まれ、カタカタ震えるお嬢様に料理長が優しく語りかけます。
ゴツい料理長の背中に後光でも見えるかのように、うるうるプルプルな視線を向けたお嬢様は、
「後で私の部屋に来なさい。」
と去っていかれる奥様に見るも哀れなくらいシオシオに。
その後、厨房のスタッフが食材の時価、献立計画、予算との関係などを大まかにレクチャーし、お嬢様は首振り人形のようにコクコクこくこくしながら聞いておられました。
途中からは時折、抜けて行ってたようですので、後から奥様主催のお勉強で補填させられるでしょう。
つまり、何が言いたいかと言うと。
頑張れ、ディアナ様!!!!
です。
はい。
ファイト!
執事補佐さんは、たぶんケビンさんというお名前な気がする。